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070_殺意を押し殺して

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 070_殺意を押し殺して

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 王都ダンジョンの7階層の探索から帰ってすぐにバッカスに面会を求めた。

「これはっ!?」

 椅子から立ち上がったバッカスが飛びついたのは、あのゴルモディアという金属の塊だ。


「これをどうしたっ。どこで手に入れたっ」

「ダンジョンの7階層のボス部屋です」

「7階層かっ!?」

「ハイレアドロップアイテムだと思います」

「むむむ」

 その顔はバッカスも取りに行こうと思っていたようだな。ハイレアアイテムは滅多なことではドロップしない。しかも7階層は簡単に行けるような場所じゃないんだが、バッカスなら行けるか……。鍛冶の匠Lv36だとSTR値がかなり高くATK値もある。メンバー次第で行けるはずだ。


「これをワシのところに持ってきたということは……」

「ええ、それで剣を打ってもらいたいと思ったのです」

「よし、任せろっ! これはワシにしか鍛えられん! 今すぐ領地に帰るぞ!」

 いやいや今帰ったらあかんやろ。なんのために王都に出てきたんだよ。


「落ち着いてくださいよ。今すぐは帰れないでしょ」

「何を言っておるか!? これ以上に大事なことなど、酒くらいなものだっ」

 酒のほうが大事なのかよ!


 ツッコみどころ満載のバッカスだが、なんとか宥めすかして思いとどまらせた。ここで帰られたら、俺が公爵に厭味を言われそうだし。何よりも気楽に喋る貴族がバッカスくらいしかいないんだよ。


 その代わり帰ったらすぐにゴルモディアで剣を鍛えさせろと約束させられた。それ俺が頼みたかったんだけど(笑)


 黒い金属だから、きっと渋い剣になると思う。その時が来るのを楽しみにしておこう。

 そういえば国から魔剣がもらえるんだったな。その魔剣の効果と被らないようにしてもらわないとな。




 その後、7階層を周回してレベル上げと、資金稼ぎをした。

 王都ダンジョンで得たアイテムの換金額は総額で2000万グリルを少し超えた。2億円以上になる。バッカスに剣を打ってもらう時の報酬に充てようと思う。


 レベルは俺以外全員が40になった。俺は転生勇者、暗殺者、剣豪の3ジョブがレベル38になり、探索者がレベル30、エンチャンターがレベル35になった。

 バルカンの守護騎士Lv42の背中が見えてきたぞ!


 あとダンジョン探索には関係ないけど、バッカスの酒につき合っていると酒豪のレベルがどんどん上がって15になった。

 これでもまだ足りないが、最近はバッカスの飲む速さに少しだけついていけるようになった。バッカスはジョブ・酒豪もないのに、よくあそこまで飲めるな。さすがはドワーフと言うべきか。ただのアル中おっさんなのか……。




 ようやく褒美をもらう日になった。

 公爵の城よりも大きい立派な城だ。公爵のほうは防衛の拠点のような感じだったけど、こっちは権威の象徴といった感じかな。


 各貴族に部屋があてがわれているから、その間はアンネリーセの膝枕で仮眠をとった。

 昨夜もバッカスの酒につき合わされて、寝るのが遅かったんだよね。しかもバッカスも参列するのに、朝早くから俺のところにやってきてゴルモディアに頬ずりしていた。

 あれから毎日やってきては頬ずりしているんだ。毎日同じことして飽きないかね。それ以前にキモい。


 2時間くらい待ったかな。係の人が呼びにきた。

 離れがたきアンネリーセの太ももの感触だが、無理やり体を起こして背伸びした。


「トーイ様。寝ぐせがついてしまいましたよ」

「そんなものどうでもいいよ」

「良くはありません」

 アンネリーセが優しく櫛でとかしてくれる。この世界に飛ばされて髪を切ってないから、結構伸びたな。


「綺麗な銀髪です」

「長いから、そろそろ切ろうかな」

「勿体ないです」

「邪魔だし」

「こうすれば邪魔になりませんよ」

 アンネリーセが銀髪を後ろで三つ編みにしてくれた。女の子なら喜んだところだけど、さすがにねぇ。


 せっかくアンネリーセが編んでくれたから、このままで授与式に出ることにした。


「トーイ=フットシックル男爵のごにゅーじょー」

 両開きの大きな扉が重々しい音を立てながら開いていく。扉の向こう側から光が目に飛び込んでくる。あまりにも眩しくて、思わず目を閉じてしまった。


 そこは豪華な謁見の間で、数多くのシャンデリアや照明が光を放っている。ロウソクの炎ではないから魔導アイテムだ。これだけのシャンデリアにどれだけの魔石を使っているのか気になってしまうのが、庶民なところなんだろうな。


