違和感です。
今日は何かがいつもと違う。朝からずっと何かがおかしい。
別に天気は快晴、俺自身の体調もいつも通りで何ら変わりない。教室の雰囲気自体も、別に何ら変わりはないはずなのだが...
「ねぇ、颯ちゃん。ごめん。次の授業の宿題とか...って」
「あぁ、いいよ。環奈、昨日忙しかったもんな」
「ありがと!颯ちゃん、絶対にこのお返しはするからね。ほんとありがとう!」
これも、割と普通の光景。環奈がぴょんぴょんと俺の解いてきた宿題を受け取って喜んでいる。
そう、だから俺が違和感を感じているのはもっと別のこと...。
まず、あいつ。
藤堂、今日のあいつは一体何がしたいんだ...。何があったんだ。
朝から目が合えば、俺の顔を嘗め回すようにニヤニヤニヤニヤと気持ちが悪い...。
特に朝一で、下駄箱でいきなり「残念だったな。いい夢見れたか?」とか、あのニヤケ顔で言われた時には心底ゾっとした。そう。気持ちが悪すぎて。
意味がわからない。
とりあえず、機嫌は良いのだろう。休み時間である今もいつにもまして騒がしくてうるさい。
何だ? 危ない薬でもやっているのか?
って、またこっちを見てニヤニヤと...。
何だよあのムカつく表情。ほんと腹が立って仕方がない。まぁ、あいつと関わっても碌なことが起きないことはわかっている。無視以外に選択肢はない。
「...」
で、もう一人、俺が見る限りではいつもと少し様子が違う人間がいる。
まあ、こっちは別に嫌な違和感ではないのだが、一体どうしたのだろうか。何かものすごく大きな仕事でも決まったか? 確かに、今の華怜の勢いであれば、そろそろそういう仕事が舞い込んできてもおかしくはない気がする。
そう。俺の中のもうひとつの違和感は華怜。こっちは藤堂と違って、良い意味でいつにも増して明るいと言うか元気な感じ。
朝も、お手洗いを済ませて廊下を歩いていると、後ろから「颯ちゃん!」なんて声が聞こえてくるから環奈だと思って振り返ったら、何故かそこにいたのは彼女、大塚華怜。
何か用かと聞いても、「ふふっ、別にー」と何があったか嬉しそうな顔をしている彼女から、その様な、あまりよくわからない回答が返ってきただけ。そこからも意味はわからないが、無言で微笑みながら俺の顔をジロジロと見つめてきたり、「本当に嬉しい」と、俺にいきなり満面の笑みで伝えて来たりと。
本当に何かはよくはわからないが、とりあえず今日の華怜は気持ちが超がつくほど浮ついてることだけは確かなのだろう。
まあ、本当に嬉しいという、その言葉からしても、やはり仕事関係でかなり良い仕事が決まった説が濃厚な気はする。そして、その点については素直にいいことだとは思う。
特に、最近は彼女もまた、すっかり明るくはなっていたのだが、以前の俺の知っている華怜に比べるとやはり少し影が見えると言うか、何と言うか。何か違和感はずっと感じていたので、いい意味で久しぶりに彼女のこの感じが見れて、個人的には勝手にすっきりした気分になっていたりもする。
とりあえず、良いのか悪いのかはわからないが、今日の彼女は俺が、あいつ、藤堂の中にいた時の華怜と同じ顔をしている気がして、色んな意味で懐かしさを感じてしまう。
まあ、だからと言って俺には何の関係も、もうないのだけれどな。
最近はもう変な勘繰りを彼女が以前ほど俺に入れてくることもなくなったし...。
別に深い意味はないけども、今も視界に入る彼女を見て俺はぼんやりと思ってしまう。
やっぱり客観的に見て可愛のは可愛いよな...と。本当に。
性格も悪くなく、むしろいい。そして明るい。そんな彼女を周りが知れば知るほど、それは仕事もどんどん決まっていくのだろう。
今日みたいな感じの華怜にグイグイ来られると俺も色々ちょっと本当にやばいかもしれないな...。
なんて、それこそ、もうありえないであろうことを考えている俺も...普通に気持ちが悪い。
「.....」
はぁ、とりあえず、腹が減っているからこんな意味のないことを俺は考えてしまっているのだろう。
まだなのか、昼ごはんの時間は...。




