強く揺さぶられる男です
俺は自宅に帰ってから、ベッドの上でずっと同じことを考え続けている...。
とりあえず、今はもうそれ以外のことを、俺の頭が考えられなくなってしまっている。そしてそれは別に、今日初めて会った華怜のマネージャーがどうのこうのとか、そういう話ではない。
「......」
駄目だ。もう他のことが考えられない。
あらためて、これはもう、そういうことだとしか...思えない。
現に今日の彼女の反応も何もかも、そういう目線で見てしまってもう...
そう。俺がずっと頭から離れずにさっきから考えてしまっていることは彼女、大塚華怜、本人のことだ。
例えば、彼女は俺のことを、当たり前のように最近はそう呼んでくるが、華怜に「颯ちゃん」とあの表情で呼ばれたりすると、どうしても、そのたびに心臓の鼓動が早くなってしまっている自分がいる。
「......」
それに、あの楽しそうな表情も、嬉しい時にする仕草も、笑顔も、全部あの時の俺の頭に残っていたものだ。それをまた、あらためて強く認識して...というか何と言うか
もちろん、それ以外にも色々と思うことはあるのだが...。
やっぱり、先日の彼女のあの行動があまりにも大きい。
まあ、一言で言うと、先日に彼女から渡された、動画撮影の為に考えているという台本の案にはそれはもう色々と書かれていた...。
そう。そこには
俺と藤堂以外が絶対に知らないはずの、あの入れ替りの時の詳細がこと細かに色々と...書かれていた。
あくまで彼女は急にふと思いついた設定だと言っていたが、それはありえない。
期間も、なぜ入れ替わったのかも、何もかも、そこに書かれていたことが俺と藤堂のあの出来事にシンクロしすぎているのだから。
正直、今までもヒヤッとしたことは何度かあった。でも、今回のは違う。もう、完全にバレている。それはもう言い逃れのできないレベルで彼女に。
そして、もうその原因は考えてもひとつしか思いつかないし、おそらくそれが正解なのだろう。
藤堂。
あいつが、何を思ってかバラしやがった。
意味がわからない。
が、昨日のあいつの意味のわからない行動からも正直、合点がいく。
ただ、本当になら俺は今まで何のために...。藤堂、お前は一体何がしたい。
俺にはお前が本当にわからない。
今さらそんなことをしてお前に何の得があるんだ。
「......」
でも、わからないで言えば...。
俺は、今の自分自身がもっとわからない。
今までは何だかんだで、自分の心に蓋をずっとしてきたが、どうしてもあの頃の彼女との光景を際限なく思い出してしまっている自分が、今ここにいる...。
あれは俺と彼女との思い出ではない。
あくまで藤堂と彼女との思い出だった....はずだった。
でも、華怜。彼女はあらためて全てを知った上で、俺、風間颯太に...
あの、彼女から渡された台本に書いてあったデートのシュチュエーションなんかも全部俺の記憶の中にある出来事。そしてその時の心情なんかもあそこには書かれていて。
駄目だ。本当に心臓の鼓動が止まらない。
別に、彼女本人から、あれ以降そのことについて直接俺に何か問いただしてくるわけでもない。
だから、もしかしたら放っておいたらまた有耶無耶にできるのかもしれない。
でも...。
多分、俺の方が無理だ。
今日だって、何とか踏みとどまったが、帰り際に俺はもう、喉元まで...。
おそらく、次に彼女、華怜と顔をあわせた時に俺は自分からあの時の...。
って、そんなことを考えているとスマホにはlineのメッセージがきた通知...。
そしてその送り主は、今まさに考えていた彼女、大塚華怜...。
『明日、放課後に私の家で打ち合わせがしたいです』




