なかなか寝られない夜です
『本当にびっくりしちゃったんだけど。あの後、西園寺さんとどうなったの?』
『いや、家に連れていかれたんだけど、大きすぎて怖くなって逃げた』
本当にな。あんな豪邸生まれて初めてみた。それにそもそも連れていかれたこと自体がおかしいこと。
『本当に?』
『何で嘘をつく必要がある?』
『だって、よく嘘つくじゃん。と言うかずっとついてんじゃん』
『ついてない』
『ついてるって。じゃあ今から電話しよ。声でわかるから』
と言うか.......
普通にこれもおかしいよな。
いつの間にかあたかも当たり前のように華怜とlineしてるよな。俺。
元々は当たり前だったのかもしれないけれど、今の俺の立場からすれば当たり前ではない。特に寝る前にベッドの中で華怜とやりとりするこの感じ。
でも、最近は自分でも怖くなってくる......。
あいつの中にいた時の俺と、今の俺とで境目がわからなくなってくることが多々あってしまう。特に、あの屈託のない笑顔を向けられた時なんてつい微笑み返してしまいそうになってしまう自分が何度もいた。
今も、何だかんだで通話ボタンを押して華怜からの着信を取りかけてしまった自分がいる。
『もう、とってよ。寝る前にいっつも毎日、私たち電話してたじゃん。颯太は蓮也と違って毎日出てくれたし、かけてもくれてたよね』
もう色々と矛盾してしまっている彼女からの返信。
そしてそれは事実であり事実ではない。
でも、改めて思うけど、華怜みたいな女性とこんな風にlineのやりとりをするなんて入れ替わりの前であれば全く考えられなかったことだよな。
正直、華怜は美人だし可愛い。そして性格も良い。
完璧だからこそ、尚更.......。
どうしても、俺自身が藤堂と色々と比べてしまって考えてしまう。でも、もし俺が彼女と......。
自分でも蓋をしてしまっているのはわかっている。
あの笑顔や声が俺に向けられる度に胸が苦しくなる。でも、それは俺がどうこうしていいものなのかどうか。その答えが一向に出せない。
きっかけがきっかけなだけにありえない出会いでしかないのだから。
本当に俺はどうしたらいいのだろう......。
どうすることが正解なんだ。俺が俺としてどうすることが。
『ねぇ、本題なんだけどさ。今度の文化祭......』




