068_王都ダンジョン7階層探索
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
2023/2/26 加筆
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068_王都ダンジョン7階層探索
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ある日のこと、来客があった。
「急な申し入れでありながら、快く面会していただき感謝の念にたえません。私はゴルテオ商会の商会長をしております、シャルニーニと申します」
丁寧な挨拶を受けて、ソファーに座ってもらう。
30代前半に見えるが、おじさんではなくお兄さんと呼びたくなる風貌の彼は、ゴルテオさんの息子さんで現在はゴルテオ商会を率いている人物だ。
ゴルテオさんの面影があるから、イケメンだ。爆ぜてしまえ。
「ケルニッフィでは父ゴルテオが大変お世話になったとお聞きしております。今日はご挨拶とお礼を申しあげたく、まかり越しましてございます」
スーッと菓子箱のようなものを出してくる。
「王都の貴婦人方に人気のお菓子です。奥方様に気に入っていただければ、幸いです」
「ゴルテオさんにはこちらがお世話になったのに、ご丁寧にありがとうございます」
箱は本当に菓子箱だった。木でできた箱は、かなり高級感がある。
今日は顔つなぎなんだろう、シャルニーニさんは特に商談とかせずに帰っていった。
こういう細目な挨拶も商人には必要なんだろうな。俺にはできない細やかな気遣いだな。
今日は7階層のボス部屋を目指すつもりだが、その前にアクセサリーを売っている露店をアンネリーセに案内してもらった。
ケルニッフィでも何度かアクセサリーの露店を回ったが、良いものはなかなかない。この王都でもなかなかいいものはないようだ。と思ったらあった。
▼詳細鑑定結果▼
耐魔のピアス : MIN値+7 MDEF値+15 耐久値8/8。
耐魔のピアスは5000グリルで売っていたから即買いした。
鈍銀色のピアスだから見た目で損をしているが、悪くない買い物だ。
パルテノン神殿のようなダンジョンの入り口を囲う建屋が見えてきた。俺たちが歩いて近づいていると、建屋の前に馬車が停まった。
馬車から降りてきた黒髪の集団に見覚えがある。元クラスメイトだ。
「あれは勇者殿たちでしょうか?」
ガンダルバンには、あれが勇者だと分かったようだ。
「勇者様方は黒髪の方が多いと噂で聞きました。多分、そうじゃないでしょうか」
噂はケルニッフィまで届き、アンネリーセの耳にも入っていた。俺でさえ噂を耳にしているのだから、皆も知っているのだろう。
赤葉真児の取り巻きだった土井定男が見えた。他の5人も見覚えがある。日本で散々好き勝手やられたのは絶対に忘れない。
「ご当主様。殺気が漏れてますぞ」
ガンダルバンに言われて気づいたが、無意識に殺気を放っていたようだ。
こうやって恨みを忘れないから、復讐者なんてジョブがあるんだろうな。復讐する気はないけど、恨みを忘れるというのとは違うんだよ。
「どうかしたのですか、ご主人様」
「……なんでもないよ。それよりご主人様じゃなく、トーイね」
「あ、はい。トーイ様」
アンネリーセを心配させてはいけないな。日本での恨みを忘れることはないが、復讐なんてどうでもいい。なのになんで殺気なんて漏らすんだ?
酷い目に合わされてきたが、今はアンネリーセたちと出逢えて幸せだ。その邪魔をしなければ、特に何もするつもりはない。なのに……。
土井とニアミスしたので、自分を落ちつかせるために隣の探索者ギルドへ入った。
そういえば、探索者ギルドの中をしっかり見たことなかったな。
壁には4階層を越えた探索者パーティーの代表者の名前が記載されている。
「この消されているのは、引退でもしたのかな?」
「名前が消されているのは、引退か死亡、あとは兵士になったなどの理由などで探索者を引退した方ですね」
アンネリーセが丁寧に教えてくれる。
他にはクエストが貼られていた。中には解呪ポーションを5000万グリルで買うというのもあった。オークションの半分以下じゃん(笑) これで解呪ポーションのクエストを受ける人はいるのだろうか?
他のクエストも見たが、魔導書とか宝箱関連のクエストが多かった。目ぼしいクエストはないから、スルーだな。
宝箱からアイテムを回収したらクエストを確認すればいいし、ボス周回するだけでかなりの金額が手に入るからあえて受ける必要はない。
「あれ……もしかしてアンネリーセさん?」
「セシルさん。お久しぶりです」
「やっぱりアンネリーセさんなのね!」
カウンターの奥に居る女性。つまり探索者ギルドの女性職員が、アンネリーセに声をかけてきた。イヌの獣人で金色の髪をした綺麗な人だ。
ケルニッフィでも感じたが、探索者ギルドの受け付けの女性職員は綺麗な人ばかりだな。容姿端麗が採用の基準になっているのかな?
