058_下級悪魔ジャミル退治
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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058_下級悪魔ジャミル退治
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下級悪魔ジャミルの気配は陰湿で剣呑なものだから、すぐに居場所は分かった。
2階建ての建物くらいの巨大な体だからあまり奥に行けないと思っていたが、天井や壁を壊しながら進んでいるようだ。どんな脳筋だよ。
喧騒が聞こえてきて下級悪魔ジャミルが戦っているのが分かった。相手はバルカンだ。さすがはバルカン、下級悪魔ジャミル相手に無双している。レベル42は伊達ではない。
「加勢します」
戦いながら視線は下級悪魔ジャミルに向け、バルカンは器用にコクリと顎を引く。
ジャンプして下級悪魔ジャミルの片翼を切り落とす。
「ギャァァァッ マタ キサマ カ」
「ゴーレムで足止めして公爵を狙おうとした作戦は良かったが、バルカン様が居ることを失念していたお前は愚か者だ」
「バカニ スルナッ」
腰をかがめて太い腕をやり過ごす。
俺に意識が向いたところでバルカンが残った片翼を切り落とす。
「ニンゲンノ ブンザイデェェェェェェッ」
大きな口を開き、そこから漆黒のブレスが吐き出された。
俺は後方に大きく飛びのいて、そのブレスをやり過ごす。だがバルカンは微動だにしない。
後方に公爵が居るからバルカンは自分の身を犠牲にしてもブレスを受けた。身を挺して主人を守るとか、俺にはできないことだ。それだけにバルカンを尊敬するよ。
腐食ブレスによって、バルカンは体中を腐食させるダメージを負った。それでも下級悪魔ジャミルに攻撃を仕掛ける姿は、さすがと言う他ない。
「リン。行け!」
「はい! 聖槍召喚!」
「「「なっ!?」」」
公爵たちが驚く中、バルカンは手を止めずに下級悪魔ジャミルを追い詰める。そこに聖槍でリンが攻撃する。
「ギャァァァッ」
「キサマ ソレハッ!?」
リンの聖槍はピンクに淡く光っていて、振る度にキラキラとピンクの粒子が飛散する。桜が散り際に見せる桜吹雪のようで、とても綺麗な光だ。
「ライトニングランスッ」
「ヤ ヤメローッ……」
ライトニングランスを受けた下級悪魔ジャミルのHPがゼロになって、死体が砂に替わった。
「リン、よくやった!」
俺はリンを褒め、その肩をポンッと叩いた。
「バルカンッ!?」
床に膝をついたバルカンが剣を杖のようにして体を支えながら、荒い息をして苦しんでいた。
先程の腐食ブレスが体を侵しているのだろう。公爵を庇った代償だ。
「父上」
「騒ぐでないっ」
駆け寄ろうとする長男のイージスを手で制した。
「ですが―――」
「閣下のそばを離れるな。全ての敵を駆逐したと確定したわけではないのだぞ!」
俺はバルカンに、本物の騎士を見た気がした。自分が確実に死に向かっているのに主のことを第一に考えるのは、誰にでもできることではない。
「神官を呼べ! 早くしろ!」
ザイゲンが神官の手配をする。
「バルカン。すまぬ」
「閣下が謝ることではありません。これは某の不徳。鍛え方が足りなかったのです」
感動する場面なんだと思うが、そんなときでもバルカンの脳筋が顔を出す。鍛えたからと言って、腐食ブレスをレジストできるものなのか?
騎士がポーションを飲ませHPを回復させるが、バルカンのHPは減り続ける。ポーションでは腐食ブレスのマイナス効果を除去できない。
ほどなくして神官が到着し、バルカンの腐食は浄化された。
神官いいな。ヒールはできるが、今回のような腐食は神官のキュアが必要だ。もしかしたら転生勇者を育てていけば覚えるかもだけど、それを期待する気はない。
実を言うとロザリナが神官に転職可能なんだ。彼女は素手でモンスターを100体倒しているからね。でもバトルマスターから転職する気はないだろうし、俺も無理に転職を勧めるつもりはない。
騎士や兵士、それと文官たちは下級悪魔ジャミルが壊した城の瓦礫やゴーレムなどの後始末で徹夜だろう。
公爵やザイゲンは、フットシックル名誉男爵家一行に後始末をしろとは言わなかった。だけど城内の部屋で待機を命じられて屋敷には帰ってない。
風呂に入れないから、久しぶりに体を拭いた。ロザリナは兵士になったから、リンとソリディアと一緒の部屋で休んでいる。だから寝室では俺とアンネリーセだけだ。城のメイドにはご退場願ったからね。
お互いに体を拭き合い、アンネリーセの首に無骨な奴隷の首輪がなくなったのを実感した。
もちろんアンネリーセが嫌がれば拭き合うことはしない。だけどアンネリーセは自分から体を拭くと言い出した。これはOKなんだろうか。
「アンネリーセの肌は白くてきめ細やかで柔らかいね」
「そんなことありません……」
「そんなことあるよ。俺が言うんだから、間違いない」
この世界に転生して石鹸さえ見たことがない。それなのにアンネリーセの肌は少しもくすみがなく、綺麗だ。
