086_リリスとソドン
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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086_リリスとソドン
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屋敷に帰ると、早速子供たちのことをガンダルバンたちに話した。
「当主様がしたいようにすればよいかと。幸いなことに資金は豊富ですし」
ガンダルバンは不満そうな表情で好きにしろと言う。
ツンデレかよ!
クマ大男のツンデレは需要ないからな!
などと心の中でツッコみを入れておこう。
「明日の朝は、皆で出張る。そこで二手に分かれて活動だ」
「子供たちに食事を与えるだけではないのですね。子供たちのこと以外に何をすればいいのですか?」
ガンダルバンがグイグイ来る。子供好きなんだろ? そんな厳つい顔をしてても、俺には分かるぞ。
「俺は王都に拠点を置こうと思っている。ジョジョクはコロンとカロンを連れて、ゴルテオ商会で物件を探してくれ。1億グリル以内で購入できる物件で、庭が広いほうがいいな」
ゴルテオ商会のシャルニーニさんから挨拶を受けてから、店に行ってないんだよね。だからここらでパーッとお金を使っておこうと思う。
「承知しました」
8階層で7億グリルも稼いだから、1億グリルくらい使っても資金ショートはしない。男爵の俸給が年間1200万グリルだから、貴族なんかしているよりも全然儲かっている。
「公爵屋敷を引き払うのですか?」
「すぐにではないけど、公爵屋敷では好き勝手できないだろ」
「どんなことをするか知りませんが、ほどほどにお願いします」
「何を言うか、俺は控えめな人間だぞ」
「「「………」」」
なんで皆でそんな目をするんだよ!?
「あー、僕はジョジョクさんについていくよ。これでも僕は建築家を目指していたからね」
「ヤマトが建築家志望だったのか。知らなかったな」
「自慢じゃないけど、友達はいなかったから誰にも言ってないよ」
本当に自慢にならないぞ。
まあ、俺も同じようなものだけどな。
「私はトーイ君についていくね。子供たちを放っておけないから」
「いいけど、子供たちをなんでもかんでも救えるわけじゃないからね。イツクシマさんの思い通りにならないほうが多いと思うから、それは覚悟しておいてね」
「うん」
あのような子供たちは、この王都だけでもかなり多くいるはずだ。それを全て救うなんてこと、俺にはできない。個人にできることなんて、たかが知れている。
朝、俺たちは町に繰り出した。
屋台街はすでに賑わっていて、バースにはまた買い出しを頼んだ。
一本奥まった裏路地に入った俺たちは目を疑う。
「これはまた多いな……」
昨日の倍の60人はいそうだ。
しかも袋を持ってない子は、自分が汚れるのも構わずにゴミを抱きかかえている。元々汚れているけどさ……。
「袋を持っている子は、アンネリーセとイツクシマさんに任せた。俺はそれ以外の子を担当する。ロザリナは俺が見終わった子に食べ物をやってくれ。ガンダルバンたちは子供たちを並ばせてくれ」
皆が任せろと仕事をする。子供たちもその指示に従って、喧嘩せずに並んでくれる。
リリスについてはアンネリーセに待たせておくように頼んだ。
大きな木の箱を出して、そこにゴミを入れてもらう。俺が4、5人入れる木箱だ。これならアイテムボックスの枠を圧迫せずに収納できる。
子供の名前を聞き、詳細鑑定をし、食べ物を与えていく。
「ふー、やっと終わったな」
そこまで重労働ではないが、詳細鑑定の結果を確認するのに少し時間がかかる。
「やあ、リリス。食べ物はもらったかい?」
「はい。美味しかったです」
「それは良かった」
リリスの他にもう1人待ってもらっている。
「君はソドンだったな」
「そうだよ」
ソドンはウォンバットの獣人で、こちらも小柄な12歳の少年だ。汚れた丸顔は愛嬌がある。まさかウォンバットがこっちの世界でもいるとは思わなかったよ。そんなソドンも転職可能なジョブがある。
