ストレスでドカ食いです
「どういうこと!颯ちゃん!」
「いや、わからない」
わかるけど、わからない......。
とりあえず俺は今、またバイト中だ。
「やっぱりおかしいよ! なんで大塚さんが颯ちゃんと同じ班に立候補したの! しかも何で私がジャンケンに負けるのよ! 何でよ颯ちゃん!颯ちゃん!颯ちゃん!」
そして俺の目の前には頬を膨らませながら地団駄を踏んでいる様子の環奈の姿。
「もう!颯ちゃん! もう一皿山盛りポテト持って来て!」
「いや、ちょっと食いすぎじゃないか......。環奈」
「いいの! 練習で疲れているんだからいくら食べても問題なし! ほら、おかわりだよ!颯ちゃん!」
そう。目の前には物理的に頬を膨らませている環奈.......。
彼女のテーブルの上にはメロンソーダやらピザやらフライドチキンやら控えめに言っても身体に良いとは言えないメニューがずらっと並べられている。
まぁ、美味しいから俺も何だかんだで好きだし普段は食べるんだけど.......。
「わかった。ちょっと待ってろ」
それにしても、昔から環奈はストレスがたまるとドカ食いをする癖がある。
ここまでのドカ食いを見るのは久しぶりだ。
空手か? 空手で何かあったか?
そのせいで何故か俺までとばっちりをくらっている様だけど......。
でも、校外学習。今、華怜と同じ班になるのであれば数百倍、環奈と一緒の方が良かった。
何で環奈がそこまで俺と同じ班になってくれようとしていたのかはわからないけど、あそこで彼女にじゃんけんで勝っていてくれさえすれば........
まぁ、おおかた何か俺にまた奢らせようとでも企んでいたとかかな?
くっ、でも真剣にどうするか。
彼女、本格的に色々と........
そんなことを考えながらも、とりあえず俺は厨房へと環奈の注文したポテトを伝えに行く
「ねぇ、風見くん」
って、ん? あぁ広瀬さんか。
「はい。どうしました」
「ふふ、随分と春風さんと仲が良いんだね。もしかして彼女とか?」
え、環奈が彼女?
「いえいえ、環奈はただの幼馴染です。ははっ、さすがに環奈と俺じゃ釣り合いませんよ」
環奈はものすごく優しい奴だし。ルックスもすごく良い。
俺にはできすぎた幼馴染。
なんで彼氏がいないのかは疑問だが真に幸せになって欲しいとは思う。
正直、やっぱり俺にはもったいなさすぎる......。うん......。
「へぇー、そうなんだー。ふふっ、なら私が風見くんの彼女に立候補しよっかなーなんて」
ふっ、何を言うかと思えばこれまた冗談が過ぎる。
「いやいやいや、そんな。恐れ多すぎますよ。俺なんかが広瀬さんと付き合うなんて100万回生まれ変わっても無理ですよ。まぁ、冗談でも広瀬さんほどの女性にそんなこと言ってもらえるのは嬉しいですけどね。ははっ、一生の思い出にします」
からかってくれている様だが、とりあえず、こういう場合はさりげなく褒めておけば問題ない。
「ぷっ、何それ。一生の思い出? 面白ろ。でもそうなんだー。何だかんだでやっぱりこんなことじゃ実際は全然動じてくれないんだね。風見くん」
ん? 動じる?
「実際のところ。今まで何人ぐらい彼女いたことあるの? ふふっ、てか今もいそう」
ん? どういうことだ。
「いえ、普通にいたことありませんよ。俺ですし」
まぁ.....どこまでを俺にするかにもよるが。
あっちも含めていいのであれば答え的にはいた。
「へぇー、意外だね。ふふっ、まぁ本当かどうかはわからないけど」
「いや、必然ですよ」
「ぷっ、何その即答」
いや、意外なわけがない。本当かどうかわからない?
どういう意味だ。今の俺にはいないに決まっているだろ.......。
いや、まぁ深く考えるだけバカか。
どちらにせよ。彼女に関してはからかわれているだけだしな。
さすがに以前の俺を知らない彼女に入れ替わりがバれることはまずないし。
ま、とりあえず、ノリだけ合わせて無難に行こう。
これからもお世話になるし、失礼のない様に。
でも、それにしても何か彼女の話し方、感覚的にやっぱりかなり自然な感じになったよな......
あれか? ちょっとは打ち解けてくれた感じか?
わざとらしさがなくなってきた。
まぁ、そう考えておこう。
決して悪いことではないし、ポジティブにな。
「って、あれ春風さんがこっちにすごい勢いで来るよ? どうしたんだろ」
ん? 環奈が?
「そ、颯ちゃんー!!!やっぱりポテトはキャンセル! キャンセルだよ!!!」
「え? キャンセル?」
何で? まぁ幸いにもまだオーダーは通してないけど。
広瀬さんに話しかけられたのと、相手が環奈だと思ってちょっと舐めてた。すみません。
ただ、何だ環奈。何でそんなに慌てた顔で目を潤ませて.......
「そ、颯ちゃん。ごめん。その実は......。ほ、本当にこんなはずじゃなかったんだけど」
あっ、察した......。
「OK。もうすぐバイト終わるから、ちょっと待ってて」
「そ、颯ちゃんー」
環奈らしいと言えば環奈らしい。
「ちなみに財布にはいくらしか入ってなかったんだ?」
1000円ぐらい?
「そ、それが.......35円しか」
お、おう.........。
本当に良かったな。俺がいて.......。本当に。
い、いや、むしろ俺がいたからとかもあったりするのか.........?
ま、まぁいいや。
一応俺の所持金で足りるのは足りる.......はず。
それにしても35....円?




