079_国王毒殺騒動
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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079_国王毒殺騒動
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王女の執務室を発見して、国王の毒のことを書いた紙を書類の間にこっそり挟む。
執務室の中には護衛が四人と文官も二人居るけど、誰も俺に気づかない。さすがは暗殺者レベル41だ!
もしかしたらあの騎士団長なら少しは反応するかもだけど、居ないから問題ない。
王女は真面目に書類に目を通してサインをして、時々文官に指示や確認をしている。
護衛も文官も犯罪歴はない。王女の周りはちゃんとした人で埋められているようだ。
王女が俺のメモを手に取って、目を剥いた。
声を出してはいないが、かなり動揺していることは見て取れる。
「殿下。いかがなさいましたか?」
文官の一人が王女の挙動を気にして声をかけると、王女は取り繕って居住まいを正した。
「今すぐダレナム侍医を呼んでください」
俺が王女だったら、国王の治療を行っている医者を一番最初に疑う。王女はその点では俺と同じようだ。
次点として食事を作る料理人や給仕をするメイドか執事、あとは身の回りの世話をする人物と家族が浮かんでくる。
この執務室の外には部屋があって、そこに多くの役人や面会を求める人が待機していて、護衛が六人配置されている。
文官は不思議に思ったようだが、王女の命令だから待合室で待機している人に侍医を呼ぶように命じた。この人はこういった伝令用に待機しているようだ。
さらに王女は何かを書いて封書に入れた。蝋を垂らしてそこに指輪で印を押した。昔見たドラマか映画でこんな場面があったと、ちょっと懐かしくなった。
「騎士団長と魔法師団長に、この書状をすぐに渡してください」
「はっ」
伝令が走っていく。
騎士団長と魔法師団長は以前会ったことがあるけど、二人とも犯罪歴はなく王女への忠誠も高いようだった。
「少し疲れました。お茶を淹れてもらえるかしら」
「いますぐご用意いたします」
文官は待合室とは違うドアを開けた。そこには二人のメイドが待機していて、王女の身の回りの世話をするようだ。
王女は執務机からソファーに移動し、目頭を揉みほぐした。お疲れのようだね。
お茶をして政務に戻ってしばらくすると、初老の細身の男性が入って来た。この人物がダレナム侍医のようだ。
「で、殿下。火急のお呼びとうかがいましたが……」
ダレナム侍医はかなり緊張している様子で、声がかすれている。
詳細鑑定でダレナム侍医を見たが、ビンゴだった。詳細鑑定さん、素晴らしい働きをしてくれる!
ダレナム侍医が国王に毒を盛った経緯が分かった。
「ダレナム侍医。国王陛下の病状について聞きたいのです」
「は、はい。国王陛下はダーガン病にかかっておいでです」
「あなたは治療薬はないと、以前言いましたね」
「はい。言いました。残念ですが、ダーガン病は珍しい病で、治療法は確立されておりません」
汗を拭きながら質問に答える。
「では聞きますが、ダーガン病と似た症状を起こす毒はありますか?」
「っ!?」
あからさまに動揺しすぎだろ……。
「そ、そのような毒の話は……聞いたことがございません」
「なるほど。では、あなたのレコードカードを見せなさい」
「えっ!?」
「ちょっとした確認です。陛下の病を本気で治す気があるのか、ないのかの」
「そ、そんな!?」
悲痛な声をあげるダレナム侍医を、王女の護衛が両脇から抱え込んで動けなくする。
「ドレン。確認を」
「はい」
四十くらいだろうか、赤茶毛を伸ばした渋面の文官がドレンだ。そのドレンが前に出ると、ダレナム侍医は後ずさろうとしたが、両脇を抱えられているからできない。
「白日の下に彼の業を示せ」
レコードカードが出てくる。いつも思うが、不思議な光景だ。
ドレンはレコードカードの内容を確認せずに、王女に手渡してその横に陣取った。
「そうですか。あなたが陛下に……、父に毒を盛ったのですね」
王女の静かだが明らかに怒りがこもった声に、ダレナム侍医は顔面蒼白になってわなわなと小刻みに震えている。
ドレンたちは王女の質問に毒という言葉があったことから薄々感づいていたようだが、表情が強張った。
「殿下……それは……?」
ドレンが確認をしようとすると、王女はレコードカードを彼に渡した。
「こ、これはっ!?」
ドレンの目が見開かれ、レコードカードを凝視する。
「この者が国王に毒を盛ったと密告がありました」
「なんと!?」
密告のことでも、ドレンたちは驚く。そして自分たちが知らない密告が、どういった経路で王女にあったのか気になるようだ。ここに居ますよー!
