072_VS勇者
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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072_VS勇者
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「これより勇者サダオ=ツチイ殿とトーイ=フットシックル男爵の決闘を行う。―――始め!」
バルバドスの右腕が振り下ろされると同時に、土井が地面を蹴って突進してくる。
その攻撃を見切った俺は、最小の動きで躱して足を引っ掛ける。土井は派手に転んだ。柔道部だから受け身くらいとれると思っていたが、顔面から地面に激突して鼻血を出した。
「てめぇ、このアマ!」
アマ? 女? どうやら土井も俺のことを女と勘違いしているようだ。
あいつらには俺の言葉が通じないから、あえて否定はしない。面倒だから、勝手に思い違いをさせておけばいい。
「ぶっ殺す!」
魔法契約書で縛られているから、故意に殺すことはできないんだけどね。ぴたりと土井の動きが止まる。ほらね、魔法契約書の効果で動けなくなった。
「くっ……なんだこれ」
剣を振り上げたまま動けなくなった土井に近づき、俺も剣を振り上げる。
「や、止めろ。卑怯だぞ」
「審判は止めてないですよ」
決闘前にあれほど注意されたのに、殺意を持ったら動けなくなると。どうせ聞いてなかったんだろ? だからと言って俺が手を緩める理由にはならない。
さて、少し実験をさせてもらおうかな。
スキル・手加減発動。
剣を振り下ろす。
「がっ」
倒れそうになる土井をさらに切り上げ、空中に浮かす。土井が気絶しない微妙な場所を攻撃。簡単に気絶したら、恐怖を与えられないじゃないか。
この時点で土井のHPは残り10ポイントまで減った。
土井の体が浮いたままボコボコにする。HPは10以下にはならない。
土井の目が恐怖で染まる。
次は出血させてみる。鼻血も出血だけど、あれで死ぬことはないだろう。
剣の先でわざと腹部を抉って出血させる。もちろんスキル・手加減は発動したまま。そこそこの出血だが、HPは減らない。
攻撃を続ける。もちろん土井は空中で固定。倒れたら攻撃できないからね。
俺に殺意はないから魔法契約書の効果は発動しない。
何度攻撃してもHPは10のままだったけど、20秒ほどでHPが9に減った。さらに攻撃を続けていくとHPが1ポイントずつ減っていく。このHPの減少は出血によるものだと考察した。
殺意を込めてないから、魔法契約によって動きを拘束されない。
殺したら面倒なことになるから、そろそろ止めておこう。土井には十分な恐怖を与えた。しばらくは立ち直れないだろう。
「ツチイ殿、ダウン!」
バルバドスが土井に駆け寄り、状況を確認。
「救護班!」
体中の骨が複雑骨折。腹から出血。内臓のいくつかは傷ついて危険な状態だ。普通なら全治半年から1年くらいの怪我だろう。
土井はその場で神官に治療されて、担架で運ばれていった。
しばらく悪夢に魘されるかもしれないが、それくらいの罰は受けるべきだろう。
続いて内田との決闘。休憩は必要ない。疲れてないからね。
内田はやや短めの剣を二本持っている。二刀流かよ。
「俺は土井と違う。覚悟しろ」
そう言っている時点で同じ穴の貉だと思うんだが、内田にはそれが分からないようだ。
バルバドスが注意事項の説明をし、開始と腕を振り下ろす。
土井と違って内田は徐々に間合いを詰めてきたが、俺は無造作に歩いて内田に近づいた。内田は大きく飛びのいて、俺のほうに手を向けた。
「ストーム!」
嵐の勇者が持つ、嵐魔法を発動させた。
渦を巻く風の刃が、俺に迫る。
「ダブルスラッシュ」
竜巻をスキル・ダブルスラッシュで迎え撃って、掻き消す。
「なっ!?」
驚く内田との距離を一気に詰め、スキル・手加減を発動しつつ左の拳で内田の腹部を殴りつけた。
「がはっ……」
空中に浮きあがった内田をボコボコにする。肋骨を折り、両腕の骨を折り、両足の骨を折り、顎を砕いて顔中を殴る。
顔がパンパンに膨れ上がった内田が腫れて塞がった目から涙を流す。顎を砕いているから喋ることもままならず、降参もできない。
俺の気がすむことはないが、殴り続けて内田の体に恐怖を刻み込む。
スキル・手加減のおかげでHPは10以下にはならない。どれだけ殴っても気が済むことはないが、いい加減飽きてきたので手を止める。
