080_黒幕は誰か!?
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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080_黒幕は誰か!?
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騎士団長は後宮という王族が暮らすエリアを完全に隔離した。王女か騎士団長の命令がない限り、誰も後宮から出ることも入ることもできない。ただし王妃の部下だけは別だ。
後宮を包囲する裏では、ダレナム侍医の家族の居場所を突き止めて救い出すミッションが進行しているからだ。
王女は騎士団長を引き連れて後宮へ入り、王妃が居る場所へと向かった。
「あら、エルメルダ。あなたがこんなところへ来るなんて、珍しいわね」
三十後半の着飾った女性が、王妃なのだろう。王女をエルメルダと呼び捨てにするのは、赤葉のバカか立場が上の人物のはずだから間違いないと思う。
「王妃様。今日はご報告があって、やって参りました」
「あら、なんですの?」
鳥の羽の扇子で口元を隠しているが、目つきはかなり悪い。こんな人を王妃にしているのは、それが政略結婚だからだろう。
ちなみに王女はこの王妃の娘ではない。この王妃は継室―――前王妃が死去した後に王妃になった人だからだ。
王女は前王妃の子だから、血の繋がりはない。
「国王陛下を毒殺しようとしていたダレナム侍医を捕縛しました。国王陛下には神殿から神官を呼び解毒をしていただきます。また他にも国王陛下暗殺に加担した者が居ると思われますので、城内の全ての者のレコードカードを確認させます」
その報告を聞いた王妃の慌てようは、不謹慎だけど見ていて面白かった。
ここまであからさまに慌てたら、自分が犯人ですと言っているようなものだろ。
「摂政として命令を発布してもよいのですが、ことは国王陛下のお命にかかわることですから王妃様のお名前で発布するのがよろしいかと思い、こうして参上いたしました」
目を忙しなく彷徨わせ、ティーカップを持ち上げようとカタカタと音を立てる。王妃のイメージが俺の思っていたものと全く違うんですが?
俺はポーカーフェイスで腹芸が達者なオバサンだとばかり思っていた。でも現実は俺の予想を大きく下回る小物臭がするオバサンだった。
でも王妃を詳細鑑定して分かったけど、こいつが黒幕じゃなかった。王妃も黒幕の一人だけど、本当の黒幕は別に居る。
「い、いいわよ。わたくしの名前で命令を出してちょうだい」
「はい。ありがとうございます。そうそう、ダレナム侍医の家族が何者かに拉致されているらしいので、今捜索させています。ほどなく背後関係がはっきりすると思われますので、吉報をお待ちください。それと申しわけございませんが、国王陛下のお部屋には、しばらくわたくしの手配した者以外は入れません。どうかご容赦を」
それだけ言うと、王女は踵を返して歩き出した。
国王の部屋には誰も入れないと王女が宣言したことに、王妃が何か言う前に立ち去ったようだ。意外としっかりしているじゃん、王女さん。
「バルバトス。手筈通りに」
「承知しましてございます」
小さな声で二人はそう会話し、後宮を出ていく。
王女は執務室に戻って、バルバトスは現場指揮へと向かった。
王女の執務室の中には、二人のメイドとドレンだけだ。
「さて、この密告書をわたくしにくださった方、まだ居ますか?」
王女も公爵のようなことをするな。貴族っていうのは、ステータスに現れないこういう特殊能力があるのか? もちろん俺は返事しないからな。
「返事はいいです。ですがひとつだけ教えてください。国王陛下が毒に侵されていると、なぜ分かったのですか?」
返事はいいと言いながら、そういうことを聞くか。本当に返事しないからね。
「教えてはもらえませんか……。ではこの件が片付き次第、後日お礼をさせていただきます」
礼なんて要らないよ。
……あれ? このシチュエーションはどっかで? デジャヴ?
