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24.魔王、教会に教えを聞く


「教会に行っても大丈夫だったか? ファリア。気が付かれたりとかしなかったのか」

「別に。私たち魔王様がやめとけって言うから、勇者と戦ったことも無いし、姿や顔が知られてるわけじゃないしね。魔王様がいつも一人で戦ってたけど、魔王様も鎧姿しか見られてないから、顔見ても誰もわからないと思うよ」

「それもそうか」

 宿屋の大部屋でそれぞれにくつろぎながら、みんなから今日の報告を聞く。

 魔王の鎧、もう必要もないから魔王城に放置してきた。それで死んだと思われたかなと魔王は思う。

 実際、魔物、魔族の中には死ぬと消えてしまう種族もいる。


 教会……。女神シャリーテスをたたえる女神教会。

 勇者はそこの所属ということになっている。勇者がどうやって選ばれるかなんて知らないし、買ってきた聖書もまだ読んでないから詳しくはわからない。退屈そうだから聖書なんてあんまり読みたくないのだが……。

「わからないことは直接聞いてみるのが一番かもな」

 明日は教会に行ってみようと思う。



 翌日メンバー全員で教会に行ってみると、大変な騒ぎである。

「魔王がついに倒されたぞ!」

「勇者様がやってくれた!」

「これでもう魔王を恐れる日々はなくなったのだ!」

 とか勝手なことを、教会の前で神官たちが叫んでいて、それを市民のみんながうおーうおーって応えて熱狂してる。

「魔王様ならここにいますのにねえ……」

「どうでもいいだろベル。俺は死んだことにしてくれてなにも問題ない。かえってありがたいぐらいだ。さ、中に入って説教でも聞いてみよう」


 魔王が倒された大変おめでたい日であるためか、今日は女神シャリーテス教の教義を改めて一から説教してくれるそうな。ただ、教会への入場は事実上の受講料である「お布施」を一人金貨一枚を払わなければならないが。

 ま、ケチケチしても仕方がない。メンバー全員分の金貨五枚を払って人でギチギチの祭壇前の席に着く。祭壇の上に神父が昇り、講壇の上から聖書を開いての説教が始まる。魔王が死んだことを祝う記念講演とでもいったところか。ぜひそれに立ち会い歴史の生き証人になりたいという市民たちで満席だ。


 千年前、初めて現れた勇者モーフィスは、「この大陸の北に魔族がいる、その王たる魔王を倒さねば人類の未来は無い」と神に啓示を受け、初めて神に勇者として選ばれた。

「(出だしからなんだかヤク中の妄想そのまんまって感じです)」

「(言うなベル……。人が神の啓示を受けたとかで始まる宗教は多いはずだ。神に会ったとか神を見たとか。特に教祖がいる宗教では)」

「(そんなんだったら誰でも言えるでしょう……)」


 勇者モーフィスは七人の戦士を引き連れ、北の大地に旅立ったが、そこで初めて魔物、魔王たちの猛威に触れ、討伐もかなわぬまま、撤退して息を引き取った。こうして人類は初めて人類に仇成す邪悪な魔族、魔王という存在を知ったのだ。

「(勝手にケンカ売ってきて何言ってるんですかねえ)」

「(まあ魔王がいるんじゃないかと思って行ってみたら本当にいたんだから、これも一つの奇跡ってやつじゃないのか? 聖人認定されるには奇跡を起こした実績がなきゃいけないらしいし)」


 その後、幾人もの勇者が魔王討伐に向かったが、いずれも戻ることはかなわず、そうしている間にも魔王は着々と力をつけ、やがて人間への侵略が始まることは明らかだった。人間は団結し、国どうし力を合わせ多くの軍をつのり、いよいよ魔王討伐隊が初めて結成され、戦争となったのだ。

