リュックの奥の爆弾です?
「ふふっ、颯ちゃんには良いリハビリだね」
「お、おう。そうだな」
今、俺の隣で楽しそうに微笑んでいる女性は春風環奈。以前から一緒に行くことを予定していた映画館に、色々と寄り道をしながら二人で向かっている途中。
「はい。颯ちゃん。飲ませてあげる。このスムージー美味しいよ」
「わ、悪いな。ありがとう」
「ね!美味しいでしょ」
「おう、美味しい」
そう。まさかだったが、朝起きてすぐ、女性のパンツを握りしめていた俺の部屋の扉からあの時に姿を現したのは
紗弥加ではなく隣の家に住む幼馴染のこの環奈だった。
どちらにせよ反射的にパンツは懐に隠して事なきを得たが、久しぶりだ。あんなにゾッと顔が青ざめる体験をしたのは。いや、事なきは得ていないな。
だって今もそのヒヤヒヤは現在進行形で継続中......。
なぜなら今も肝心のブツは俺のリュックの奥深くにあるから.......。
いや、仕方がないじゃないか。あの場面で環奈が現れるのも想定外だし、あの時間に現れるのも想定外。あそこにパンツがあるのも想定外だし、そもそも昨晩に紗弥加が家に来たこと自体が大想定外。
家に置いていくわけにもいかないし、もうどうしたらいいのかわからずにとりあえずこういう状況。
「でも、昨日の西園寺さんかなり大変だったみたいだね。びっくりしたよ。さっき投稿された動画を見る限りもう大丈夫そうだけど、家を追い出されてたんだって。ちょうど私の裏で配信してたみたいだから気づかなかったよ」
「そ、そうなんだ」
「もう昨日の動画のアーカイブも残ってないみたいだし、よくわからないけど追い出されてどうしたんだろ。友達の家に泊まったのかな。颯ちゃんは何か知ってる?」
「い、いや知らないなぁ、ほら、き、昨日俺、環奈の配信見てたし.......」
「え! 見てくれてたの颯ちゃん。嬉しい!!! ふふっ、そっか。何だかんだで見てくれてるんだ。本当に嬉しい!」
「お、おう」
嘘は言っていない。実際に見ることは見た。
何だかんだで環奈の動画は見るタイミングはどうあれ全て見てはいる。環奈はやはり空手以外の面では昔から色々とおっちょこちょいすぎて心配だからな。
にしても、今も環奈が口にしたが、そう。まさかの紗弥加はもう知らない間に自分の家に戻ったみたい。ますます意味がわからない。いや、家に戻れたことは普通に良かったのだろうが、何故何も言わずに消える。それもあの下着だけを残して......。
本当に意味がわからない。俺はどうしたらいい。lineをして聞くにしたってこんなのどうすればいい。
パンツ忘れた?なんて到底聞けないし、そ、そもそもこれ本当に紗弥加の......なのか? 普通忘れないし、忘れたらわかるよな。でも状況的にはそうとしか......。
「ふふっ、颯ちゃん。ごめん。ちょっとだけお手洗いにいってくるね。一人で勝手にどこかにいったりしたら駄目だからね!」
「行かねぇよ。俺は子供か」
でも、マジで俺はこのブツの処理をどう.....。捨てるわけにも行かないし。
って、そうだ。そういえばさっき取れなかったけど広瀬さんから15分ぐらい前に着信があったんだった。
急いで折り返さないとな。一体なんだろうか。
とりあえず折り返しっと『はい!広瀬です』
って、出るの早......。
まだおそらく1回も鳴りきってない。すごい反射神経だな。
「あ、もしもし。さっき電話いただいていたみたいで。どうしました。広瀬さん」




