負けられない理由です
駄目だ。どうしても考えちゃう。
「春風!どうした今日のお前、全然練習に身が入ってないじゃないか。天才空手少女なんて言われて浮かれているんじゃないだろうな!」
「いえ、浮かれていません。自分が天才だなんて思っていません!」
「じゃあもっとしっかりやらんか! ほら、もう一本!」
「はい!」
いつも以上に颯ちゃんのことを、どうしても考えちゃう。
本当にどうにかしないと。今回だけは負けられない。今回の文化祭だけは。今までのどんな勝負よりも。特に今年はあんなイベントになったんだから尚更。
それに......私が天才か。
違う。私なんて全然だよ。本当に。
だって元々、将来を有望視されて天才と呼ばれていたのは
颯ちゃんの方だったんだもん。本物の天才。
それが、忘れもしない。小学校の頃、私の不注意のせいで颯ちゃんは......。
そして、颯ちゃんのおかげで私は今ここにいる......。
だって、あんな高さから普通に落ちていたら絶対に助からなかったもんね。
そして普通、あんな場面で私を助ける為に自分まで飛び降りる? あの時に颯ちゃんは何も考えずに気がついたらそうなっていたって言って病院のベッドの上で笑っていたけど......
そのせいで、あんなに楽しそうにやってた空手を颯ちゃんは......
それなのに私に何一つ怒らずに何事もなかったかのように前を向いて......。
本当に、颯ちゃんはそれだけでなくいつもそうだったよね。
一見、冷めている様に見えるけど、絶対に困っている人や助けを求めている人を見捨てられないの。身体が勝手に動いてしまうレベルで。だから今までも颯ちゃんが危険な目にあって来たことをかなりの数見てきた。
本当にたくさん......。
だから、私は強くなって近くで颯ちゃんを守ってあげないと、隣でずっと支えてあげないといけないの。じゃないと颯ちゃん、不器用だし、またどこかで無茶をして危険な目にあっちゃうだろうから。
もしかしたら、私の知らないところで。華怜ちゃん達の前でもいっぱいカッコいいところ見せちゃったのかな......。
きっと、そうなんだろうな......。
あんなにかっこいい人はもう颯ちゃん以外には現れないだろうし、いないもんね。遅かれ早かれ、見つかっちゃわないわけがないよね......。
よりにもよって彼女達に見つかってしまったのは私にとっては残念としか言えなけどね......。
でも、相手がどれだけ強かったとしても絶対に誰にも渡すわけにはいかないの。
どんなメダルやトロフィーよりも今は心から颯ちゃんが欲しい。いや、私だけは昔からずっと。
だから彼女達には絶対に負けられないし、負けるつもりもないの。
「せぇやぁぁぁぁ!!!!!!!」
「おっ! いいぞ、春風!!! それだ、その蹴りだ!!! 何だよ。絶好調じゃないか!」
でも、番組的に決戦は学校の屋上なんだよね.......。
まぁ、今回は番組の撮影で危険なことをするわけではないだろうし、もちろん問題はないのだろうけど
何年も前のこととは言え、やっぱりどうしても思い出しちゃうな。
あの時に自分の命も返りみず、落下する私を颯ちゃんが包み込む様に抱いて必死に守ってくれたことを何度も......。
うん。本当に颯ちゃんのおかげだよ。間違いなく今の私がいるのは何もかも颯ちゃんの。
だから、絶対に負けられないの。絶対に。




