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28.魔王、感電する


「む」

 魔王が眼を開けると、全員びしょぬれになっている四天王が取り囲んで魔王を眺めていた。

「あっ気が付いた!」

「魔王様!」

「サーパス! 触るなって!」

「魔王様大丈夫?」


 むっくりと起き上がる魔王。

 空を見る。曇りではあるがもう風は()んでいる。

「どうしたのだ?」

 ぱりっ。ぱりぱりっ!

 身を起こすと、自分の体に放電がまとわりついているのに驚く。

「魔王様、雷の直撃受けて倒れたのよ。覚えてない?」

 スワンがそう言って心配そうにのぞき込む。

「……触るな。今俺に触ると感電するぞ」

 教会の尖塔から落ちた魔王、「もうみんな感電したよ! ここまで運ぶの大変だったよ!」とファリアが笑う。なんでこんなことになってんのかねえと魔王は思うが、とにかく鉄樫の棒二本を担架にして魔王に触らないようにこの路地裏に運んできたそうだ。


「街は無事か?」

「貧民街の屋根はみんな吹っ飛んだけど、けが人は出てないよ」とファリア。

「運河に自分の船の様子を見に来たお年寄りが二人、落ちましたけど、救助済ですわ」とドヤ顔のサーパス。

「教会は絶賛炎上中。今、衛兵隊が総出で消火してる。いい気味だけど」

 あの雷のせいで炎上したか。スワンの黒い笑顔がちょっと怖い。

「……水、来なかった」

 マッディーは出番がなかったようである。

「よくやった」


 ビラの天気予報の公知が早かったせいか、そう大被害にはなっていないようである。なんで年寄りは嵐になると様子を見に行きたがるのかねえと魔王はちと考える。火事になった教会は赤っ恥だろう。なにしろ「雷は天の怒り。雷に打たれた者は大罪人」なんて普段吹聴しているのだから、その教会が雷に打たれたら言い訳のしようがない。雷は単なる自然災害、これを機会に雷に打たれることは罪ではないと広まってくれればいいのだが。


 この場所は教会に近い倉庫街の裏手。路上はいろんなものが転がって、あちこちで街路樹も倒れて街はいかにも大風の跡というように散らかっている。

「魔王様、体にものすごいエネルギー溜まっちゃってますよ。どうしますねそれ」

 ぶーんと羽音を立てて飛んできたベルが魔王を見てあきれる。

「ああ、今だったら凄い魔法が使えそうな気がするよ」

「だったら使っちゃってください。みんな魔王様に触れないじゃないですか」


 使えって言われても……。使えって言われてもなあ。

「そうだな、アレやってみるか。莫大な魔力使うやつ」

「アレですか!」

「あれって?」

 四天王が首をひねる。

「ご苦労だった。お前たち今日はもう宿に戻って休め。俺はちょっと用を足してくる」

 そう言って魔王はベルに習った、莫大な魔力を消費する、例の転送魔法を使ってみた……。




 ドンドンドン! ノックされるドアを開けて、エディスン市の発明家、トーマスがドアを開けて驚く。

「ファルカスさんじゃないですか! あー、え? いったいどうしたんです?」

「避雷針、効かないじゃないか!」

 見れば髪の毛はチリチリ、あちこち真っ黒こげ、ひどい様子の魔王である。


 話を聞いてトーマスがゲラゲラ笑う。

「避雷針ってのはね、電気エネルギーをアースに逃がすから、建物は電撃の直撃を受けないで済むんです。自分の体そのものをアースにするのは、そりゃあ雷の直撃を受けてるんですってば。アースの意味が無いです。勘違いしてますよファルカスさん」

 笑いが止まらないトーマスである。

「あ、そうなのか……」


「ちゃんと避雷針から太い銅線をつないでですね、その先を地面に埋めるんです。そうすれば避雷針に落ちた雷の電気は銅線を伝って地面に吸い込まれます。いったいなにやったらそんなんなるんですファルカスさん。なにか魔法失敗しましたか? ずいぶん強力な魔法のようですが、勇者にでも成敗されましたかね」

 勇者や自身が作れる電撃魔法の数千倍の電力をまともに食らった魔王。自然エネルギー恐るべし。


「一つ言っとく」

「はい?」

「避雷針、大成功だぞ。少なくともこの町の教会のやつは効果あった。この調子でどんどん普及させてくれ」

「そそそ、そりゃどういうことで?」

「あ、いや、教会に雷が避雷針に落ちるのをたまたま見かけただけで……。俺はそれマネして鉄の棒立ててみたんだが、失敗したな」

「それでファルカスさんに落ちたんだ!」

 黒焦げになってる魔王を見てトーマスはまた笑う。


「そうそう! 研究、だいぶ進みましたよ! ぜひ見てください!」

 トーマスが招き入れるので、興味もあった魔王は実験室に入ってみた。

「これを見てください! 発電機です!」

 そしてトーマスがハンドルをぐるぐる回すと、銅線を上に渡した方位磁石がぐるっと傾いた!

