056_受勲
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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056_受勲
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転生64日目。待ってました勲章授与式! 誰も待ってない? まあ、俺も待ってなかったけどさ。
昨日届いた馬車で城まで乗り付けると、多くの貴族が登城していた。この人たち全員が授与式に出席するの? ウワー、キンチョウスルー(棒読み)。
この馬車はモンダルクが必要だからと手配してくれたものだ。授与式に間に合わせるように、製作を急がせたらしい。職人たちに悪いことをしてしまった。
馬車にはうちの紋章がついていて、質素ながらも貴族用の凝った造りの馬車になっているらしい。木材、塗料、ニスなどの材料が一般向けよりも良いもので、要所に彫刻もある。良い材料と手間暇をかけた馬車になっているとモンダルクが言っていた。
「旦那様は貴族でありますので、華美な装飾はともかく、材料には拘るべきでしょう。もちろん、職人も厳選しております」
貴族家に長く仕えていただけあって、モンダルクはいい仕事をしている。俺に足らないものを補ってくれる。
「フットシックル名誉男爵だ」
ガンダルバンが今日の主役の登城を告げる。ガンダルバンは軍馬に乗っている。あの巨体だから軍馬もゴゴリア種という大型馬だ。1300キログラムはありそうな巨躯である。
見習い執事のジュエルとバースは馬車の御者席、アンネリーセ、ロザリナ、ソリディアの3人は俺と一緒に馬車の中だ。
馬車は2頭立てでこれも大型種のベルディゴ種。こちらはやや小さいが、それでも1000キログラムくらいある巨躯だ。馬車を牽かせるのに軍馬がいるのだろうか? 素人の俺が考えても分からないから聞いてみる。
「ガンダルバン様がもしもの時のために、体の丈夫な軍馬が良いと仰っていました」
ソリディアの話では、ガンダルバンが馬を決めたようだ。「もしも」という単語が気になるが、その「もしも」がないことを祈ろう。
他にジョジョクとリンも軍馬に乗っている。こちらの軍馬は中型馬のボルディア種だ。
フットシックル名誉男爵家御一行様とか外から聞こえた。気が重い。
主役だからか、他の貴族とは別のルートで入城できた。馬車と馬の世話はジュエルに任せ、他全員で城内に進む。
「こちらでお待ちください」
立派な部屋に通される。メイドが1人ついた部屋だ。お茶を出してもらって飲んでいると、ザイゲンがやってきた。
「今日の進行について確認する」
「お願いします」
進行も何も、勲章もらうだけじゃないの? あとはアンネリーセの奴隷解放だと思うんだけど?
「まず最初に騎士たちの勲章授与式がある。フットシックル名誉男爵家は貴族の末席に列席してもらう」
公爵家の騎士たちにも勲章が贈られるようで、俺たちはその後なんだとか。
「次にフットシックル名誉男爵への勲章授与。名前が呼ばれたら貴族席から前に進み出てくれ。騎士たちが立っていた場所まで進めばいい」
OK、そのくらいは簡単だ。
「授与式が終わると、アンネリーセを奴隷から解放する。それは私の執務室で行われる」
「ありがとうございます」
それで帰ればいいんだね。
「少し休憩があってパーティーが開催される」
何それ、聞いてないんですけど。
「パーティーでは他の貴族たちと交流するといい」
「交流しないとダメですか?」
「味方を作っておくのも、貴族の務めだ」
面倒くせー。
「立食形式のパーティーだが、ダンスもある」
「踊れないんですが」
「立ち話をしていればいい」
踊れと言われても困るので助かる。
「主役には最後まで居てもらう。途中で帰るようなことがないように」
嫌だー。帰りたいよー。
ザイゲンが退室して、フットシックル名誉男爵家御一行様だけになった。
「あー、緊張するなー」
「ご主人様なら立派に受勲されますよ、きっと」
「アンネリーセも一緒に居てくれたらいいのに。そしたら心強いのになぁ」
「奴隷が居ていい場所ではないですよ」
「奴隷解放を先にしてくれればいいのに、公爵様も気が利かないなぁ」
「そんなことを言ったら罰が当たります。解放されるだけで私は幸せなのですから」
アンネリーセへの褒美は奴隷解放だから勲章はない。
今日で本当に奴隷から解放されると思うと、俺も肩の荷が下ろせるよ。
お茶がカップからなくなる頃に呼ばれ、とても広い謁見の間に通されて末席に陣取る。
俺を値踏みしようという貴族たちの視線が集まる。ジロジロ見んなよ。見世物じゃないんだぞ、俺は。などは言えないけどね。
公爵が玉座(?)に座ると、騎士たちが謁見の間に入ってきた。ロークと数人の騎士と兵士だ。騎士と兵士の差はマントだね。騎士はマントをつけているが、兵士はつけてない。
騎士がロークを入れて3人。兵士は15人だ。あの魔族騒動の時に避難誘導などの貢献をした人たちらしい。
「悪魔襲撃の際、よく民を守ったローク=バルカンに勲四等椿勲章を授ける」
公爵がよく通る声でそう宣言すると、ロークが前に出て4段ある階段の3段目まで上った。
公爵が立ち上がって、勲章をロークの胸につけた。
その後も1人1人名前が呼ばれ、公爵が勲章を与えていった。
ロークは謁見の間から出ていく時に、俺にウィンクしてきた。強面の男にされても嬉しくない。
「名誉男爵トーイ=フットシックル。前に」
俺の名前が呼ばれ、俺たちはふわふわで真っ赤な絨毯の上を歩いて公爵の前まで進み出る。
俺の後ろにガンダルバン、その後ろにうちの兵士たちが並ぶ。
「名誉男爵トーイ=フットシックルは悪魔を退け、このケルニッフィの危機を救った。その功績を称え勲三等牡丹勲章を授ける」
進み出て階段の3段目まで上り、公爵の前に。
「よくやった。これからも期待するぞ」
期待されなくていいです。
「ありがとうございます」
俺が下がると今度はガンダルバンが呼ばれ、続いて兵士たちが呼ばれて順に勲章が授与された。
無事に勲章授与式が終わり、やっとアンネリーセの解放の時間になった。
ザイゲンの執務室に俺とアンネリーセだけが入る。
「これは悪魔撃退の褒美に代わる恩赦である。今後は罪を犯さず、真っ当に暮らすように。良いな」
「はい」
ザイゲンの言葉に神妙な表情で頷くアンネリーセ。
公爵家に仕える奴隷商人によって解放が行われる。これでアンネリーセは自由の身だ。
「おめでとう、アンネリーセ」
「これもご主人様のおかげです。どれほど感謝してもしきれません」
「ご主人様じゃなく、トーイだ。トーイと呼んでくれ」
「ですが……」
「トーイ」
「と、トーイ……様」
「うん。それでいい。美しい顔に涙は似合わないよ。ほら、拭いてあげる」
アンネリーセの涙をハンカチで拭く。涙は似合わないけど、涙を流していてもアンネリーセは綺麗だ。彼女を抱き寄せ、よしよしと頭を撫でてやる。
残念ながら今の俺の背丈よりも、アンネリーセのほうが高い。俺の背はもっと伸びるのだろうか?
