永久にも感じてしまうバスでの移動時間です?
「ねぇ、つまんないんだけどー。何その辺り障りのない答えー」
「い、いやじゃあ、やっぱり元々の席に戻った方が良いんじゃないかな.......。大塚さん」
どう考えたって戻った方がいい。君のいる場所はここではない。
絶対にここではないから早く戻れ。
「え? それマジで言ってる?」
「ま、まぁ割と」
しかもまたそんな大胆に脚を組んで.......。
み、見えてしまうだろうが、おい。
「うぇーい! 京都でナンパうぇーい!」
「バスガイドさんは彼氏いるー? はいはーい! 俺、立候補しまーす!」
「カラオケ、カラオケしようぜ!マイクよこせ!」
そう。やっぱりあっちだ。一番後ろの一番騒がしい席、選ばれし物たちが集う陽キャゾーンへと戻れ。お前の親友もいるだろうがあっちに。
「ふーん、そんなこと言うんだ。それを言うなら、あんたこそ戻って欲しいんだけど。そっちが戻ってくれるのなら、全然こっちも戻ってあげてもいいんだけどなー」
「な、何をだよ。戻る? 俺は元からここの席だし。言っていることの意味がちょっとわからないんだけど......」
か、華怜。
さっきから本当にこいつ........
「は? そんなのあんたが一番よくわかっているはずでしょ?」
「えーっと、ごめん。本当によくわからない」
くっ.......。わかっている。
わかっているからこそしんどいんだよ。
って、本当に何だよ。その目は。
そんな至近距離からそんな鋭い目つきで俺のことを.......
駄目だ。全然時間も進んでくれないし。
予定ではまだあと2時間はこのままバス?
む、無理だろ。それ........。
酸素がもう、息苦しいのを越えてもう吐きそう。
と、とりあえず外の景色でも。
うん。今はものすごく綺麗な紅葉の季節。
高速道路からではさすがに見えないけど、見る限り今日は雲ひとつない快晴だし。とりあえず京都での絶景とも言えよう紅葉を期待しながら、今はこの壮大な青空でも見て気持ちを........
って、くっ.......。マジか。お、おい。
俺の目には今、か、鏡に反射して紅葉ならぬ、華怜の派手な赤の、し、下着が.......
「ふふ、ねぇ風間。あんたさっきからずっと挙動不審なんだけど何でー?」
「い、いや別に。何も.....」
「あれー? 何その反応? 何かみたことある反応かも」
だ、駄目だ。本当に耐えられるのかこれ。まだ1日の初めの方だぞ。
既にもう何度彼女に仕掛けられて、何度俺は嘘をついたよ。
今日の星座占いで言っていた『嘘さえつかなければ今日は幸せな一日を送れるでしょう!』って言葉が本当なら.........
き、今日の俺にはさらに過酷な運命が待ち受けていること間違いなしだぞ、おい。
と、とりあえず深呼吸だ。
目をつむって無になるんだ俺。というか、寝たフリ。というか本当に寝よう。
そう、これで残りの時間は耐える。
それしかない。
よし、もう何も聞こえない。集中しろ。眠ることに集中しろ俺。
「ちょ、春風さん? 何してるの? 危ないから立ったら駄目。トイレならすぐそこにあるでしょ?」
ん......?
「って、ほ、本当にどうしたの? あなたらしくない。な、何でそんな怖い顔で......。と言うか、どこを見ているの? 後ろに何かあるの? ねぇ春風さん? 大丈夫? 春風さん」
ま、前の方から先生の声が聞こえて来る........。
結構余裕がなさげの先生の声が........
「おーい、風間。何寝たフリしてんだよ。開けなさいよ。目。本当は起きてるんでしょ。バレバレ」
って、華怜。こいつはこいつでまた何をしている。
と、吐息がものすごく近くに.......。
で、でも今、目を開けたら色々とまた.......。
「ちょ、春風さん!な、何でそんなに歯をくいしばって。ちょ、止めなさい。春風さん。血管切れちゃうわよ、ねぇ。本当に後ろに何が、何があるの春風さん! 何? そちゃん? そちゃんって何? え? 潰す? え? 猫? 猫がどうしたの?」
あ、あぁ、うん。絶対に絶対に今、開けたら駄目だ。目。
隣からも前からもちょっと.......
って言うか、な、何で環奈はそんなにキレているんだ。
でもさっき確実に環奈は俺の方に......
そ、それにその『そちゃん』って多分と言うか絶対に俺の名前な気が.....
え? 俺なんかした?
あ、朝来る時はあんなに機嫌が良かった癖に何で。
環奈が切れるなんてほんと洒落にならないぞ。
場合によっては俺の命なんて一瞬で......
あ、あとさっき潰すって聞こえなかったか? つ、潰す?
は?
あと猫? 猫って何だ。
い、いやとりあえず、ちょっと本当に色々とやばくないか。これ
環奈とは後で二人で抜け出す約束も実際にしてしまったし.......。
その時に俺......
こ、この校外学習........
いや真剣にやばい。
どうなるんだよ。俺........