ソドンも12歳だが、リリスと同じように9歳くらいにしか見えない。
それだけ栄養が不足して、体の発育が悪いのだろう。
え、俺も小さいって? 聞こえませーん。この体はあの神(仮)が勝手に用意したものだからノーカンということで。
「お腹は膨れたか?」
「お、オラ……まだ足りないだよ」
「そうか。足りないか」
2人の前に肉の串焼きを差し出す。2人の手が伸びてきたが、俺は肉の串焼きを引っ込める。意地悪いことをしていると思うが、これも演出のうちだ。
「「あ……」」
2人は悲しそうに肉の串焼きと俺を見てくる。
「俺の家臣になれば、飢えることはないぞ」
飢えている子に食べ物を見せて家臣になれとか、自分でもクズなことをしていると思う。
「俺は貴族だ。家臣になれば飢えさせないし、給金も出るぞ」
2人はどうしようかと顔を見合わせて迷った。
「当主様はとても優しいのです。大丈夫なのです」
ロザリナがとても優しげな笑みを浮かべる。
「そうですよ。私たちのトーイ様は、2人が嫌がることをさせないでしょう。安心してお仕えしなさい」
アンネリーセの慈愛がこもった瞳で見つめられ囁かれたら、どんなことでも「うん」と言いそうになる。
「家臣ってなんだな?」
ソドンは家臣という言葉が分からないか。
「家臣というのはな、簡単に言うと俺の下で働くということだ」
「オラを雇ってくれるだか?」
「そういうことだ」
「何をするだか? 草むしりだか? ゴミ拾いだか?」
「まずは勉強だ。俺の家臣になるのだから、文字の読み書きや簡単な計算ができないとな。あと、風呂に入って身綺麗にしろ。服も綺麗に洗濯されたものを着るんだ」
「綺麗な服が着られるだか?」
「そうだ。真面目に働いてくれたら、綺麗な服を着て、美味しい料理を食べて、温かいベッドに寝られるぞ」
「ベッド……オラ、ベッドで寝られるだか? 寒くないだか?」
「ああ、ふかふかのベッドで、温かいぞ」
「オラ家臣になるだ」
「よし、ソドンは今から俺の家臣だ。そこにいる大きなオジサンの言うことを聞いて、真面目に働くんだぞ」
ソドンは男の子だからガンダルバンにしばらく任せよう。
ソドンに肉の串焼きを渡して、リリスに向き直る。
「リリスはどうする?」
「私は……お母さんがいるから……」
リリスに母親がいることは、詳細鑑定が教えてくれた。
「大丈夫だ。お母さんも一緒でいいぞ」
「え? 本当にお母さんも一緒でいいのですか?」
「ソドンと同じようにリリスが俺の家臣になるのなら、お母さんの面倒は俺が見てやろう。病気なんだろ? 治るか保証できないが、治療してやろう」
「っ!? な、なぜお母さんが病気だと……?」
「俺には色々な目があるんだ。だからリリスのお母さんが病気なのは知っているぞ」
そんなこと聞いたら普通は怖いと思うだろう。
さて、リリスはどんな反応をするか。
「本当にお母さんの治療をしてくれますか?」
俺の目に関しては、何も聞かないんだな。
「治療を行うと約束する。でも治るかはさすがに保証できないぞ」
「それでいいです。私はトーイ様の家臣になりますので、お母さんの治療をお願いします」
よし、リリスも仮契約成立だ。
「よし、リリスのお母さんのところに行くぞ!」
「はい!」
全員でリリスの母親のところへ向かった。
スラムの中に入るが、誰も絡んでこない。ガンダルバンやリンのような武装した護衛がいるからだろう。特にガンダルバンの外見は、他者を威圧するのに丁度いい。
お世辞にも立派な家とは言えない窓さえない掘っ立て小屋がリリスの家だった。
ボロ布で入り口を仕切っているだけの小屋に入る。中は暗いかと思ったが、板の隙間から光が差し込んでいるから、そこそこ見える。
ベッドなどない板の上に直にリリスの母親は寝ていて、ボロ布を被っていた。
「あなたたちは……」
力のない声だ。
「お母さん。私、こちらのトーイ様のところで働くことになったの。それでトーイ様がお母さんの治療をしてくださるの」
「リリス、あなた……」
体を売ったわけじゃないからね。そんな悲壮感のある声を出さないでくれるかな。
「ちょっと失礼」
詳細鑑定君、お仕事ですよ!