「(なんという被害妄想……。いいかげんにしてほしいですね)」

「(こんなくだらない理由で戦争になってたのか……。先代の魔王たちが不憫であるな)」

「(歴史上一番不憫な魔王が今ここにいますけどね)」

「(やかましいわ)」


 戦争は一進一退、十余年に及ぶその戦いに決着をつけたのは、勇者シャリーテス。彼女は歴史上始めて女神の加護を得て魔王を倒した女性の勇者である。

「(神様って実在するんですかね?)」

「(さあ、魔族にはそんな伝説は無い。魔族が人間に(あだ)成す存在なら、まず真っ先に魔王の元に神が現れて教え諭すか神罰を食らわすかすると思うがな……。少なくとも人間の前に現れて魔族と戦争して倒せとか言わんだろ)」

「(私が神だったら、魔族領に侵略してきて略奪を繰り返す人間のほうに罰を与えますけどねえ)」


 勇者シャリーテスはたった一人で魔王城に突入、ついに聖剣を奪還した。これが聖剣と、女神シャリーテス伝説の始まりである。

「(まてまてまて。奪還て……。聖剣って元々魔王城にあった物だったのか!?)」

「(まるで自分の物を取り戻したみたいに……。ただのコソドロですよねそれ)」

「(奪還と言うからには人間側から聖剣を魔族が奪ったような話の一つや二つまず無いといかんだろ。そんな話全くなしでいきなり奪還とか……。誰か矛盾に気付く者はいないのか?)」


 聖剣を取り戻し、魔王城から無事戻った勇者シャリーテスは、天使に勇者として改めて認められ、処女受胎を告知される。そうして生まれた男の子、シャルルは真の勇者として目覚め、母から譲られた聖剣を手にし、魔族討伐に立ち上がった。聖剣を手にした勇者はその聖なる力で次々に魔物を討伐し、魔族に奪われた土地を開放し、人々は栄え、現在における豊かさの基礎を築いた。

「(……いかんだろコレ。どう考えてもおかしいだろ処女受胎とか……。普通だったら『どこで(はら)んだこの売女』と罵られてもおかしくないが)」

「(もしかしたら当時の魔王様のお手がついたのでは?)」

「(それはちょっと、飛躍のし過ぎではないかな……)」

 魔王領に一方的に侵攻しておきながら「魔族に奪われた土地を解放し」のくだりにはもうツッコむ気さえ起こらない。


 現在、勇者シャリーテスは勇者の祖として女神として称えられる。その子勇者シャルルは神の子として、その子孫は現在まで連綿と続いている。その直系の子孫が現在の勇者・ダイル。この度ついに魔王の討伐に成功したダイルは、真の勇者の生まれ変わりとしてこの後何世紀も称えられることになるであろう。その新しい歴史の誕生に立ち会うことができた我ら教会の信徒は幸いである。これからも教えを守り、信仰に励めと。

「(……勇者って、もしかして魔王の子孫?)」

「(いやまさか……。魔族だったら長命のはずだが)」

「(人間との混血の雑種じゃあねえ。そこはわかりませんねえ)」


 最後、讃美歌をみんなで歌って、解散である。

「……ファリア、マッディー、起きろ。終わったぞ」

「うんにゃぁ……、あれ、私寝てた?」

「……眠い」

「けっこうおもしろかったけどね」

「私は腹が立ちましたわ」

 スワンとサーパスは真面目に聞いてたようだ。ま、魔族にとっては終始面白い話ではなかったが、スワンには興味深かったか。


「さあみんな。これから宿に戻って緊急会議だ。お菓子でもお茶でもなんでも買っていけ。長くなるぞ」

「あら、どうせなら魔王様と一緒にお買い物したいですわ」

「そうそう。せっかくなんだからさ。奢ってね魔王様!」

 その後、高級な茶葉と一流店のケーキや菓子を山ほど買わされた。ヘタなことは言うもんじゃないなと反省する魔王である……。




ポイントが4000超えました! ありがとうございます!


次回「25.魔王、御前会議を開く」

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王様たち散在しまくっているから金銭感覚崩壊気味だけれども、金貨1枚の価値考えるとひどいなぁ……。 布教目的なら赤字覚悟でよかろうに……
[一言] 入場料ぼったくってこのレベルの駄作……
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