090_唯我独尊グリッソム
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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090_唯我独尊グリッソム
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ダンジョンムーヴで2階層に移動した。今日は探索者と神官に転職する予定の兵士を連れてダンジョンに入っている。
「探索者になると、今のダンジョンムーヴが使えるようになる。深い階層になればなるほど、ダンジョンムーヴは効果を発揮するいいスキルだ」
探索者候補は5人だが、今回は2人を連れてきた。ジョブ・探索者を取得するには、ダンジョン探索初日に単独でモンスターを20体倒す必要があるから、あまり多く連れてきても討伐ができないんだよね。
神官候補も同じく2人を連れてきた。ジョブ・村人で自分よりもレベルの高いモンスターを10体倒すことが転職条件だから、こちらは時間制限はないから後からだ。
普通の武器をヤマトが強化し、俺が魔法を付与した魔剣や魔槍を4人に持たせている。
俺のミスリルの両手剣を貸してもいいが、効果が地味なんだよね。だから派手な効果がある魔剣を使わせる。そのほうが気後れしないだろうと思ったんだ。
ここでこの2人が探索者になれば、後は俺が9階層までダンジョンムーヴで移動すれば、この2人でも移動が可能になる。
その後はガンダルバンとこの2人に任せておけば、他の3人も探索者に転職して9階層まで自由に行けるようになるだろう。
探索者が5人もいて9階層まで行けるとレベル上げがしやすくなるし、ガンダルバンたちが交代で兵士をダンジョンで鍛えることができる。
レベルを上げると、その副産物としてドロップアイテムの換金額も高くなる。奴隷にはダンジョンで得たアイテム換金額の0.5パーセントが支払われる。たった0.5パーセントと思うかもだが、8階層ともなると億単位の儲けがあるのだから、それだけで数百万グリルが懐に入ることになる。自分を買い戻す資金などすぐに手にすることができるはずだ。
探索者候補の2人と神官候補の2人は最初モンスターを前に腰が引けていたが、武器だけでなく防具もかなりいいものだから攻撃を受けても大怪我をしないことを知ると安心したのか、すんなりと探索者と神官を取得した。
「あんなに簡単に得られると、ジョブのありがたみが薄れます……」
アンネリーセが呆れるほどスムーズであっさりだった。
屋敷に帰って、ガンダルバンたちに探索者と神官取得を報告した。
「これでご当主様に頼らずにダンジョンの9階層まで行けますな」
ガンダルバンはウンウンと頷く。
「俺自身もレベルは上げたいからダンジョン探索は続けるし、王女と約束したから10階層のモンスターを1000体間引くつもりだ」
「ご当主様がいますと、ダンジョン探索もかなり安全にできます。しかし家臣としてはそれに甘えるわけにはいきません。ですから兵士たちをダンジョンに連れていき、厳しく鍛えるつもりです」
「厳しくするのはいいが、細心の注意を払ってくれよ。せっかく育てても、死んだら意味がないからな」
「承知しました」
ガンダルバンはとてもやる気だ。兵士たちは少し気の毒になるが、温い訓練で甘ちゃんになってもらっても困るからこれでいいだろう。
「うちも結構な大所帯になった。そこでバース、ジョジョク、リン、ソリディア、ロザリナの5人を騎士にしようと思う」
「良い頃合いでしょう。某は賛成です」
ガンダルバンが賛同してくれた。
「俺たちが騎士ですか。身分不相応な気がしますが……」
「レベル48のソードマスターが騎士程度で身分不相応などという話はないだろ」
ジョジョクだけでなく、ガンダルバン、バース、リン、ソリディア、ロザリナは全員レベル48だ。すでにバルカンどころか王国騎士団長バルバドスさえも超えているんだよ。
「バース、ジョジョク、リン、ソリディア、ロザリナは騎士になってもらい、奴隷たちを4人ずつ部下として鍛えてもらおうか」
それぞれに4、5人ずつ部下をつけることにしたが、兵士たちが全員目当てのジョブを取得してから配属だな。
「コロン、カロンもレベルはかなり高くなったが、今回は保留だな。役職ではないが、従士長といった感じか」
「私たちなどまだまだですから」
「今の待遇でも過分ですから」
コロンとカロンのレベルは42。バルカンやバルバドスと肩を並べるレベルだ。それはこの国の最強たちと肩を並べたことになる。よくがんばったな。
「最後にガンダルバンは騎士長だな。これからも皆の面倒を見てやってくれ」
「身に余る光栄。謹んでお受けいたします」
「ガンダルバンは相変わらず堅いな」
「性分にございますれば」
そういうのが堅いんだよ。
アンネリーセの愛の賢者もレベル48。
俺は転生勇者Lv45。英雄剣王Lv35。
「旦那様。城から使者様がお越しにございます」
エンリケに不意に告げられる。城から使者がやって来た? なんで?
「明日登城されるように」
使者はそう言い残し、帰っていった。
俺、最近何もしてないよな? 王家に対して。
「明日、登城するから用意を頼む」
「承知しました」
城か~。姿を現したまま城に入るのは、いつ以来だったかな?