 ぐるんぐるん、方位磁石が東西に振れる。なんらかの電気が通っているに違いない。


「魔法を使わずに、電撃を作れるようになったと?!」

 これには魔王もびっくりだ。

「磁石をね、鉄を巻いたコイルの上で動かすと電流が流れるんです。それを応用して回転させるようにしたんです。今はプラスとマイナスが半回転ごとに入れ替わっちゃうんですけどね。『交流』と名付けることにしました。次はこれをなんとか一方向に連続で流れる『直流』にできないか考えている所でして!」

 鉄芯にコイルを巻いたものがグルグル回るようになっている実験装置。それが磁石で挟まれている。

「今までいい磁石がなくて、この実験は進んでなかったんだけど、ファルカスさんに新しく強力な磁石を作ってもらえたおかげ!」


「素晴らしい。画期的だ。あなたの研究は本当に素晴らしい!」

 思わず魔王は手を伸ばして、トーマスの手を握った。

 ぶんぶん手をふるトーマス。まるでオモチャに夢中になる子供のようであった。


「今はハンドルを回してますけど、これは風車でも水車でもいい。まずこの発電機、それに、電気の大きさを測る電測器。できれば電気をためておけるような蓄電器、そこから電気を使って信号を伝える電信機、電気を使った電動機に、電気抵抗の高い金属で電気で熱を出し、料理や暖房にも使える電熱器、前にもやった真空中で白熱させて電照機! アイデアはいくらでもあるんですよ。片っ端からやってみたいですねえ!」


 嬉しそうなトーマスを見て、魔王は人間は凄い。いつか科学は、魔法を超えるだろうと、その未来に思いを馳せた。




「魔王様、どこいったのおおおお!」

 もう二日も宿で待ちぼうけを食わされている四天王たち。あれから消えた魔王は何の連絡もなく全然帰ってこない。いいかげん心配になるというものである。

「気になるんですか? じゃ、ちょっと調べてみましょうかね」

 ベルがそんなこと言って、ハチミツの瓶から顔を上げる。


「調べられるの?」

 サーパスが聞くと、ふんふんふんと何やら呪文を唱えているベル。

 ぶんっ。両手を上げたベルの頭上に、なんか半透明のウィンドウが開いて映像が出た。

「えー! なにこれ! なにそれ!」

 みんなびっくりである。

「ハトさんの視界の映像です。使い魔にしましたんでね、ハトさんが今見ているものがそのまんま映像に出せるんです」

「すげー……」

 ファリアもびっくりである。


「あ、魔王様」

「……走ってる」

 そこには工房都市・エディスンから、この商業都市タートランまでの街道を、全力疾走で走ってる魔王の姿が映っていた。

「転移魔法でまた戻ってくるほどの魔力は残ってませんでしたか。しょうが無いですねえ……。ま、この様子だとあと三十分ぐらいで到着しますかね」

「迎えに行きましょう!」

「迎えにいかなきゃダメだわ……」

「あのかっこうじゃあねえ。服持っていってやらないと衛兵に止められるよ……」

 あちこち黒焦げで真黒、髪の毛はチリチリ、腕も足も服が破けてボロボロで走る魔王であった。



 天使の使いたちが嵐が来るというビラをまいてくれた。

 嵐の前に、教会の尖塔に女神様が降臨なされた!

 運河に落ちたジジイが、なんか「人魚に助けられた」とかもうろくしてる。

 貧民街で鬼女が暴れて屋根を全部吹き飛ばしちまった。

 巨大竜巻が街を襲う前にかろうじて進路を変えてくれて運が良かった。

 教会に天罰が下った! 雷が落ちて火事になるなんてなにかやらかしてるにちがいないぞ教会!


 なんだかおかしな伝説を振りまいて、魔王一家は街を出る。

 今日も何事も無かったかのように、荷車を引いて……。




次回「29.魔王を追う神官」

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