黒塗りの高級車
何だ......。
頭の整理が追い付かない。気が付いたら俺だけ車の中に引きずり込まれて?
「ねぇ、風間君。大塚さんと仲良さそうに手を繋いでいたけど。何でかしら?」
それも、何だこの高級な内装の車。リムジンではさすがになさそうだけどまさに社長が好んで乗っていそうな車。彼女の車の外観は何度か見たことはあったけれど、こんなに快適で優雅な......。一体、一台でいくらかかるんだ?
「ねぇ、聞いているの? 風間くん」
とりあえず、俺のすぐ隣にはさっきまで一緒にいたはずの華怜ではなく、紗弥加がいる。そして運転席にはいかにもな格好の年配の執事。前から思っていたけれども、やっぱりどこかの社長令嬢なのか? もしかしてそれ以上? 何か怖いから聞けないし、聞く間柄でも正直ない。
「いや、俺もわからない」
この状況も何もかも。本当に俺がこの状況になっているのは何で?
「わからないって何?」
いや、全てがわからない。
例えば、この目の前で紗弥加が頬を膨らませている光景も......わからない。
あまりにもらしくなさすぎる。これがギャップと言うやつか......?それに、座席がこんなに広々としているのに、何だこの距離感.......。近すぎないか。さすがに。
本当に何だこの状況。
「大塚さんと付き合ってはいないのよね?」
「え? も、もちろん......」
今度は思いっきり睨まれているし。クールで表情を変えない彼女が何だこれは?
以前、図書館であいつの身体で彼女と接していた時は意外にも笑うんだなぐらいの程度だったのだが。
今度はものすごく嬉しそうに微笑んで......。
本当に紗弥加? まぁ、どこからどう見ても紗弥加か。
でも、今日は本当に委員会だったか? 文化祭の。
確かに俺は委員ではあるが、記憶にないぞ。
それにこれ学校に戻っているのかと思っていたけれど.......。
窓の外を流れる景色を見ている限り、どこを走っているんだこれ。全然見たことのない景色。
見たことのない公園に、見たことのない建物、何もかもがわからない。
「おい、さや、西園寺。これどこに向かっているんだ」
「紗弥加でいいのだけれど」
「いや、どこに」
本当にどこに。
あと、何だ。車の中にポテトチップスとかそういう系のお菓子がいっぱい?
誰が食うんだ?
「家だけど。私の」
「ん......?」
家? 紗弥加の?
あれ? 俺はさっき華怜の......
ん? 駄目だ。混乱してきた......。
本当に何だこの状況......。
家?