「あなたは長年王家に尽くしてくれた忠臣だと思っていたのに、なぜ裏切ったのですか!?」
王女の厳しい言葉が、ダレナム侍医に突き刺さる。
ダレナム侍医は足に力が入らないようで、うな垂れて護衛たちが体を支える形になった。
レコードカードには国王に毒を盛ったことは記録されているが、どうして国王を毒殺しようとしたのか理由までは書いてない。レコードカードはそこまで便利じゃないのだ。
だけどダレナム侍医のおかげで国王を毒殺しようとした人物のことが分かった。ダレナム侍医は家族を人質に取られ、毒を盛るように強要されたにすぎない。
ダレナム侍医がそのことを白状するかどうか、俺には分からない。でも人質になっている家族はどうなるのかな?
考えたら、ダレナム侍医も被害者の一人なのかもしれない。王家に忠誠を尽くせば家族が殺され、いうことを聞いたら国王を殺した大悪人に祭り上げられる。
ダレナム侍医はどういった経緯であっても、国王に毒を盛ったのだから死罪だろう。でもその後ろで糸を引いている奴がのうのうと暮らすのは我慢できない。俺はそういう奴が大嫌いだ。
ひらひらと王女の前に紙が落ちる。その光景に護衛たちが一斉に剣の柄に手をかけた。反応はいいが、俺の隠密を見破るまでには至っていない。
王女はその紙を手に取り、目を剥き、歯を噛み、紙をぐしゃぐしゃにした。
「そんなことが……」
「殿下……?」
「ダレナム侍医。貴方に国王暗殺を命じたものが居るのですね?」
「っ!? わ、私は……」
「家族を人質に取られているようですね」
「な、なぜそれを!?」
その言葉を聞き、王女は目を閉じた。何を考えているのか分からないけど、かなりの葛藤があるように見える。
「ダレナム侍医は監禁しておきなさい。誰の面会も許しません。つねに複数の者が見張っているように。死なせてはいけませんよ。食べ物に毒が入れられたなどという言い訳はききませんからね」
目を開けた王女は、厳しい言葉で指示を出した。
「以後の予定は全てキャンセルです。待っている者は、速やかに持ち場に戻るように指示をしなさい」
ドレンが待合室に行き、王女の言葉を伝える。不満そうな顔をする者もいるが、相手は王女で摂政だからあからさまに文句を言う者はいない。
これから何をする気なのか、最後まで見届けてやろう。
王女は待合室とは違うほうのドアから出ていき、そこに控えていた二人のメイドを含めた護衛四人、文官二人を引き連れてさらにどこかへ向かった。
王女は長い廊下を早足で歩いた。早足で歩いているのに、優雅な歩き姿だと感心してしまう。メイドも素晴らしく、足音がしない。護衛たちは鎧を着ているからうるさいが、文官もなかなかの足の運びだ。
王女が歩いていった先には、騎士団長と魔法師団長、そして数十人の騎士団員と魔法使いが待っていた。
「信用できる者だけを集めました」
騎士団長が一礼してからそう言うと、王女は俺が書いた二枚のメモを二人に見せた。
「ダレナム侍医は捕縛しました。レコードカードを確認したところ、間違いなく国王暗殺の実行犯です」
「では……」
魔法師団長が声を絞り出す。
「ええ、こちらの密告もまず間違いないことでしょう」
騎士団長と魔法師団長は顔を見合わせる。渋柿でも食べたかのような表情だ。
「これから王妃に会います。そこでダレナム侍医のことを話します。王妃はダレナム侍医の家族を殺して全てを闇に葬り去ろうとするでしょう。その現場を押さえてください」
「隠密行動に長けた者を選抜し、任務に当たらせます」
騎士団長が部下に指示を出す。
「カヌムにはやってもらいたいことがあります」
魔法師団長カヌムの耳元で何かを囁いた王女に、カヌムは頷いて応えた。
「バルバトスは私と共に王妃のところへ」
「はっ」
王女は騎士団長に、同行するように命じた。
今回の黒幕は王妃。その理由は分からないが、王妃がダレナム侍医に毒を盛るように命じたのは間違いない。
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