▽▽▽ Side グリッソム ▽▽▽
王都ダンジョン6階層で10日ほど過ごし、モンスターを狩っていたグリッソムのパーティー。今回はレアドロップが意外と多く、ホクホク顔で帰途についた。
順調に5階層、4階層と進み、出てくるモンスターを余裕で倒せるようになったところで一泊する。
「おい、野営の準備だ。早くしろ!」
同じパーティーの仲間―――グリッソムにとっては小間使いのような者たちに、野営の準備を命じる。その中でも最も立場の弱い男性探索者―――トトナスがそそくさと準備をする。
野営と言っても火はなく、食事として硬いパンと塩辛い干し肉と水を用意する。仲間たちがその食料を食べている間に、毛布を敷いた寝床をセットするのがトトナスの役目だ。
「クソッ不味いなっ!」
グリッソムは硬いパンに文句を言いながら齧りつく。
このパーティーにあって、グリッソムは王である。誰も逆らえない王なのだ。
だから5人は何も言わない。グリッソムには父親の後ろ盾もあれば、本人も厭らしいジョブ・弱体呪術士だ。
しかもグリッソムが行っている悪行を知っているだけに、なぜグリッソムのジョブが盗賊にならないのか仲間たちには不思議で恐ろしかったのだ。ジョブが盗賊に変わっても元のジョブに転職させてくれる神官長ダンデリーの存在を知る由もない仲間―――下僕たちである。
それにグリッソムと一緒にいれば、ある程度いい生活ができるのも大きい。
適度に睡眠をとって体力が回復したところで、再びダンジョンの出口に向かって進む。
そして3階層に入ったグリッソムは、出口へ向かう道とは違う道へ進んだ。
「相変わらず辛気臭い場所だな」
見渡す限りの毒の沼。およそ30メートル先には、宝箱が鎮座している。
この毒の沼の宝箱は1度なくなったと聞いたことがあるが、最近また現れた。
宝箱が同じ場所に現れるなど聞いたことがない。
ここは過去に空を飛べる鳥系獣人が宝箱を目指した。しかしその鳥獣人は空気中の毒素を吸い込んで気を失い、毒の沼に落下して帰らぬ人となった。
ある者は耐毒のアイテムを身につけて毒の沼に入ったが、耐性を上回る毒素によって動けなくなって毒の沼に沈んだ。
そういったことから、あの宝箱は簡単に手に入れることはできぬ。
「おい行け」
またトトナスだ。
ただしグリッソムもただトトナスを殺そうというのではない。父親のコネで耐毒のアイテムを手に入れている。その辺りにあるような、微毒や弱毒用のものではなく、強毒にも耐えるものだ。
強毒耐性のあるマスク型のアイテムをつけたトトナスは、恐る恐る毒の沼に入っていく。
「あ……大丈夫だ」
「それは高かったんだ。当然だろ!」
グリッソムは早く行けと、トトナスを罵る。
グリッソムの態度に腹は立つが、逆らうと抹殺される。
これまでに何人もの仲間が殺されたり、エルバシル伯爵によって冤罪を被せられて奴隷に落とされた。
今回の耐毒のアイテムは、トトナスを守り切った。
トトナスは宝箱の前に立ち、その蓋に手を伸ばした。
―――ドンッ。
宝箱の罠が発動し、トトナスは爆発によって吹き飛ばされた。
意識が飛び、マジック型の防毒アイテムが破壊されたトトナスは、毒の沼に沈んでいく。
これだけ厳重に毒で守られているのだから、宝箱には罠などないとグリッソムたちは甘く考えていたのだ。
トーイたちがこの宝箱に手を出した時は、特に罠はなかった。簡単に取られたせいか、罠までついていた。
「ちっ、罠まであるのか、あの宝箱は!?」
トトナスのことを心配することなく、グリッソムは罠に対して毒づく。
その時だった。潮が引く干潟のように、毒の沼がスーッと消えていった。
「おっ!? これなら行けるぞ! おい、ザッカー。お前が行け!」
グリッソムはパーティーメンバーのザッカーに、行けと命じる。安全だと確認されるまでは自分では立ち入らない慎重さは持ち合わせている。しかし仲間(とは思っていない)の命を軽々しく扱うグリッソムに、パーティーメンバーはいい顔をしない。
ザッカーもグリッソムに逆らうのは得策ではないと、毒が引いたエリアに入っていく。ここで命を落とすか、グリッソムに殺されるかの違いだと、腹を括ったのだ。
ここで仲間たちと力を合わせてグリッソムを倒そうという判断はない。グリッソムが帰ってこなかったことを知ったエルバシル伯爵が、ザッカーたちだけでなくその家族に報復をするのが目に見えているからだ。
ザッカーたちだけ生き残ったら、どう言いつくろっても報復対象になるのだ。
途中で倒れているトトナスの状態を確認するが、すでに事切れていた。それを首を振って仲間たちに伝える。
仲間たちはトトナスの死に、一定の悲しみを覚えた。しかしグリッソムにそんな感情はない。
「そんな奴はどうでもいい。早く宝箱まで行け!」
ため息を吐いて立ち上がったザッカーは、宝箱へ足を進めた。
宝箱の蓋は開いていて、中には古びた杖のようなものが入っていた。
呪われていそうな不気味な杖に手を伸ばすのは躊躇したが、それを手に取ってグリッソムたちが待つところまで戻る。
「これが宝箱のアイテムか!」
先端が丸くなっていて、まるで枯れた枝のようなその杖をグリッソムはマジマジと眺めた。
鑑定の結果次第だが、杖だからグリッソムの装備になるだろう。
これだけ厳重に守られていたアイテムだから、とてもいいマジックアイテムに違いない。期待が胸を膨らませる。
グリッソムパーティーは、8割をグリッソムが持っていく。残った2割を皆で分配するのだが、それでもそこそこの収入になる。ただし換金されなければ仲間たちの取り分はないから宝箱に10万黒金貨が詰まっていてくれればと期待したが、換金できそうにないアイテムにメンバーたちは残念な思いだった。
「おい、もたもたするな! さっさと帰るぞ!」
気をよくしたグリッソムが歩き出す。
メンバーはトトナスの持っていた荷物を分担して運ぶ。もちろんグリッソムは何も持っていない。腹が立つが、グリッソムには逆らえない。
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