嫌な予感はだいたい当たります。
あぁ、午前中はほんと疲れちゃった。別のクラスの子には呼び出されて告白されちゃうし。来ていた他校の生徒にもナンパされまくり。
ふふっ、本当に疲れちゃった。
って、あの屋上の端にいるのって風間くん? って、あの顔。
絶対に今日これから自分がどうなるのかわかってない。
誰からもらったのか知らないけど呑気にベビーカステラなんて食べちゃって。相変わらず面白い。
でも、とうとう始まったわね。今回の文化祭のメインイベント。
絶対に面白いことになる。絶対に。
「俺には!!!!! この学校に!!!!!! 好きな人がいる!!!!!!!!!」
そして、今まさにそのメインイベントの始まりと共に藤堂蓮也がグラウンドにいる私たちに向かって屋上で叫んでいる光景
おかげで、グラウンドも彼のその第一声によって盛り上がりに盛り上がっていきなりお祭り状態。
まぁ、お祭り状態なのは大いに結構だし、嫌いではない。
ただ、ものすごく嫌な予感がするのは私だけ?
え? なぜ嫌な予感がするのかって?
それはだって、ここ最近のあの男の行動からもそうだけど。
現に屋上からグラウンドに向かって叫んでいる彼の目がそれはもうずっと私の方を....。
自信ありげな顔で一直線に......。
正直、頼むからここで私の名前は呼ばないで欲しいというのが本音。
ただ、これは本当にもう.....。
はぁ、面白い光景が見れる前に私に一仕事しろって言うの?
これが私の好きな人なら最高なんだろうけど。残念ながらまだ、出逢ってはいないのよね......。
本当に心の底から私のことをドキドキさせてくれる人。
ま、風間君とかならああ見えて良い男だし、かなり惜しいのかもしれないけど、どっちかと言うと彼の場合は面白いって言う意味のドキドキが高いっていうか。
真剣に人を好きになるって本当にどんな感じなんだろ。って、そんなこと考える柄じゃないよね私。
「それは!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「「「それは!?!?!?!?!?!??!?!?!?」」」」」
で、駄目だ。完全に今も彼と目が合っちゃって.....。
「広瀬恵梨香!!!!!!!!!!!!!!!!! お前だ!!!!!!!!!!!!!!!!」
あぁ、私の嫌な予感。
大的中......。
耳には彼からの私の名前を呼ぶ大声と、それに連動するようにグラウンドからの歓声。
「恵梨香!!!!!!!!!! come on!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
屋上のカメラも一斉に私の方へと次々と向いて......。そして周りの目も......。
正直、私としては目立つのは嫌いではないし、むしろ超大歓迎。
ただ、今回の場合。この雰囲気の中で断るにはそれなりの断り方が必要になる。それも、今みたいに盛り上がられれば、盛り上げられる程。特に相手が彼なだけあって周りからの告白を受けるよなって圧がすごい。
だから嫌だったのよ。
「え? 恵梨香、告白されてる?」
ま、全国放送の大人気番組。とりあえず私はそう言って驚いた顔でカメラに向かって照れる素振りを見せておく。
ふふっ、上目遣いも忘れずににね。全国の視聴者。私に惚れちゃうんじゃない?
何だかんだで、念の為の断り文句も一応用意していたしね。後は飛びっきり可愛くあいつの告白を断るだけ。
「ほら、恵梨香!!!!!!!!!! come on!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
って、カモン? それはcome onってこと?
へ......? 過去の動画に告白された方も屋上にあがるシーンなんてあったっけ?
いや、ないでしょ.....。
ないない。
ほら、現に屋上の方がザワザワしてるし。
もしかしてあいつ、予定外のことをしているの? そんなの駄目じゃん。
ただ、周りはあいつのその言葉にさらに盛り上がって......
嫌。絶対に嫌なんだけど。嫌な予感しかしない。
って、昇降口から出てきたスタッフらしき人が私の方に近づいてきてさらに嫌な予感......。
「すみません、屋上までお願いします」
はい、最悪......。
「はい」
断りたいけど、周りのノリ的にどうしても笑顔で首を縦に振ってしまった自分がいる。
こういう時に流されてしまうのが私の悪い癖よね。
そして気が付けばもう屋上にいる私......。
目の前には藤堂蓮也。その下のグラウンドには数百人の盛り上げる生徒の群れ。
って、ちょっと恐い。この高さ。
安全面的に大丈夫なの? 普通に下をみるのが恐い。
ま、目の前にはカメラがあるから笑顔は崩さないけどね。ただ、本当に恐い。
「恵梨香!!! もう一度言う!!!!」
そして、その怖さを一層加速させているが目の前のこの男。
「うん。何? 藤堂君?」
「お前を愛している!!!!」
って、え!?
何?何で目の前のこの男、いきなり私の肩をガシッと掴んで.....。
め、目をつぶって?
いや、ちょっと待って。この男。私にこの流れでキスをしようとしている!?
は? しかも、下の子達も何を息を呑むようにいきなり静かになってこっちを......。カメラもそんな私たちの顔を至近距離から......
いやいやいや、本当に嫌。それは違う。
「い、いや、ちょ.....」
って、そんなことを考えている間にもゆっくりと目の前の男の顔が私の顔に近づいて
い、嫌....。
思わず、逃げる様にそれを拒否しようと足を後ずさる私....って
「え?」
カラン? って今の音。何の.....。
って、え、ちょ、嘘......でしょ?
舞台の手すりが取れて......私の足がそのまま宙に......?
「へ?」
そしてそんな私の目にはさっきまで私がいたであろう屋上の舞台から
私に向かって心底驚いた顔で全然届かない手を伸ばす男の姿。
うそ、私、屋上から落ち......
こ、この学校の校舎って5階........




