083_王女の奮闘
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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083_王女の奮闘
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数日ぶりに城に入った。もちろん姿を隠して王女の執務室へ。言っておくがストーカーじゃないからね。
「殿下。これより裏ギルド摘発に向かいます」
騎士団長のバルバドスが背筋を伸ばして、王女に報告した。
どうやらこれから悪党どもの一斉検挙が行われるようだ。
「情報管理に抜かりはありませんね?」
すまん。俺がここにいる時点で情報管理はアウトだ。
でも安心してほしい。俺は悪党に情報を流すほど腐ってないから。
「鑑定士総出で白だと確認した者たちばかりを集めております」
「皆の無事の帰還を祈っております」
「はっ!」
つまり黒の奴もいたということか。聞けば、騎士団員の二割くらいが引っかかって、騎士団は人手不足らしい。おかげで城の牢が満員御礼状態だとか。
どうでもいいけど、この世界では大入袋はもらえないらしい。まあ牢が満員では、嬉しくないどころか笑えないからな。
王女の執務室を出ていくバルバドスに俺もついていく。今回は国王暗殺未遂のため手加減はしないと、かなり意気込んでいる。
国王暗殺の黒幕は裏ギルドのギルド長だ。
そのギルド長だけど、実は王妃の兄のベナス侯爵だったりする。しかも内務大臣でもあるんだね。驚いたよ、本当に。
ベナス侯爵は財務大臣ほど大っぴらではないが、不正をしていた。しかも不正よりも絶対にバレてはいけない裏ギルドのギルド長までしていた。
先代侯爵が裏ギルドを作り、現侯爵が大きく成長させた生粋のクズ親子だ。
妹が王妃になる幸運にも恵まれ、内務大臣という国の重職にも就いた。
王妃選びの時にベナス侯爵家をしっかり調査しなかったのかと、呆れるよ。でも簡単に分かるようなら、侯爵家はもっと早くに潰れていただろう。
とにかくベナス侯爵家は、表と裏で大きな力を得た。そしてその表の地位を利用してさらに裏ギルドを飛躍させたのだ。
そんな時に国王が勇者召喚を行う意向を固めた。最初は国王が財務大臣にそそのかされていると思っていたベナス侯爵だったが、その勇者の力を借りて国内の不正を正そうとしていることを知った。
財務大臣がどうなろうと構わないが、裏ギルドを率いていることから下手なことをされては困るとベナス侯爵は考え、国王を病死に見せかけて殺そうと計画したらしい。
国王のそばには妹の王妃がいて、さらには神官長は部下の副ギルド長だった。国王に毒を盛るのはそんなに難しい話ではない。
念のため侍医を味方につけようとしたら、思いのほか頑固だったから家族を拉致して言うことを聞かせた。
粛々と国王を蝕む毒を盛り、あと1カ月もすれば国王は病死するはずだった。
ダーガン病は不治の病として知られているが、衰弱する速度は遅い。それが幸いしたようだ。
多くの病気は神官やポーションで治せるが、ダーガン病はその対象外の病だ。だから時間がかかってもダーガン病のようにじわじわ衰弱させる必要があった。下手に急死させるとダーガン病ではないと思われ、毒殺を疑われるからね。
王女はベナス侯爵家を族滅させる決意をした。国王暗殺は未遂でもそれほど重い罪に問われるということだ。
騎士団はいくつかに分かれて、一斉検挙を行う。
騎士団長は指揮がしやすいように、城を出て貴族街と平民街の境付近に陣取った。
「第一部隊、突入しました」
「ご苦労」
伝令が作戦行動の報告する。
「今日こそはこの国の膿を全て出してくれる!」
バルバドスの鼻息は荒い。
俺としても膿は出し切って、健全な国家運営をしてほしい。この国で地盤を築きつつあるから、国としてよくなってもらいたいわけよ。
今回はベナス侯爵家と裏ギルドの検挙だ。
そこから芋づる式に、多くの貴族が処分されることだろう。
続々と報告が上がってくる。
ベナス侯爵家は当主の侯爵を始め、その妻たちと子供たちは全員押さえた。
裏ギルドのほうは副ギルド長クラスを1人逃がしたようだ。それ以外は概ね捕縛しているから、壊滅と言って差し支えないだろう。
神殿のほうは神殿騎士が抵抗を続けているが、騎士団としてもその抵抗は織り込み済みで精鋭を多く回している。
王女は神殿の神官全員に鑑定を受けるように命じた。神官長が国王暗殺を企てたのだから王女の命令は当然だが、神殿はその命令を拒絶した。
神殿への派兵はかなり迷ったらしい。いくら国王暗殺の犯人の1人が神官長でも、神殿の権威というものはバカにできない。神殿に派兵すれば、王国中の神殿やその信徒を敵に回すかもしれない。下手をすれば国を揺るがす内乱に発展しないと言い切れないのだ。
それでも王女は派兵を決定した。貴族たちへの根回しはできていない。根回しすれば神殿側に情報が流れる。それは避けたいということだ。さて、どうなることか。
ほどなくして神殿の制圧が完了したと報告があった。
摘発後、俺は王女の執務室を訪れた。
彼女は化粧で誤魔化しているが、酷い顔をしている。目の下にクマができているじゃないか。美人が台無しだ。
国王毒殺未遂事件だけじゃなく、官僚の腐敗も同時に摘発しているから忙しいんだろうな。