雲行きが怪しくなってきたので、王女のそばから離れることにした。
あの王妃のところへ行って、大荒れしているのを見るのもいいかもと思ったが、もう一度国王のところへ向かうことにした。
王女は神官を呼んだと言っていた。神官がどうやって国王の毒を治療するのか見てみたい。好奇心が俺を滅ぼさなければいいのだが……なんてね。
国王の部屋は騎士団員が取り囲み、部屋の中も四隅と窓、ドアにそれぞれ人が配置されていた。そんなこと関係ない俺は壁をすり抜け、国王の部屋に侵入した。
部屋の片隅で待っていると、神官らしい男が入ってきた。四十代後半の予想よりも若い男だ。
その神官に続いて王女も入ってきた。あっちこっち忙しいね、王女は。
「神官長殿。国王陛下はダーガン病に似た症状を出す毒に侵されているそうです。解毒できましょうか?」
「保証は致しかねますが、なんとかやってみましょう」
俺はその神官長が国王の体に触る前に、瞬時に接近して首トンした。
ドサッ。神官長は床に倒れ、白目を剥いている。
「え? な、何が!?」
「「「神官長殿!?」」」
この神官長には、多くの犯罪歴があった。しかもスキル・贖罪というものまで持っていて、レコードカードから犯罪歴を消し去ることができるのだ。
つまり、罪を犯してもその罪を消すスキル・贖罪があることで、色々な犯罪が隠蔽できるのだ。しかもジョブが盗賊になってもスキルは引き継がれるため、ジョブ・神官が持つスキル・転職があることで自力で神官に転職できるおまけつきだ。洒落にならんわ。
スキル・贖罪でレコードカードの記録をリセットしているのに、なんでそれがわかるのか。それは俺のユニークスキル・詳細鑑定がレコードカードの記録だけでなく、その人物の人生を見ることができるからだ。
俺もこいつはただの神官だと思っていたが、よく見てみると人生の記録がところどころおかしかった。
そこで詳細鑑定の本領発揮だ。詳細鑑定は改ざんされる前の記録を見せてくれた。俺の詳細鑑定は、最高だぜ。
そしてこいつはあのグリッソムのジョブが盗賊になった際、それを元の弱体呪術士に転職させていた張本人だ。やっと原因を見つけたぞ!
グリッソムに神官長の記録がなかったのは、神官長としてグリッソムに会っていなかったからだ。
神官長はスキル・偽装を持っていて、これによって自分の姿を偽装していたらしい。それによって神官長という立場ではなく、闇ギルドの人間としてグリッソムのレコードカードとジョブを弄っていたらしい。
神官が悪事に手を染めても、自力でジョブを神官に戻せるとはさすがに思わなかった。しかもレベルはそのままで転職できるのだから、やりたい放題だ。
面白いことにスキル・偽装は看破されると解除される。気を失っている今なら、偽装を再度発動させられないから今のうちにこいつの本性を王女に知らせることにしよう。
ひらひらと紙が落ちる。
王女がその紙を拾って読むと、すぐに誰かを呼ぶように命じた。
やってきた男はなんとスキル・鑑定(高)を持つ人物だった。しかもスキル・看破までもっている。
さらに! この人、なんとレベル50だ! 鑑定士というジョブなんだけど、まさかレベル50の人がいるとは思わなかった。
顔色が悪いからもしかしたら、ブラック環境で鑑定ばかりさせられているのか? と思ったんだけど、この人仕事大好き人間だわ。何かあったらすぐ鑑定、何もなくても鑑定。鑑定、鑑定、鑑定、鑑定、鑑定、鑑定してないと不安で仕方がないらしい。
うん、病んでるね。
王女はこの病んでいる鑑定士に、神官長を鑑定させる。
「間違いありません。神官長殿……いえ、このダンデリードはジョブが盗賊に変わった形跡があります。その証拠にスキル・偽装、窃盗、毒精製を持っています。神官ではあり得ないスキルばかりです! さらにスキル・贖罪によってレコードカードに刻まれた犯罪歴を消去できるのです。この者は神官どころか大罪人でございます!」
病んでいる鑑定士は興奮して唾を飛ばしながら報告した。
これで分かるが、この神官長のスキル・毒精製で精製された毒が、国王に使われていたのだ。
神官長と王妃、そしてその後ろに居る奴は繋がっているのだ。
「なんてことですか。聖職者が犯罪者だなんて。しかも国王を暗殺しようなどと……」
王女の落胆は大変大きなものだ。信用していたかは別として、神官だからという気持ちがあったのだろう。
王女は気絶している神官長のレコードカードを確認した。しかしレコードカードは綺麗なものだ。これがスキル・贖罪の効果か。
こんなスキルを持っていたら、本当になんでもやりたい放題だ。俺も気をつけよう。
よし、ここは畳みかけるぞ!
ひらひらとメモ紙を落とすと、王女が拾う。
そのメモを読んで、王女が見た先には財務大臣やエルバシル伯爵などの不正の証拠が山と積まれている。そしてグリッソムのことも犯罪歴を神官長に消してもらったと書いておいた。
俺の手でグリッソムを殺してやりたいという感情はある。でもそれをしたら、ジョブ・復讐者に自然と変わってしまいそうだ。
グリッソムはダンジョンに入ったばかりだから、しばらく出てこないだろう。ダンジョンから出てきたら、これまでとは天と地ほどの差がある対応になる。その時のあいつの顔を見るのが楽しみだ。
グリッソムについてはこれまでの罪を俺が箇条書きにして王女に渡してやろう。檻の中で惨めな顔をしているグリッソムを思い浮かべるだけで胸がスッとする。
まさか神官長がグリッソムを追い込むきっかけになるとはな。待っていろよ、グリッソム!
ご愛読ありがとうございます。
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