ドサリッと地面に落ちて横たわる内田。意識はあるが、とても起き上がれる状態ではない。
バルバドスが駆け寄り救護班を呼んだ。
最後は赤葉だ。
「雑魚(土井と内田)に勝ったからって、調子に乗るんじゃねぇぞ」
あの2人を雑魚と言うが、ステータスとしては赤葉のほうがやや低い。それを分かって言っているのなら大物かもしれないが、分かってないだろ、絶対。
「無視してんじゃねぇぞ、アマァ」
無視と言うよりはかける言葉が思い浮かばないというのが正しい。
「びびってんのか、あぁんっ」
呆れているんだ。
「アカバ殿。説明を聞いているのか?」
バルバドスがため息交じりに問いただした。
「聞いてるから、さっさと始めろよ」
絶対聞いてないだろ。
バルバドスは顔を振っている。呆れ果てているのがよく分かる態度だ。
「フットシックル男爵は構わないか?」
「ええ、構いません」
今度も期待しているぞと、いい笑みを向けられた。
任せてもらおう。誰かに言われるまでもなく、ぎったぎたにしてやる。(ジャ●アン風)
「これより勇者シンジ=アカバ殿とトーイ=フットシックル男爵の決闘を行う。―――始め!」
俺から一気に間合いを詰めた。赤葉は目を丸くした。
剣を横に薙いで、赤葉の鎧を破壊。吹っ飛んだ赤葉が、壁に激突。
スキルに頼らずかなり手加減したから、HPの減りは3分の1くらいで済んだ。気絶はしてないが、今ので足にきているようだ。立ち上がるのに、かなり苦労している。
「5……6……7……」
バルバドスは機械的にカウントしていく。
「このアマ……やってくれるじゃねぇか」
赤葉は剣を杖のようにしてなんとか立ち上がり、バルバドスのカウントが9で止まった。
「アカバ殿、まだやるのか?」
バルバドスが戦意の確認をすると、赤葉はキッとバルバドスを睨んだ。
「やるに決まってんじゃねぇか。バカ野郎」
頭に血が上って暴言を吐く。もっとも頭に血が上らなくても暴言野郎だが。
「うりゃーっ」
赤葉が剣を振り回してくるが、俺はそれを見切って躱す。当たりそうで当たらない絶妙な回避だ。
「ちょこまかと」
赤葉の大振りの攻撃に当たるわけがない。
バルカンのシゴキを受けたおかげで、スキルに頼らずともこのくらいは普通にできる。あの地獄の日々は無駄じゃなかった。
「しゃらくせーっ」
大きく振りかぶって飛び込んできたところに、カウンターで顔面を殴る。
某ポケットの魔物のアニメに出て来るやられ役のようにピューンと飛んでいって壁にぶち当たる。
今ので鼻が折れたな。
「それでも勇者か! 早く立ち上がって戦え!」
「日頃の威勢はどうした。この無能勇者が!」
「戦う以外に存在意義なんてないのにその様はなんだ!」
「ただのクズなんだから、そのまま寝ていていいぞ!」
バルバドスのカウントの声を掻き消すような罵詈雑言。
俺も嫌いだけど、貴族や役人も赤葉を嫌っているようだ。
「うっせーんだよっ」
立ち上がった赤葉が観客(貴族たち)に向かって叫んでいる。罵倒されて我慢できなかったようだ。沸点が低いな。
「遅延行為は棄権とみなすぞ、アカバ殿」
「黙ってろよ、この木偶の坊がっ」
鼻が陥没して発音がはっきりしないから、思わず笑ってしまう。
「何笑ってるんだっ」
「その顔で凄んでもと思っただけだ」
「このアマッ。ぶっ殺す!」
だからそういう感情を抑え込まないと、自滅するぞ。
「唸れ! バーニング・フレア!」
手の平を俺に向けた赤葉の恥ずかしい言葉が響く。
が、魔法は発動しない。
魔法契約書にサインしているんだから、殺そうとする攻撃ができない。まったく学習しないのな。
「なんでだ!?」
魔法契約書の内容を確認もせずにサインしたんだろうな。愚かとしか言いようがない。
「降参するならこれ以上痛い目を見なくてすむぞ、どうする?」
「誰が降参なんかするか」
それならしょうがない。
間合いを詰め、剣の腹で赤葉の側頭部を殴打。意識が飛んだ赤葉は倒れそうになるが、蹴り上げて殴る。殴る殴る殴る殴る殴る。
蹴って殴ってまた殴る。白目を剥いているのを無理やり意識を引き戻す。
「や……」
口を開こうとするが、殴って遮る。
涙を流しているが、構わず暴力を振るい続ける。
HPは10で固定。出血はあるものの、その量は大したことないからHPは減らない。
全身の骨という骨を砕く。筋肉や筋を断つ。内出血や内臓破損によってHPが下がり始める。これ以上は死んでしまうか。
それじゃ、最後だ。フンッ!