「王都で活動していた時にお世話になった方です」
「俺はトーイと言います。アンネリーセがお世話になったそうで、感謝します」
俺は彼女に感謝の意を伝えた。俺のアンネリーセが世話になったのだから当然だ。
「いえ、私は何もできませんでしたから……」
呪いにかかったのは彼女のせいじゃないし、その後の事故もそうだ。
「アンネリーセさんの呪いが解けたのですね。良かったです」
「はい。こちらのトーイ様に解呪ポーションをいただき、無事に解呪できました」
「解呪ポーションを!?」
高額アイテムだからかなり驚いているね。
少し話し込んでしまったが、セシルの上司の咳払いで解散になった。もう勇者たちもいないだろうから、俺たちもダンジョンへ向かう。
1階層からダンジョンムーヴで7階層へ移動し、探索開始だ。バースが先行し道案内してくれる。目的地は7階層のボス部屋。
バースがいると最短距離で目的地に向かえるから本当に助かる。それに俺の探索者をサブジョブにセットしておけば、マッピングでどういった経路を辿ったか分かる。地図も描くことができる。
さて、モンスターだ。
「あれはなんでしょうか?」
アンネリーセでも知らないモンスターのようだ。
「ガンダルバンは知っているか?」
「いえ、初めて見るモンスターです」
真っ黒で最初は影かと思ったが、あれが本体のようだ。形は不定形で常に形を変えつつ浮いている。
「お化けか?」
ふと思ったことを口に出していた。
「お化け……たしかにそう見えないこともないですね」
この世界にもお化けは存在するようだ。
「あのモンスターがお化けだとすると……ゴーストではないですから、レイスでしょうか」
こういう時こそ詳細鑑定の出番だね!
ふむふむ。あれはレイスで間違いない。レベルは25。物理攻撃がほとんど効かないから、魔法攻撃がないと倒すのが難しいそうだ。
「レイスは初めて見ましたな。これは厄介な」
「生命力を吸う攻撃があるらしいから、特にガンダルバンは注意してほしい」
「承知しました」
そこで思ったが、ちょっと確認したいことがあってこの1体だけは、俺が対応したいと提案した。
「危なければすぐに介入します」
「ああ、それでいい」
俺はメインジョブを転生勇者、サブジョブを暗殺者に変更した。
「聖剣召喚!」
さらに隠密を発動してレイスに近づいて気づかれないか確認する。
レイスは生命力に反応するとある。生命力はHPだと思うから、俺のHPが隠密で感知されないのかの確認だ。
ゆっくりと近づいていくが、レイスが俺に反応することはなかった。しかし近くで見ると、本当に形が不定形だな。もわもわと蠢いている。
反応しないことが分かったから、俺は聖剣を大きく振りかぶった。ズバンッ。
レイスは不快な声を残して消えていった。
「いやー、聖剣マジ効果あるわー。レイス相手なら聖剣は最強だな」
その聖剣と隠密からの急所突きで、レイスは1発で倒れた。
「お見事にございます」
ガンダルバンたちがやって来た。
「聖剣を出し続けられたらいいんだが、こいつは時限つきだ。苦戦するようなら、俺とリンが交互に聖剣と聖槍を召喚して戦うか。アンネリーセの魔法もあるし、それでなんとかなるだろう」
その戦術でレイスは問題なく倒せた。レイスのレベルが低いということもあって、苦労することはなかった。
一方、予想していたように物理攻撃はほとんどダメージを与えられなかった。
ガンダルバンたちの通常攻撃でダメージが1から5くらいなのだ。これでは倒し切るのに日が暮れてしまう。
俺の聖剣とリンの聖槍、そしてアンネリーセの魔法でレイスを屠りながら進んでいると、俺たちのレベルが上がった。
「あ……」
アンネリーセの驚愕の声に振り向くと、彼女の頬が上気していた。
「どうしたんだ? どこか怪我をしたのか?」
俺はアンネリーセに駆け寄る。
「あの……ジョブが進化しました」
「なんだって!? 本当か、アンネリーセ」
「はい。進化です」
「おおおっ! おめでとう!」
俺はアンネリーセを抱き上げてクルクルと回った。軽くて柔らかい。
「と、トーイ様。ダンジョンの中ですから」
「おっとそうだった。ははは」
アンネリーセを下ろしたけど、嬉しいな。
「それでどんなジョブに進化したんだ?」
「はい。進化したジョブは、愛の賢者です」
「「「おおおっ」」」
俺も驚いたが、ガンダルバンたちも驚いている。
てか、愛の賢者ってなんだ? 賢者は分かるが、愛はどういう意味? そこがめちゃくちゃ気になる。
ジョブ・愛の賢者は攻撃魔法だけではなく、回復や支援などもできる総合的な魔法使いだった。特に回復系の魔法が素晴らしいとある。愛の意味が書いてないですけど、詳細鑑定さん?
「おめでとう、アンネリーセ!」
「はい。ありがとうございます」
アンネリーセも俺も喜色満面だ。
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