彼女も持っている女です
平日のこんな学校終わりに、ここに呼び出されるなんて何ごとかと思っていたけれど......。
「え? 私の作品が読み切りに?」
あ、あの有名な漫画雑誌の読みきりに私の作品が載る?
「そう。この前に見せてくれた入れ替わりのあの作品あったでしょ。あの後に色々と直してくれた分を面白かったし上に通してみたら一回載せてみようかってなってね。もしかしたら連載も夢じゃないかもよ」
う、嘘でしょ? でも担当さんがこんな嘘をついてくるとも思わないし。
「フフッ、あなたとはそれなりにもう長いけれど。ずいぶんと変わったわね。紗弥加ちゃん」
「え? 私がですか.....?」
「ええ。あんなに刺々しい雰囲気をもっていたあなたが、まだ棘がないわけではないけれども。まさかこうも穏やかな表情ができる様になるなんてね。それに作風だって昔も悪くはなかったんだけれど。面白みが出たというか、読んでいて楽しくなれるような作品が書ける様になったわね。ま、やっぱりまだまだ恐い顔している時の方が多いかもだけどね」
「そ、そうですか。ありがとうございます......」
「メインキャラクターだけではなく、全体的なキャラの心理描写を描くことも上手くなったじゃない。フフ、もしかして学校で友達とかも増えたんじゃない?」
友達。
確かにできたと思う。自信をもって友達と言えるような子たちが......。
「それに、恋愛部分の描写が格段によくなったわね。フフ、ヒロインの名前も容姿もあなたの分身。実際に恋してるのね。紗弥加ちゃん。いいじゃん。いいじゃん。それでこそ高校生よ」
「い、いや、その、それは......」
「フフフッ、しかもその照れた表情。本当に良くなったわよ。紗弥加ちゃん。本当に出逢った頃の全く笑わない、ストイックで氷の様な女を体現した様なあなたとはまるで別人の様。可愛い!」
「ちょ、いくら担当さんだからって。か、からかわないでください」
「プッ、その反応も超いい。超かわいい。本当によくなったわね。紗弥加ちゃん。そのギャップも最高よ。きっと全部この風間くんのおかげかしら」
「い、いや、それも、その......」
「もーう、私の前ではもう隠さなくていいって。そんな表情されたらバレバレだから。もしよかったら漫画だけじゃなくてそっちも私が相談に乗ってあげよっか?」
確かに、私は変わったか変わっていないかで言われれば、自分でも変わったとは思う......。
それも、担当さんの言う通り、全部、彼。
風間くんのおかげで......。
彼に出会ってからは色々と私の中の価値観が変わった。と言うか変えてもらったと思う。
まぁ、厳密に言えばあの時は彼ではなかったんだけれどもね。
フフッ、彼は普通だけど普通じゃないのよね。まぁ、出逢いがもう普通じゃなさすぎるものね。ありえないけれど、もう私は確信している。彼は間違いなく彼だったと。
「ところで、これも真剣な話なんだけれど。あなたさえ良かったら。顔出しもしてみない? あなたみたいな綺麗な美少女。そして女子高生が少年漫画のラブコメを描いているってなったらものすごく話題になると思うの」
「え? 話題ですか?」
話題......。
「いや、もちろん、あなたの作品は面白いからそんなことをしなくても問題はない。でも、本気で連載を考えているのならそういうことも視野にいれていいと思うの? それに本格的なプロデビューを考えればご両親にもいつまでも黙っているわけにはさすがに行かないと思うの。 どうかな。紗弥加ちゃん。強制はしないし、別に断ってくれても読み切りの話がなくなるわけではないわ」
顔出し......。
それは......って、そういえば。
そうよね。どうせならばもうあそこで全てを
そう。私、西園寺紗弥加に中途半端はないし、あってはいけない。
私は欲しいものは全て手に入れる。例えそれが何であっても全て必ず。
「あの、今度私の学校の文化祭で.......」