「ゴホン。フットシックル名誉男爵、いちゃつくのは他でやってくれないかね」
「「あっ……」」
ザイゲンの執務室なのを忘れていた。ザイゲンと奴隷商人と文官たちが苦笑している。
こりゃ失礼。ははは、笑って誤魔化そう。
アンネリーセの解放も終わったし帰りたいところだが、まだ帰れない。パーティーに参加しないといけない。
俺はドレス姿のアンネリーセと腕を組み、音楽が奏でられる会場に入った。どや、俺のアンネリーセは美人だろ。羨ましいか、あははは。
「このような場所に私など相応しくないです……」
こんなことを言うアンネリーセに、俺は言う。
「俺の横に立つのは、アンネリーセ以外に居ない。だから気にせず、俺の横に居てくれ」
「ごしゅ……トーイ様……ありがとうございます」
まだ名前呼びに慣れてないアンネリーセだけど、それも愛しい。
まずは公爵に挨拶。さっき顔を合わせたのに、わざわざ挨拶に行かないといけない。面倒な仕来りだ。
「公爵様。本日はありがとうございました。おかげをもちまして彼女も解放できました」
「美しいな」
「私のアンネリーセですからね」
「ははは。大丈夫だ、取りはせぬ」
美しいとか綺麗だと思うのはいいが、アンネリーセに手を出そうというなら、全力で排除する。それで世界を敵に回すことになってもだ。
「それで、いつ式を挙げるのだ? 私が媒酌人をしようじゃないか」
「「えっ!?」」
式……。
「その顔ではプロポーズもしてないのか? いかんな、そういうことはちゃんとしないと、後からずっと言われ続けるぞ(笑)」
し、式ってもしかして結婚式のこと?
アンネリーセは頬を赤らめ俯いている。俺とアンネリーセが結婚……いいじゃないか! それ、採用!
「公爵閣下。フットシックル名誉男爵」
式のことを考えていたら、ザイゲンがやって来た。俺は公爵の横で共に彼の挨拶を受けた。
面倒だけど、今夜の主役である俺は公爵の横で笑みを絶やさずに居なければいけないらしい。
その横にはアンネリーセもいる。その微笑みには100億グリルの価値があってもいいと俺は思う。その笑みで俺の引き攣った笑みをカバーしてくれ。
次はロークとその父のバルカンがやって来た。いやもう1人、バルカンと同じ顔をした奴がいるぞ。バルカンの長男か!
なんて強い遺伝子なんだ、バルカン遺伝子恐るべし。
「この度は息子をお引き立てくださり、感謝いたします」
バルカンが長文を喋っている!? こいつ、こんな長文が喋れたのか。
「さらなる忠勤に励みます。これからもよろしくお願いいたします」
ロークはちょっと緊張気味。顔が怖いよ、笑おうぜ。
「公爵閣下。弟をお引き立ていただき、感謝いたします」
おお、ちゃんと話せるんだ。バルカン遺伝子を駆逐しろ。
「フットシックル名誉男爵。初めてお会いします。私はイージス=バルカンと申します。父と弟がお世話になっていると聞いています。2人がご迷惑をおかけしていませんか?」
ものすごく常識人!?
「これは丁寧な挨拶痛み入ります。私はトーイ=フットシックルと申します。お父上とローク殿には大変お世話になっていますよ、イージス殿」
本当は大迷惑を被っていましたけどね。社交辞令ですよ。
イージスも騎士団に所属している武人で、今は連隊長をしているらしい。その顔……じゃなかった、鍛え抜かれた大きな体を見たら文官じゃないことは簡単に想像できる。きっと父親にシゴかれたんだろうな(遠い目)。
長男のイージスと三男ロークがバルカン遺伝子の猛威に曝されていることを考えると、次男もバルカン遺伝子全開なんだろうな。一家揃ったら、気温が5度くらい上がりそうだ。
バルカン一家の後は公爵の家臣の貴族たちが挨拶してきた。
貴族の中にはアンネリーセを見て厭らしい笑みを浮かべる奴も居たけど、手を出そうというのなら覚悟しろよ。
ずっと立っていて、料理も味わえない状態。拷問か、これは?
貴族たちの挨拶が佳境に達し、あと少しというところだったのにそれは起こった。
ご愛読ありがとうございます。
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