王妃は軟禁されていたが死亡した。王女が毒を飲ますように指示したようだ。そのうち病死として公表されるらしい。
可愛い顔して非情な決断をする。でも継室とはいえ、母親に死刑を宣告するのは辛いものがあったはずだ。
こういったことがあって、あの目の下のクマかもしれないな。
王妃は王太子の母でもあるが、さすがに王太子は殺さないらしい。でも王太子は王位継承権を剥奪されて幽閉されている。公にせず幽閉したまま一生暮らしてもらうようだ。
この世界では親の罪が子にも及ぶ。国王暗殺未遂ともなれば、親子だけでなく一族が滅ぼされる。王妃もバカなことをしたものだ。クズな兄など斬り捨てれば王妃は死なずに済んだかもしれないのに、王太子を巻き込んで自滅した。
次の国王はまだ5歳になったばかりの第二王子が有力らしいが、成人まで10年あるからどうなるかは分からない。
国王はちゃんとした神官によって解毒された。それが効いて話ができるまでに回復しているらしい。
ただし国政復帰にはまだ時間がかかるそうで、それまでは摂政の王女が孤軍奮闘しなければいけない。
財務大臣とエルバシル伯爵たち財務官僚はすでに捕縛されている。
財務系の貴族の腐敗はかなり酷く、全員逮捕して失職させると仕事が回らなくなる。そこで王女は罪の重い官僚は別として、微罪の官僚を奴隷にして不正できないようにしたうえでこき使うことにした。ここで役に立たないと過酷な環境で働かされるため、死ぬ気で働いているようだ。
王女もただでは転ばないね。
財務大臣やエルバシル伯爵などの財務官僚は、家財没収の上奴隷落ち。もちろん爵位も剥奪だ。
財務大臣にはルディル大臣補佐官が昇格する。ルディル新財務大臣はエルバシル伯爵と殴り合いの喧嘩をしたと噂される人物で、俺の詳細鑑定でも真面目な人物だと出ていた。王女を補佐してしっかり財務省を動かしてくれるだろう。
内務大臣も真面目な人物が就くらしいから落ちつくまでの辛抱だ。
次に不正抑止の件だが、今回のことを重く見た王女は抜き打ちでレコードカードの検査を行うことを決定した。
官僚と騎士団員などの国に仕える者たちは、年に最低1回、3年で4回以上の抜き打ち検査が行われる。抜き打ちだから事前告知はないし、時期も決められていない。
これは貴族も平民も関係なく、抜き打ち検査を行う。拒否した者は問答無用で牢に入れられるそうだ。
酷い状態だったから、これに異を唱える人はいなかった。もしいたら真っ先に粛清されたことだろう。
今回のことで王女はかなり果断な対応をしてる。この機に城内から悪党を排除する覚悟が伝わってくるものだ。
あの侍医の家族は発見されたが、全員死んでいた。拉致された直後に殺されていたようで、死体は腐敗が酷かったり白骨化していた。レコードカードが発見されなかったから、あの病んでいる鑑定士が鑑定して初めて侍医の家族だと分かったそうだ。
脅されてやったとはいえ、国王を殺そうとしたのだから侍医とその家族は死罪だ。遅かれ早かれ家族は死ぬことになるとはいえ、無惨に殺されて死体を放置されるのは悲しいことだ。家族の冥福を祈ってるよ。
王女が目頭を揉みほぐして、背伸びする。その所作は年齢なりの可愛いものだ。
国王の長女に生まれたことで、その細腕に国の舵取りを任せられてしまった。不憫だとは思うが、がんばってくれと念を送ることしか俺にはできない。
……この国は女王も認められているから、もしかしたら将来は女王になっているかもね。
城のほうはまだ落ちつかないが、俺たちはダンジョンの8階層に入った。
バースの案内で戦闘が少ないルートを進んでいるが、半魚人の群れをいくつも殲滅している。
そんな俺たちの前に、ボス部屋の扉が現れた。
「ここまで数百数千の半魚人と戦ってきた。怪我はないが、多少の疲れはあるだろう。休憩してからボス戦だ」
バースのアイテムボックスから椅子やテーブルを出して、その上に菓子や飲み物を出していく。
「疲れた時には甘いものがいいとトーイ様が言いますので、ハチミツ入りのお菓子を用意しました」
アンネリーセが俺の前にクッキーと温かいお茶を置いてくれる。クッキーから甘いよい匂いがする。
「美味い。これは疲れが吹き飛ぶな」
クッキーは香ばしく甘かった。甘さもしつこいものではなく、爽やかなものだ。
「お茶も美味しいな」
苦味がわずかにあるが、爽やかな香りがする。色合いは赤茶色だけど、紅茶ではないな。
「これは薬草茶です。ヒールリーフを発酵させたものだと、サヤカさんが言ってました」
サヤカ? ……ああ、イツクシマさんか。あまり下の名前で呼ばないから、誰かと思ったよ。
「これをイツクシマさんが作ったのか。凄いな」
「戦闘はできないけど、補助をするものを作ってトーイ様に貢献したいと言っていましたよ」
「そうか。ありがたいことだ」
「それだけですか?」
「ん? なんだ、何が言いたいんだ?」
アンネリーセがじっと俺を見つめてくる。エメラルド色の瞳は何かを訴えているようだが、その意図が理解できない。
「いえ、なんでもありません」
「気になるな。言いたいことがあるなら言ってくれ」
「トーイ様は鈍感です」
「え?」
アンネリーセがプイッと顔を背けた。
何が鈍感なんだ?
俺、結構敏感だぞ?
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次の更新は3月21日です。




