それぞれの秘密です
やばいな。これ.......。
いつも以上に、より一層見られている。
昨日のこともあってだろう。華怜の視線が半端じゃないほど痛い。
さすがに教室に居づらくなった俺は廊下へ。
それにしても本格的にちょっとこれは........
まぁ現実的にありえない話だから白を切り通せばそれまでの話なのだろうけど。
昨日確かに、彼女は俺の事を蓮也と........
ま、まぁ俺も何度か入れ替わりの副作用でやらかしてしまった自覚は正直あるけど。
それだけでここまで疑われる状況になるか?
確かに華怜の勘は鋭いとは思っていたけど、ここまで......
もしかして俺、自分では気づいていない様なやらかしを実はしてしまっていたりする......?
とりあえず、そんなことを考えながら歩いていた俺は、気が付けば避難場所の図書室の前。
って、いや、駄目だ。うん。駄目だ。
つい足を運んでしまったが、ここには紗弥加がいる可能性が高い。
華怜ほどではないとは言え、今の彼女に会ってしまうのもまずい。色々と危ない気がする。
ここはすぐに方向転換だ。
今の時間、屋上は......まだやっぱり開いてないか。
「あら、入らないのかしら」
って、こ、この声は........
背後からはすごく聞いたことのある女性の声が聞こえて来る。
静かに振り返るとそこには綺麗な黒髪をした美女。
「さや......西園寺さん。はい。まぁ用事を思い出しまして」
な、何で、何で最近の俺はこうタイミングが.......。
「へぇー、そう。そう言えばちょっとあなたにお願いがあるんだけれど」
「え? お願い.....ですか」
何だ。いきなり。
とてつもなく嫌な予感がする。
「す、すみませんがちょっと用事が」
「すぐに終わるわ。コレなんだけど」
そう言って、彼女は持っていたB4サイズぐらいの茶封筒から何枚かの紙を取り出す。
これは.......。
「え、えーっと。これは何ですか?」
「ふ、まぁ、そうなるわよね。ちょっとね。意外だと思われるかもしれないけれど、私こう見えて漫画家を目指しているの」
知っている.......。
だから嫌な予感がしたんだ。
彼女は本が好きだ。意外にもその本というカテゴリーの中には漫画も含まれる。
というか、表には全く出していないようだがむしろ彼女は漫画の方が......。
って、何でそのことを俺に......
「へ、へぇー。そうなんですか」
「ええ、そうなのよ。でも困ったことが起きたの」
困ったこと......。
「今までこの世界で一人だけ、私が漫画家を目指していることを知っている人がいて色々とアドバイスをもらっていたんだけれど。その人が無責任にもどこかへ急にいなくなってしまって」
「へ、へぇー、意外ですね。さ、西園寺さんが漫画を......」
そう。彼女は自分でも漫画を描くほど漫画好き。
それも超本格的な漫画を.......
俺も初めて知った時にはそのギャップにものすごく驚いた。
まさかのプロを目指しているらしい。
親は漫画も読ませてくれない様な家だって言ってたのに、よくここまでのクオリティをといつも驚かされた記憶がある。
そして以前の俺は確かに彼女にアドバイスと言うか意見を何度か......
「で、そ、それと俺に何の関係が.....?」
「まぁ、その後任にあなたをお願いしようと思ってね」
な、何でだ。何でいきなりそうなる。
「えーっと、すみません。い、意味がわかりません。俺、あんまりあなたと関わりないですし.......」
本当に何でそうなる。
俺は自然と額からひや汗が零れ落ちる。
「まぁ、強いて言うならばだからこそかしら。だって知っている人なら忖度されそうじゃない。それにものすごく口が堅そう。なーんか、ものすごい秘密をずっと誰にも言わずに抱え続けている様な、そんな気がするのよね。あくまでそんな気がするだけだけど。そういうことも含めて適任だと思うわ」
そしてそういって俺の目をじっと見つめてくる彼女。
全てを見通す様なまっすぐな瞳で.......
「それに、この前あなたが私が好きな漫画を買っているところをたまたま見つけてね。気が合うと思ったの」
い、いやこれは......
「いや、でも俺なんかが西園寺さんの.....。む、無理です。確かに漫画は好きかもしれないけれど、そんな人にアドバイスなんて....」
もしかして、やっぱり彼女も.......
「まぁ、一度読んでみてよ。最近ちょっと身の回りで面白いことがおこっている感じがしてね。そのことを題材に描いてみたの。以前もあなたのおかげで佳作をもらえたけれど、今度こそもっと上の賞を狙ってみせるわ。絶対に感想をちょうだい。あと絶対にこのことは今まで通りに誰にも言っては駄目よ。」
そう言って彼女に強引に原稿らしきものを茶封筒ごと押し付けられる俺。
おもしろい題材......
「いや、ちょっと......って」
そして、気が付けばもう俺の目には彼女の後ろ姿。
な、なんでこんなことに.......
そ、それに今、俺の聞き間違いでなければ彼女の口から......
って、こ、これは.......!?
恐る恐る茶封筒の中身の原稿を確認した俺の時間は静かに止まった......
それはもう静かに.......