 真っ赤な絨毯は謁見の間のお約束らしい。毛足が長くてふわふわの上を進む。

 俺のすぐ後ろにはアンネリーセとガンダルバン、そのさらに後にロザリナたち。


 両サイドには貴族たちが並び、俺たちを値踏みしている。入り口に近いほうが男爵で玉座に近いほど爵位は上がる。


 男爵エリアから子爵エリアになったようで、バッカスがいた。俺と目が合うとサムズアップしてきた。緊張感のない人だ。


 伯爵エリアにはザイゲンの顔もある。相変わらず眉間のシワが深い。

 バルカンは今回お留守番。ザイゲンとバルカンは必ずどちらかが留守番するらしい。おかげで俺は伸び伸びしていられる。バルカンがいると稽古につき合わされるから面倒だ。そんなバルカンも伯爵だ。あの顔でと思ったけど、爵位に顔の凶悪さは関係ないんだよね。


 公爵の姿があった。と思ったら、嫌な顔ぶれがあった。勇者たちだ。玉座から見て左側が公爵たち貴族、右側が勇者たちだ。

 その中には日本で俺に酷いことをしていた赤葉真児の姿もあった。あいつらの顔を見るとどす黒い感情が吹き出しそうになる。


 あれは、高校1年生の冬のことだった……。






 もうすぐクリスマスがやってくる師走の頃、下校途中に書店に寄った。愛読しているマンガの発売日だったんだ。

 あまり大きな書店ではないから、人気のあるマンガはともかく俺が愛読していたマンガはいつも売り切れる。だから予約してあった。

 その本を購入する前に一通り本を見て回っていると、同じ制服の男子がいたんだ。クラスメイトの苗場康太だった。


 彼はあまりにも挙動不審で、汗を大量にかいていた。この時期ではちょっと走ってもそこまでかかないだろうというくらいの汗の量だ。

 ちょっと気になったから苗場のことを見ていたら、本をカバンの中に入れたのだ。支払いを済ましたものじゃない本だ。所謂万引きというやつだ。


 その場を離れようとした苗場の腕を思わず掴んでいた。

「なっ」

 俺は首を振ってから、腕を離した。

 苗場はあたふたして本をカバンから出して戻し、走って店を出ていった。


 その後苗場を見たのは、校舎の陰で暴行を受けているところだった。そう、あいつだ。赤葉のグループ8人が蹲ってカメのようになっている苗場を蹴っていた。


 そういう胸糞の悪いものを見ると、つい口を出してしまう。俺の悪いところだ。

「子供みたいなことは止めておけよ」

「ああん。なんだお前」

 内田颯という赤葉グループの構成員その1がメンチを切ってきた。いつの時代もこういう学生はいるらしい。古いマンガで見たことがある。


「暴行。立派な犯罪だ。止めておけよ」

「はんっ。誰が暴行したって言うんだ。なあ、ドンガメ」

 暴行を受けていた苗場の襟首を持って立たせると、内田は彼に聞いた。


「だ、だれも……」

「だってよ。ははは」

 俺は首を振ってそれでいいのかと苗場に聞いたが、彼はおどおどしながら頷いた。赤葉たちが怖くて、嫌だとは言えないのだろう。そんなことは俺にも分かっているが、それ以上口を挟めない。彼が意思表示しなければ、何も変わらないのだから。


「ほどほどにするんだな」

 そう言って立ち去ろうとしたら、背中を蹴られて倒れた。

 その後は赤葉が馬乗りになって俺を殴っていた。両手両足は赤葉グループたちに押さえつけられて、俺はただ殴られるしかなかった。


 俺は声を出さなかった。声を出せばこいつらを調子に乗せる。こんなことで俺が止めてと頼むとでも思ったか。


 翌日の俺の顔はすごく腫れていた。教師は赤葉と聞いた瞬間、さーっと退いていった。赤葉の父親が国会議員なのは有名な話だ。これまで何度も問題を起こしては、父親の権力で揉み消している。


