風間颯太は昔から道を聞かれやすい人間です?
「Which bus should I take?」
《それならば、どこでバスを降り換えればいいのかしら》
「You have to change buses at the next stop.」
《あぁ、そこに行くなら次のバス停で乗り換えればいいですよ》
「oh , thank you. It saved me. I just made it under the wire.」
《おー!そうなんだ。ありがとー! あなたのおかげで助かったわ。ギリギリだったのね》
「You're welcome.」
《いえいえ、どういたしまして》」
ふっ、良かった。英語はそれなりに得意な方。
まぁ内容は簡単かもしれないけど、自分の英語が本場の人に普通に通じる様で割と嬉しい。
とりあえず俺は今、京都を無数に走る市バスに乗車中。
それにしても、やっぱり外国人が多い。京都。
今、このバスの中だけでも何人乗っている? 英語以外の全然知らない国の言葉も普通に聞こえて来る。
まぁ、皆楽しそうだから何でもいいんだけどな。
あと、前に来た時にもちょっと思ったことだけど.......
京都ってやっぱり車線?が多いな。道がいっぱい。信号もいっぱい。
それにバス停も多い。場所によっては結構近い間隔でいちいち止まったりする。
ほら、またバス停だ。
でも、良かった。確かにギリギリだったな。俺に声をかけてなかったら彼女はおそらく乗り過ごしていただろう。うん。
って、へぇー。久しぶりに見た。
「Goodbye!kind boy ! have a nice day!」
《じゃあね!親切な男の子。良い一日を!》
「yes! have a nice day ! beautiful lady」
《はい! 良い一日を! 綺麗なお姉さん》
「Oh, you flatter me.」
《ふふっ、お上手ね》
そして気がつけば、ついさっき話しかけてきた綺麗な外国人のお姉さんは笑顔でこっちに手を振って、止まったバスから降りていく。
どうやら、京都国際マンガミュージアムに行くみたいだ。
存分に楽しんで欲しい。
それにしても、窓から見えるこの外国のお城みたいな建物。初めて知った時には驚いたけど。
これで市役所なんだよなぁ。何度見てもすごい。
壮大な感じが半端ない。
「ねぇ、風間」
で、なんだよ。華怜。
一応隣からの視線にさっきから気づいてはいたけど、その顔は......
今度は何だ。
別に以前、あいつの身体で彼女と京都に行った時にはこんなことはなかった。
だから今の行動に問題はない......はず。
う、うん。別に俺が英語がちょっとできることについても何ら問題はないはずだ。
なのに本当に何だ。その顔は。今度は何を疑っている。何にひっかかっている?
「何よ。そのだらしない顔。デレデレしてみっともない。本当はああいうのがタイプなの? ねぇ?」
ん? 何だよ。怒ってる?
ちょっと機嫌がいつの間にか、さっきよりさらに.......
な、何で?
あとデレデレってなんだよ。デレデレって......。
してねぇよ。
「ねぇ、どうなの? 私よりもああいうのがタイプ? 黙ってないで何とかいいなさいよ」
ほ、本当に何だよ。その感じ........
あと.......。
「いや、そういう訳ではないけど。あと、俺達はどこで降りるんだ。ここでは降りないのか?」
「まだよ。とりあえず降りる時は私が言うからそのまま乗っててよ」
「そのままって.....。一体どこに向かっているんだよ。そろそろ教えてくれよ」
「ふふっ、内緒ー。あと風間って英語が結構得意なんだね。すごいじゃん。それは知らなかったわ」
そして気がつけば、再び発車してしまう俺達が乗ったバス。
な、内緒って.......。
まぁ一日乗車券が配られているから金銭的な心配は別にないんだけれど。
このままずーっと降りずに向こう方面に進んで行ってしまうと、最悪降りる場所によっては........
環奈との待ち合わせ場所に
間に合わなくなる可能性が........。
それだけは、それだけは真剣にまずい。
「ま、悪い様にはしないから。そんな顔しないでよ。ね!」
「あぁ.....まぁ、うん」
まぁ、幸いにもこのバスに同じ学校の生徒が全然乗ってこないことに関しては助かっているけど。
それを差し引いても、環奈との待ち合わせに間に合わなくなることだけは回避しなければならない。
どうする。どうしたら良い俺.......。
「あと? お昼はどうする? ふふっ、風間が好きな所でいいよ。きっと鰻とか好きだよね」
そして顔がくしゃっとなる感じの華怜のこの笑顔。
本当に楽しい時の華怜はこの感じの笑顔をする。
華怜......。
正直、俺は華怜のこの笑顔を見るたびに何とも言えない気持ちになってしまう。
俺が彼女の彼氏をしていた時によく見た表情だ.......
何で華怜はその顔を俺にこう何度も......。
まぁ、俺もそのことについて何も考えがつかないわけではない。
ただ、どうしてもまだ割り切れないところがある。
まだ.......。
そもそも、本当に彼女は俺とあいつが入れ替わっていたことを確信している?
そして、もし俺があいつと入れ替わっていたことを彼女に話した場合
一体その後はどうなる。
そもそもまず彼女が付き合ったのは俺ではなく間違いなくあいつだ。
その途中で一時だけ俺が入れ替わっただけ。
そう。彼女が好きになったのはあいつ。俺ではない。
一体、あいつは今の俺に何を見ている.......。
何を思ってその笑顔を向けてくる。
何を.....。
まぁ、何とも言えない。今はまだ何とも。
うん。わからない......と思う。
それにあいつ、藤堂とも、入れ替わりのことは絶対に誰にもばらさないように約束したしな。
と言うか、させられたしな。
まぁ普通にそんなこと誰かに言ってもおかしな奴だと思われるだけだしもちろん了承した。
そもそもまず言うつもりもなかったがな。
まぁまさかこんなことになるとは思わなかったけど.....。
そういうことだからどっちにしろ華怜にあの時のことをばらすことはない。
うん。
あとわからないと言えば、ついさっき気が付いたけど。
後ろの方の席で寝ている感じの帽子の女性。あれ、確実にうちの制服を着ているよな......。
ここからではちょうど顔が見えないから誰かはわからないけど。
大丈夫か? 何で一人?
も、もしかして同じ班の人達が降りたのに気が付かず、そのまま寝ちゃって色々と乗り過ごしてしまっていたりするんじゃないのか?
これ.......。起こしてあげた方が良い気が......。
「ん? どうかしたの? 風間」
「い、いや別に」
ただ、正直に言うと今俺が華怜と二人でいる状況もあんまり同じ学校の生徒には見られたくないしな......。
う、うん。申し訳ないけど、とりあえず保留。
そして今、真に考えないといけないのは
環奈のこと。
どうにかしてそろそろバスから降りないと本当に......
昼ご飯の時間も調整しないといけないし。
あと、何だろうか。
さっきから妙に視線を感じる?
気のせいかもしれないけれど華怜ではなく、何か他の.......
ただ、バスの中を見渡す限りでは知っている人とかは誰もいないし。
ん? やっぱり気のせい.....かな。
何だ?