屋敷に帰ったら石鹸作ろう。シャンプーも作りたいしコンディショナーも欲しい。でも石鹸は理科の実験で作ったことあるけど、シャンプーとコンディショナー作りの知識はない。とりあえずやれることはやっておこう。スキルのことでやりたいこともあるが、それは今はできないか。屋敷に帰ってゆっくり取りくもう。
一夜明けて、転生65日目。城内の瓦礫は粗方始末された。かなり酷く壊されているのに、崩れない城の頑丈さに素直に凄いと思う。
公爵の執務室へ入ると、目の下にクマをつくった公爵たちに面会。俺はアンネリーセを抱き枕にしてしっかり寝たよ。ふふふ、美少女を抱き枕にできる俺を羨むなよ。
「昨夜のこと、私はとても満足している。城はこのようになってしまったが、幸い死者はゼロだった。城はまた築けばいいが、人はそうではない。それに悪魔は完全に滅んだ。全てはフットシックル名誉男爵のおかげだ。感謝する」
公爵の感謝の言葉は誠心誠意だと分かった。ここまで低姿勢で挑まれると、逆に身構えてしまう。
「いえ、私は大したことはしてません。それよりもバルカン様は大丈夫ですか?」
この場に居ないバルカンを心配する。神官に治療してもらったバルカンの状態異常はなくなっていたが、それでもかなり危険な状態だったからね。
「バルカンなら騎士たちの陣頭指揮を執っている。休めと言ったのだが、私の言うことを聞かん。困ったものだ」
「あまりバルカン様のことは知りませんが、バルカン様らしいですね」
脳筋は今日も脳筋だった。そういうことだろう。
「あの悪魔が憑いていたのは、ベニュー男爵というものだ」
公爵は事の顛末を語り出した。それによれば、処刑された者の中にベニュー男爵の妹が居たらしい。貴族内では有名な女性で、これまでに3度結婚して3度死別しているらしい。
3人とも老人なら死別するのも分かるが、相手は20代で健康そうな男性貴族ばかりだった。つまり彼女が毒を盛って夫たちを殺し、その財産を手に入れていたのだ。
シャルディナ盗賊団騒動でレコードカードを確認することになって、夫たちを毒殺していたのが発覚してしまった。シャルディナ盗賊団とは直接関係ないが、発覚した以上はその女性を処罰しなければならない。
ベニュー男爵は最後まで妹は何もしていないと主張していたらしい。妹は男たちの心を操る天才だったようだ。それが兄でもだ。
妹は処刑されたのは自業自得だが、ベニュー男爵はそのことで公爵を恨んだ。そして悪魔と契約したらしい。
「悪魔は人の心の闇の臭いを嗅ぎつけて忍び寄ってくる。フットシックル名誉男爵家も気をつけるように」
「はい。気をつけます」
忍び寄ってきたら討伐して宝珠を手に入れるチャンスなんて思ったりしてないよ。
「さて、今回は悪魔を撃退ではなく、討伐したわけだ。フットシックル名誉男爵家の兵士、あのネコ獣人の女性は何者だね?」
やっぱその話になるんだね。覚悟はしていたからいいけど。
「彼女は当家の兵士でリンといいます。先日、槍士から槍聖へジョブが進化しました」
「そういう大事なことはすぐに報告してもらわないと困るぞ、フットシックル名誉男爵」
公爵の眉間にシワができる。そんな目で見ないで、怖いじゃないですか。
「授与式の直前に進化しましたので、授与式後に報告するつもりだったのです」
ガンダルバンに報告するように言われたのを思い出した。忘れていたわけじゃない。授与式の後に報告しようと思っていただけだ。それに直前というのは嘘じゃない。直前がどれだけ前を言うのかは、人それぞれだしね。
「報告のことは初めてだから不問にするが、今後は速やかに報告するように。よいな」
「そうします」
これでめでたしめでたし。さあ、帰ろう。
「それで褒美の件だ」
「えぇぇ……」
「そんなに嫌そうな顔をするな。悪魔を撃退しただけでも勲三等牡丹勲章を与えるのだ。討伐した今回は勲二等菊花勲章を与える。城がこのような状況だ、少し時間は空くがそう思っておくように。もちろん、そなたの配下の者たちもだ」
ですよねー……。
そんなに勲章要らないんだけど、ガンダルバンたちが勲章をもらうのはいいことだ。
「それと悪魔から手に入れた宝珠のことだが」
公爵が視線で指示すると、文官が宝珠を載せたトレイを持ってきた。
「それはフットシックル名誉男爵のものだが、当家で購入したい。どうであろうか?」
宝珠はユニークスキルの精霊召喚が手に入る貴重なアイテムだ。本当は持っておきたいが、公爵がこのように言っているから売らないわけにはいかないんだろうな。
「承知しました。それは公爵様のほうで引き取っていただいて結構です」
「そうか。できるかぎりの対価を用意しよう」
できる限りの対価……。どんな対価か聞くのが怖い。今のうちにお金でいいと言っておくべきか。
「対価については後日相談させてもらう。今日はご苦労であった」
「はい。それでは失礼します」
なんか言い出せなかった。後からザイゲンにそっと耳打ちしておこう。
城を辞して途中で買い物をしたから、屋敷に帰ったのは昼前のことだった。
それでもモンダルクたちは慌てもせずに昼ご飯を用意してくれた。しかも風呂の用意までしてあった。
昼ご飯前に風呂に入り、疲れを癒した。風呂はいい。アンネリーセと一緒の風呂はとても癒される。ここは天国か。
ご愛読ありがとうございます。
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