……よし、これなら大丈夫だ。大丈夫じゃないけど、症状を軽減くらいはできる。
―――癒し。
ほんのり母親の体が光る。
―――詳細鑑定。
完治はしてないが、症状は軽減した。
俺のスキル・癒しの熟練度は(微)だから、大きな効果はない。
母親の症状は栄養失調と風邪、あと喘息と肺炎。かなり悪い。
栄養失調は栄養のある食事と治療を継続して行えば問題ないし、風邪は今の癒しで治った。
問題は喘息と肺炎だ。今回の癒しは症状を軽くしただけで、全快させるのは無理だ。肺炎は治療を続ければ治るだろうが、問題は喘息だ。喘息は俺では治せない。
スキル・癒しの熟練度が上れば喘息も完治させることができると思うが、そこまで熟練度を上げるのは面倒くさい。ジョブ・聖赦官は転職ができればいい程度のものなんだよね、俺の中では。
「体が……楽になりました」
「トーイ様。お母さんは?」
「俺のスキルでは症状の軽減しかできないが、全快させることは可能だ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
リリスは目に涙を浮かべ、何度も頭を下げてくる。
まだ全快したわけじゃないからな。
「ここでは碌に治療もできない。屋敷に連れて帰るぞ」
「私などを……」
母親は断ろうとするが、ガンダルバンに馬車へ乗せるように指示する。
「リリス。持っていくものがあったら、回収しておけよ。もうここには二度と戻ってこないからな」
「私たちは何も持ってないですから、大丈夫です」
「……そうか」
リリスは母親の横に座って、体を支えた。
さあ、出発だ。と思ったら、3人の男たちが現れた。
「ローラとリリスをどこに連れていくんだ?」
ローラというのは、母親の名前だ。
「お前たちには関係ない。下がれ」
ガンダルバンが威圧を放つ。
「くっ……」
男たちは後ずさるが、ガンダルバンに食い下がる。
「ローラに金を貸しているんだ。勝手なことをされると困るんですよ、旦那」
借金取りか。俺はガンダルバンを後ろに下げ、3人の前に出て行く。
「借金はいくらだ?」
「100万グリルですよ、お嬢ちゃん」
誰がお嬢ちゃんだ、誰が。ぶっ飛ばすぞ、この野郎。
「そんなに借金してないです。お母さんが借りたのは1万グリルです」
リリスが悲痛な声を出す。
「と言っているが?」
「借金には利子というものがつくのが当然ですぜ、お嬢ちゃん」
またお嬢ちゃんと言ったな、この野郎。
「しかし1万グリルが100万グリルとは、ずいぶんな高利じゃないか」
利子がつくのは理解するが、あまりにも高利だ。
「へへへ。そう言われても商売なんでね」
威圧を放つ。
「「「ぐへっ……」」」
3人が地面に座りこんだ。
「あまり調子に乗ると、痛い目を見るぞ」
そう言って男の首をトントンと叩くと、3人が青ざめる。
怖がらせるのはこのくらいでいいだろう。
サブジョブを拠点豪商に変更。
「その借金は俺が払ってやろう」
「へ、へい。ありがとうございます。90万グリルになります」
スキル・値引(微)の効果で1割引きになった(笑)
屋台などでスキル・値引を使うのはさすがに気が引けるが、こういう悪どい奴らなら全然心が痛まない。
さすがに1万グリルが100万グリルってあり得ないだろ。
借金取りに10万黒金貨を9枚渡す。
「へへへ。ありがとうございます。またのご利用を」
「おい、借用書を渡せ」
「こちらです」
受け取った借用書をビリビリ破る。
「よし、帰るぞ」
馬車に乗り込んだ。
「はっ。出発だ!」
ガンダルバンのかけ声で、馬車が動く。
ご愛読ありがとうございます。
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