思い出すあの頃の光景
「ねぇ、うち来て勉強しよう?」
いや、家って。
それに何だ。その甘えた声に視線は.......。まさにあの頃の俺に見せていた、藤堂蓮也にだけ見せていたであろう彼女の姿。
一応、人が少ないとはいえ人前であることに変わりはないのに。
そしていくら彼女が、俺があいつと入れ替わっていたと思っていたとしてもだ。あくまで華怜が好きになった男は藤堂蓮也。その男だ。
なのに何で、何から何まで風間颯太である俺にそんな目を。
駄目だ。わからない。いや、わかってはいけない.......。あくまで勘違いでしかない。
俺は風間颯太。彼女とは何ら関係のなかった男。からかわれているだけだ。
「いや、駄目だ。帰らないといけない」
「何で? やっぱり私のこと......嫌いになったの?」
嫌い? そもそも俺、風間颯太は彼女に好きも嫌いもないべき人間。その問いに返す答えなんて持ち合わせていない。そんな華怜らしくもない悲しそうな顔をされても俺は.......。
それに家は本当に駄目だ。
俺は一度だけあの頃に彼女の自宅へ足を運んだ記憶がある。それも今日と同じようにあれはここに来た後のことだった......。
そして人生で初めて俺は女性の.......。
あの時は本当に危なかった。今まで生きてきてあんなにも理性が暴走しそうになった記憶はあの時以外に俺はまだない。
色々と考えているとベッドの上に脱ぎ捨てられていた彼女の制服やスカート、そして.......の光景がまた頭に浮かんできてしまう。
もちろん、その時の俺は何もしていない。絶対に彼女に何かをしてはいけない存在だったから何とか耐えた。本当に何とか舌を噛み切るような勢いで耐えた。
でも、もう一度あんなことになったとして俺は......。
いや、今も耐えなければならない存在であることには変わりないのであろうが、耐えられるのだろうか。正直また同じ場面に遭遇してしまったらもう.......。
今も本当に何なのだろうか。何で、そんな頬を赤らめて恥ずかしそうな、でもしっかりとした芯の通った視線を俺にあの時の様に.......。
「私だっておかしなことを言っていることはわかってる。でも、あの頃の蓮也が本当に好きだった。今までの人生で一番幸せな時間だったんだ。でも、気が付いたら急に私の前から姿を消しちゃったの」
そして目の前の彼女はさらに真剣で大きく綺麗な瞳を俺に向けて
「本当に悲しかったんだよ.......。私」
「いや......藤堂は毎日学校に通っていたはずだ。悪いが間違いなく」
間違いなく......。
「いや、いたけどいなかった。颯太が一番わかっているはずだよ。もうこれ以上私を悲しませないでよ。やっと見つけたんだよ。私」
そう言って目の前の彼女は俺の手を優しく握ってくる。また静かに指を絡ませる様に。
「ねぇ、だから今から私の家。行こ? そしてあの時の続き......したいよ」
駄目だ。それだけは絶対に駄目だ俺。
止まれ。いいから止まってくれ。俺の心臓の音。
本当に駄目だから......。本当に。
「ねぇ、私は本気だよ。だから風間颯太として家に来て......」




