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093_とりあえず殴る!

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

 ■■■■■■■■■■

 093_とりあえず殴る!

 ■■■■■■■■■■



 8階層のボス周回を繰り返すこと3日。

 俺の転生勇者のレベルは53、英雄剣王もレベル53、そして暗殺者はレベル50になった。

 ガンダルバンたちもレベルが上がっているし、そろそろ9階層の攻略に乗り出そうかと思ったその日のことだ。


「ご当主様。あれを」

 屋敷で昼食を摂って休憩していると、バースに促されて窓から外を見つめる。煙がいくつも立ち上っていている。火事か?


「あれはダンジョンがある方向です」

「ダンジョン……まさかグリッソムか……?」

「確認させます」

 隣で煙を見つめていたガンダルバンが、配下を向かわせると言うのを俺は止めた。


「俺が行こう」

 武器や防具はアイテムボックスの中に入っている。クイック装備ですぐに装備することもできる。


「それではすぐに準備します」

 俺だけでいいと言いかけて止めた。ガンダルバンが俺一人で出かけさせるわけがない。この場合の正しい回答は……。


「準備を急いでくれ」

 無難だけど、優等生回答だろう。


「はっ!」

 ガンダルバンが皆を引き連れて食堂を出ていく。


 十五分後には完全装備のいつものメンバーが集まった。

 アンネリーセ、ロザリナ、ガンダルバン、ジョジョク、バース、リン、ソリディア。皆、引き締まった顔をしている。

 コロン、カロン姉妹は兵士たちとともに屋敷を守ってもらうために残す。


「イツクシマさん。屋敷のことは頼んだよ」

「うん。任せて。気をつけてね、トーイ君」

「ああ。それじゃあ、行ってくる」

「ちょっと待った! なんで僕には言葉がないの!?」

「ウザイ」

「うぎゃっ!?」

 ひと言だけ答えて馬車に乗り込んだ。ヤマトが騒いでいるけど、今は急いでいるから無視だ。


 屋敷を出て最初は順調だったが、すぐに馬車が動かなくなった。ダンジョン方向から人が逃げてきて、道を塞いでしまっている。反対に俺たちのほうが邪魔だと言われる始末だ。


「馬車を降りるぞ」

 馬車や馬は兵士たちに任せて、人の波に逆らうように進んだ。

 激しい爆発音が間断なく聞こえてくる。もうすぐダンジョンだというところで、人はほとんどいなくなった。いや、あちらこちらに人が倒れていて、それだけで凄惨で惨たらしい光景が広がっていた。


 建物もかなり酷く倒壊していて、ダンジョンを囲っていた石造りの建物は見る影もない。あまりの惨状に、ガンダルバンたちは声も出せないでいる。


 ズッドーンッ。

「っ!?」

 建物の2階部分が抉られるように吹き飛んで、その後ろから黒い影が現れた。


 3階建ての建物くらいあるその影が露わになった時、俺は顔を歪めた。

「町がぐちゃぐちゃじゃないか」


「あれは……まさか!?」

「……悪魔っ!?」

 ガンダルバンの呟きにアンネリーセが応えたわけではないが、あれは悪魔だ。

 人間のような体は漆黒の肌で、さらに腕が11本と顔が6個ある。

 顔が通常あるところに牡羊の巻き角を生やした悪魔の顔があって、狂気を思い起こさせる真っ赤な目と裂けた口から鋭い牙が見えている。

 左右の肩の上に2つずつ顔があり、これは人間の顔だ。どこかで見たことがある顔だが、最後の顔を見て思い出した。


「グリッソムッ!?」

 巨大な体の分厚い胸の中心に、グリッソムの顔があるのだ。

 両肩の4つの顔はグリッソムの仲間たちのものだ。

 細かいことを言うようだが、グリッソムの仲間は5人いたはずで顔が1つ足りない。もしかしてあの悪魔の頭がそいつか?


「グオォォォッ」

 悪魔の顔が雄叫びを発し、衝撃波となって空気を伝い建物を破壊する。倒壊寸前だった建物は完全に破壊されて瓦礫の山になり、壊れていなかった建物にヒビが走り壁が落ちる。


「大声を出したからといって勝てると思うなよ!」

 腰に佩いた魔剣サルマンの柄に手をかける。


「トーイ様。落ちついてください」

 アンネリーセが俺の腕に手をそっと当てる。


「怒りは力を与えますが、怒りに任せて戦ってはいけません。怒りによる戦いは決してトーイ様のためにならないものです」

 アンネリーセの天使のような声を聞くと、不思議と怒りが収まっていき冷静さが顔を出す。

 グリッソムから直接危害を加えられたアンネリーセが落ちついて俺を諫めてくれる。彼女のほうが怒るべきなのに、冷静に俺を落ちつかせてくれた。本当に彼女には頭が上がらないな。