 それから毎日俺は殴られ蹴られた。ただやられているつもりはない。多勢に無勢だから、負けるかもしれない。きっと負けるだろう。だからといって抗うことを止めたら、そこで俺は終わる。そう思ったからどれだけ殴られても俺は赤葉たちにひるまなかった。


 10発殴られても100発蹴られても、俺は隙をついて殴り返した。そしたらまた殴られた。それの繰り返しだ。バカなことをしていたと思う。今思えば、ただやられるだけの存在になりたくなかったのかもしれない。


 教師は俺が赤葉を殴ったと咎めてきた。俺の体中の痣を見ても、何も言わないのにな。元々尊敬するような人物ではなかったが、それ以来蔑視するようになった。


 高校2年、3年も赤葉たちは飽きもせずに俺に絡んできた。どれだけ殴られても許しを請わないのが、気に食わなかったようだ。

 嫌がらせはそれだけじゃない。クラスメイトたちは俺を無視した。教科書が破られたり、紛失することも1度や2度ではない。体操服が破られ、イヌのクソがカバンに入れられていたこともあった。


 あいつらの暴力は日常的で、教師は何も言わない。ある時は俺が入院することになった。病院から通報を受けた警察は、捜査を行ったがすぐに打ち切られた。国会議員の父親の圧力だ。警察が及び腰になるのは、高校生の俺でも想像できた。


 俺は召喚された時、神にあいつらと一緒に召喚されることを拒否した。別に暴力に屈したわけではない。こっちの世界でも俺はあいつらに屈しない自信がある。絶対に心は折れない。折られるつもりもない。


 召喚を拒否したのは、勇者として異世界に送ると聞いたからだ。強力なジョブだから、今までの鬱憤を晴らせると神は言った。

 最初はちょっと考えた。あいつらに思い知らせてやろうと。だけど止めた。力を得たからあいつらを殴るというのは、あいつらと同じになる。だから俺は一緒の召喚を拒んだ。俺はそんなクズになりたくなかったのだ。


 しかし……赤葉はクズだが、なんだよその犯罪歴は。お前どれだけの罪を犯しているんだよ。


 日本の頃の犯罪歴もあるけど、こっちに召喚されてからのも多いな。召喚されてまだ数カ月しか経ってないのに、なんでそこまで犯罪歴があるんだよ……。

 こいつらの管理は国がするべきだからあえて何かをする気はないが、こいつを放置していたらいずれ人殺しや大きな罪を犯しそうだ。召喚したんだから責任もって管理しろよな。それができないなら、最低でもやったことに対する責任はとらせろよ。




 赤葉たちの顔を見るとはらわたが煮えくり返りそうだから無視だ無視。あれは案山子だと思え。自分に言い聞かせ、薄墨桜のような髪色をした王女の前に立って頭を下げた。


「トーイ=フットシックル男爵。悪魔討伐、まことに喜ばしいことです。よってここに褒美をとらせます」


 文官が綺麗な袋に入れられた剣をトレイに載せて持ってきた。


「王家所蔵の魔剣サルマンを授けます」


 貴族たちがざわめいた。なんだろうか?

 不思議に思いながらその魔剣サルマンを受け取る。


「ありがとうございます」


 とても軽い。とても金属の塊とは思えない軽さだ。軽いと言われているミスリルで作られた両手剣でもこれの数倍重い。俺は騙されているのだろうか?


「フットシックル男爵家家臣ミリス=ガンダルバンに魔剣を授ける」

「感謝いたします」

 皆にも褒美が渡されていく。


 基本はジョジョクも魔剣、リンは魔槍、ロザリナは武器を使わないから良い防具、愛の賢者になったアンネリーセとソリディアにはミスリルの杖で、バースにはミスリルの短剣が贈られた。


 皆のは袋に入ってないのに、なんで俺のだけ袋に入っているんだろうか? それだけいいものと思えばいいのかな? よく分からん。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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それだけの権力あるなら平の国会議員とかじゃなくて、与党で閣僚経験者かその側近クラスとかかなあ?<アカバの父親
[一言] ちゃんとした魔剣で良かった
[気になる点] なんだ、さやかちゃん絡みでイジメのターゲットになったとかじゃなかったんか。 それでさやかちゃんが藤井くんに惚れてたのかと思ったわ。
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