短くも長い時間です
「えーっと、大塚。ちょっとトイレにそこのコンビニに寄りたいんだけど......」
「だーめ、さっき店で行ってたじゃん。ふふっ、ちゃんと華怜って呼んでくれたら考えなくもないけどね」
ちょっとこれは......本格的にやばいと思う。逃げ時を見失ったとはまさにこのことだろうか。正直、何だかんだで簡単に逃げられると思っていたのだが、これはちょっと無理なの......だろうか? でも、さすがに逃げないとこれは。
なんせ、改めて駄目だとはわかっているのだが、どうしてもさっきからしつこく頭に思い浮かべてしまう自分がいる。華怜のあの時の姿を、それはもう何度も.......。このままだと本当に今度こそ俺は......。何でこんなにも俺は。
でも、さっき間違いなく彼女の口から風間颯太として......俺に家に来てほしいと言われたことも事実なわけで。
駄目だ......。何もかもわからなくなってきた。
あの時は俺が藤堂だったから何もしてはいけなかったわけで。ただ、今は俺が俺なわけで? いや、そもそも当たり前だが俺と彼女は付き合ってもいないし、付き合える立場でもないわけで。
あぁ、本当にやばい。混乱してきた。
そんなことってあるのだろうか? 正直、藤堂と俺とではどこからどう見てもタイプも何もかも全く違う。 なのに何でこんな。俺だぞ? もしかして俺を.......。 いや、でも華怜はそんなことをする奴ではない.....。あぁ駄目だ。本当に頭がおかしく。
正直、華怜は外見だけでなく性格も良い。要は完璧な女性だとは思う。
だからこそ本当にどうするべきなんだ。俺はどうしたい。と言うか答えは一つのはずだ。駄目だ。なのに何で俺はこんなにも悩んでいる。本当に何で。
とりあえず俺は今、彼女の家に向かう道中を歩いているところ。
「やっぱりこの手を繋いだ時の感覚、間違いない。ふふっ、他の人にはわからなくても私にはわかるんだ」
それも、こんな公衆の面前でしっかりと恋人つなぎをしながら......。
ちょうど今通りすぎたコンビニの窓ガラスにも、その光景がしっかりと映し出されて俺の目に入ってくる。
そこにはあの頃によく見た、らしくもない無邪気な笑みで俺のことをのぞき込んでくる華怜の姿。
ただ、やはり圧倒的に違うのはその隣にはあいつではなく俺がいるということか......。
「なぁ、さすがにこんな公衆の面前でこれはまずいんじゃないか? モデル業的にも」
とにもかくにも本当にそこはまずいのではないだろうか。ちらほらと知らない奴らだがうちの制服を着た生徒ともすれ違っている。だからどっちにしろ一旦離れた方がいい。
「何で? 私、自分でいうのも何だけどJK達の間ではカリスマなんだよ。前にも言ったけどさ。むしろ彼氏がいない方がまずくない? だから問題なし。むしろ皆に見てほしいな」
彼氏......。それにまたそんな表情でそんなことを。いつもの気の強い表情はどうした。何度も言うが今、彼女の目の前にいるのは俺、風間颯太でしかないと言うのにその笑顔は。
「ねぇ、そう言えばそこの公園。懐かしいね。覚えてる?」
そこの公園......? って
「あ、いや......」
あそこは......。
覚えていないわけがない......。
あそこは俺が華怜と初めて......
キスを......
「ねぇ、ちょっと寄っていこっか。颯太」
い、いや、それは.....
「あら、文化祭の実行委員である風間くんが、大事な委員会をすっぽかしてこんなところで何をしているのかしら」
って、え?
後ろから......声?
そ、それにこの声は.......
そしてこの黒塗りの車.......。