「ありがとう、アンネリーセ。もう落ちついたから大丈夫だ」

 冷静になって、あいつを詳細鑑定する。


 あいつの名前は中級悪魔モトロクト。

 どうやらグリッソムたちはダンジョンの中で中級悪魔モトロクトの腕の一部を手に入れたらしい。それを使ったら悪魔になったようだ。

 まさかあの毒の沼の宝箱の中身がこれとはな……。ダンジョンでは呪われたアイテムも手に入ると聞いていたが、これは呪い以上に厄介なものだ。


 他人に迷惑をかけるものを宝箱の中に後生大事に入れておくなよな。

 あー、でも……誰かの手に入らないように極悪な毒の沼の中の宝箱に、悪魔の腕を封印したという考え方もあるのか? それならもっと奥の階層に封印してほしいものだ。

 どういった理由にしろ、鑑定して安全だと分かってないものを使ったグリッソムが悪い。そもそも悪魔の腕を杖と勘違いするとか、間抜けすぎて言葉が出ないぞ。


「フットシックル男爵!」

 俺の名を呼んだのは王女の側近の1人、王国騎士団長バルバドス。バルカンとほぼ同じレベルの強者で、この国最強と言われる男だ。

 バルバドスは中級悪魔モトロクトと戦っていたのか、鎧がボロボロだ。それにかなり酷い怪我をしているようだ。血が激しく流れているようで、地面に血だまりが広がっていく。


「アンネリーセ!」

「はい」

 アンネリーセの回復魔法で、バルバドスの傷を癒す。流れ出した血を補うことはできないが、これで死ぬことはないだろう。


「これは……」

「バルバドス団長。状況説明を!」

 アンネリーセの魔法の詮索なんてしなくていいんだよ。


「む……分かった。我らはダンジョンからグリッソムが出てきたと報告を受け、直ちに動いた。グリッソムはダンジョンの中で仲間を1人失ったと探索者ギルドに報告、ダンジョンで得たアイテムの換金をしている間に我らはギルドを包囲した」

 バルバドスの動きは素早く、グリッソムが金を受け取って探索者ギルドから出てきたところで身柄を拘束しようとした。その際に暴れたグリッソムが杖のようなものを出したと思ったら、あの姿に変化したらしい。