赤葉の股間に剣を突きさす。刃が潰されていても防具を貫通させていちもつを切断し、さらに切断したものを粉々に切り刻む。
「ふー……」
攻撃を止めると、赤葉は股間を押さえて蹲る。涙を流して痙攣している。
バルバドスがすぐに救護班を呼び、治療が施される。
しばらくは寝たきりだと思うけど、死んでないんだから問題ない。あれはなくなったけどな。
この野郎、強姦の常習犯だ。ほとんどは日本でのことなので王女は放置しているが、最近この世界の女性を強姦しているようだ。だからあれを切り落としてやった。もちろん、玉のほうもだ。
あれを切り落としても優秀な神官ならくっつけることができるが、あれ自体がないと再生させなければならない。再生は簡単ではないので、あれを切断して粉微塵に切り刻んでやった。
あれがなければ、赤葉の性欲も多少は収まるだろう。死んだわけではないのだから、心を入れ替えてやり直せ。無理だと思うが。
しかし我ながらよくも殺気をここまで抑え込めたな。魔法契約を取り交わしたから殺意のある攻撃ができなかったが、なんとかなったか。頭では分かっていたが、心をどこまで抑え込めるか分からなかった。俺の精神力も捨てたものではないぜ。
城の控室で待っていると、王女と公爵がやってきた。
「フットシックル男爵。この度は迷惑をかけましたね。これは約束のものです」
王女が合図すると、大量の金が運び込まれてきた。あまりにも多いから、宝箱で運び込まれてきた。全部10万黒金貨で7500枚ある。2億5000万グリルが3人分だから7億5000万グリルだ。一生遊んで暮らせるんじゃないかな。
「あの3人はどうしてますか?」
「3人とも奴隷にしました。彼らにはこれから返済のためにしっかりと働いてもらいます」
借金による任意奴隷だと人権はある。しかしこれだけの借金を返すのに、危険なことはしたくないなどと言っていられない。人権があっても返済目途が立たない場合は強制できるそうだ。あいつらは強制的に戦いの場に赴くことになると王女は言う。
「自業自得だな」
公爵は優雅にお茶を飲んで吐き捨てるように言った。
初めてあいつらに会ったんじゃないの? そんなにあいつらが嫌い?
「違う世界にやってきて戸惑うのは仕方がない。だからと言って傍若無人な振る舞いをしていいというものではないだろう」
ごもっとも。
「それに聞いていた以上にバカ者たちだったから、ついな」
ついで奴隷にするのか。あいつらがバカなのが悪いんだけど、公爵も容赦ないね。
「勇者とは言え、王女であるエルメルダ様にあのような不遜な物言い、許せる限度を超えている」
不遜な発言は、否定できない。心の中でどう思っていようと、ある程度は礼節ある発言をするべきだ。俺も大人になったものだ(苦笑)
「きゃつらはこれから真面目にダンジョン探索をするだろう。借金を返すためにな」
俺と公爵は笑いあった。王女がちょっと引いている。でも奴隷にしたことで、本来の目的を果たせるよね。
勇者召喚はダンジョン内で増えたモンスターを間引くためのものだ。
この世界で生まれた人は村人がマストだけど、召喚された異世界人は最初から強力なジョブを持っている。だから真面目にダンジョン探索すれば、1年で10階層くらいは踏破できるらしい。
目標は10階層までのモンスターを間引くことだから、そこまで行ってモンスターを間引いたら、他のダンジョンに移動する。そうやって国内のダンジョンを鎮静化させたら、勇者たちに貴族の地位を与えるんだとか。
「元の世界に戻すことはできないのですか?」
俺は戻る気はないが、召喚組の中には戻りたいと思っている人もいるだろう。
「過去の文献を確認させましたが、無理だということです」
王女はすまなそうに言うが、召喚しっぱなしはアカンだろ。そのために叙爵して優遇するのかもだけど、ちょっと納得いかないものがある。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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