 グリッソムが出した杖のようなものが中級悪魔モトロクトの腕だったという落ちだな。

 いいさ、悪魔だろうが神だろうが、グリッソムの顔がそこにあるならぶっ飛ばすだけだ。


「バルバドス団長、兵士たちを下げてください。後は俺たちが引き受けます」

「それはできぬ。我らはこの国を守る騎士団だ。悪魔を前に引くわけにはいかないのだ」

 そういう意地というのを理解できないわけじゃないけどさ……。


「その意地によって兵力が落ちたら、この国を守ることさえできなくなるんじゃないのですか?」

「うっ……」

「どうしても引けない場所はあるでしょう。でもそれは今じゃない。ここは俺たちに任せて、被害者の救助をお願いします」

 バルバドスたちが命を懸けるべき場所はここではなく、もっと別の場所だ。そういったことは起こらないほうがいいけどね。


「分かった。兵を引こう。援軍感謝する、フットシックル男爵」

「はい。感謝を受け取りました」

 バルバドスが俺から離れていく。血を流し過ぎて顔面蒼白だったが、気力で体を動かしているんだろうな。


「ガンダルバン!」

「はっ!」

「あれは中級悪魔だ。過去に倒した下級悪魔よりもレベルは高く54だ。受け止められるか?」

 ガンダルバンの口角が上がる。ふてぶてしい笑みだ。


「あのような雑魚に後れはとりません」

 自信満々だな。それでいい。あんな奴に気後れしていては、王都ダンジョンの9階層でやっていけないからな。


「ロザリナ!」

「はいなのです!」

「バース!」

「はっ!」

「ジョジョク!」

「はっ!」

「リン!」

「はい!」

「ソリディア!」

「はい!」

「幸いと言っていいか分からんが、周囲は瓦礫だらけだ。誰かに気兼ねすることなく、思いっきりぶっ飛ばしてやれ!」

 5人は気合の入った表情で、頷く。


「アンネリーセ」

「はい」

「これでグリッソムとの因縁に決着をつける」

「はい」

「待たせたね」

「そう言っていただけるだけで、私は嬉しいです」

 アンネリーセの微笑みが俺の心を奮い立たせる。


「さあ殺り合おうか。グリッソム」

 悪魔に意識を乗っ取られているかもだが、そんなことはどうでもいい。あれが悪魔でもグリッソムを含んでいるのなら、その顔面を殴ってやるだけだ。


 バルバドスの指示で兵士が下がっていく。

 アンネリーセの魔力が膨れ上がる。

「デカいのをぶちかませ!」

「はい! サンダーバースト!」

 轟音と閃光。

 天空から一筋の雷が落ち、中級悪魔モトロクトは超高温で焼かれ、さらに超高圧電流によって全身が痙攣する。


「グオオオオオオオオオッ。人間如きがぁぁぁぁっ!」

「なんだお前、ちゃんと喋れるのか? 以前戦った下級悪魔はカタコトだったぞ。ヒロイック・スラッシュ」

 サンダーバーストのエフェクトが消えた瞬間、俺は飛び出して中級悪魔モトロクトの頭部に魔剣サルマンを振り下ろした。


 ヒロイック・スラッシュは敵のHPの最大値を2割に落とす英雄剣王のスキルだ。

 このヒロイック・スラッシュがあるだけで、ボス戦やこういった悪魔との戦いは楽になる。


 中級悪魔モトロクトの頭部は首の辺りまで真っ二つになったが、11本の腕が俺を捕まえようと迫ってくる。

 顔面が左右に斬り分かれているのに、反撃しようと動くのは褒めてやるよ。だがな……。


「お前は甘いんだよ」

 ガンダルバンの突進をその腹部で受けた中級悪魔モトロクトが吹き飛んだ。


「俺ばかりを見ていると、足をすくわれるぞ」

 せっかく顔が6つもあるんだ。よく見ておけよ。


「アンガーロックッ!」

 ガンダルバンが敵対心を一身に集める。


「人間如きにっ!」

「それしか言えないのか!」

 ジョジョクの秘剣斬が炸裂。ATK値5倍の攻撃で発動後30分使用不可になる使いどころが難しいスキルだが、俺のヒロイック・スラッシュの後なら効果は絶大だ。


 中級悪魔モトロクトのHPが一気に下がる。


「「「「シー・ニー・ター・クー・ナー・イー」」」」

 グリッソムの4人の仲間たちの声だ。

 その姿はすでに死んでいると思うのは俺だけじゃないと思うぞ。それにもし生きていても、以前の人間だった時の姿には戻れないだろう。


「「「「シー・ニー・ター・クー・ナー・イー」」」」

 うっ……なんだこれは……? 体が重い……。

 まるで重力が何倍にもなったような重圧を受ける。体が重く怠い。


「シー・ニー・ター・クー・ナー・イー」

「シー・ニー・ター・クー・ナー・イー」

「シー・ニー・ター・クー・ナー・イー」

「シー・ニー・ター・クー・ナー・イー」

 4人の声を聞いた俺たちは、地面に膝をついた。

 どうやら精神攻撃のようだ。面倒な攻撃をしてくれる。


「させない!」

 リンの魔槍が左肩の顔を貫く。

 どうやら槍聖のリンには効果がないか、効果があっても軽度だったようだ。


 俺のメインジョブは英雄剣王、サブジョブは暗殺者にしていたからレジストできなかったようだ。

 ただサブジョブが転生勇者だったらレジストできたかもだが、どこで鑑定されるか分からないから転生勇者ではなく暗殺者の偽装が必要なんだよ。

 真昼間でどこから見られているか分からない状況では、転生勇者は死にジョブなんだよな。


 リンの攻撃を受けて、精神攻撃が切れた。


「よくもやってくれたな!」

 バースが魔力を込めまくった魔毒の弓から矢が放たれ、その矢が右肩の顔に深々と刺さった。


「キャァァァッ」

 矢の刺さった女の顔が悲鳴をあげる。

 その顔は矢の刺さったところから青紫の痣が広がってゆく。毒がじわじわと中級悪魔モトロクトを侵食してゆく。


 そうこうしている間に、俺が斬った悪魔の顔が再生してゆく。傷1つない状態に修復された顔が、不敵な笑みを浮かべた。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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三章もクライマックスに差しかかってまいりました。

応援よろしくお願いします!

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マイホーム・マイライフ【普通の加護でも積もれば山(チート)となる】
― 新着の感想 ―
[良い点] セリフに臨場感があって皆の様子浮かんでくる(*´ω`*)
[一言] 毒沼宝箱の中身は一度回収していて、その中身が毒効果のある弓でしたよね 手を出さなかった宝箱はモンスターハウスのもの
[良い点] もう一回殴れるドン!
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