054_カレーの日
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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054_カレーの日
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転生62日目。今日はソリディアとバースと共に、朝早くから神殿に向かった。もちろん転職するためだ。
バースは一晩考えて、冒険者に転職することにしたらしい。戦闘職を諦める踏ん切りをつけたのは明け方のようだ。目の下にクマを作っていた。
「ご当主様。ネクロマンサーに転職できました」
転職を終えたソリディアの嬉しそうな顔がとても印象的だ。
「おめでとう。レベルが1になってしまったけど、がんばって上げような」
「はい。よろしくお願いします」
バースが出てきた。すっきりした顔をしている。
「冒険者に転職しました」
「うん。これからもよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
相変わらず神殿はぼったくり価格だ。2人の転職に4万グリルも払った。それくらい払う財力はあるが、もう少し安くしないと一般人にはハードルが高い。
次はゴルテオさんの店だ。今日はゴルテオさんは不在だったから、副店長にロザリナの解放を頼んだ。
「解放が完了しました。おめでとう、ロザリナ。いえ、ロザリナ様」
「えへへへなのです」
ロザリナの解放が終わり、彼女の頭を撫でてやる。
「これからも頼むぞ、ロザリナ」
「はいなのです」
さて、ゴルテオさんが居ないから副店長に聞いてみる。
「米とスイカですか? はて……聞いたことがありませんね……」
首を傾げる。
「スイカは緑色に黒の縞がある大き目の果物です」
「あぁ、もしかしたらウオメロでしょうか?」
ウォーターメロンだからウオメロ? 名前のことはどうでもいいや。
「それの種はありますか?」
「あれは珍しい果物でして、残念ながら種は扱っておりません」
これだけの店にも置いてないほどか。残念だが、しばらくはスイカを食べられそうにないな。
「ですが、お時間をいただければ取り寄せることは可能です」
「本当ですか!?」
捨てる神あれば拾う神ありだな! 待つから取り寄せてください!
「時間はかかってもいいので、その種を取り寄せてください」
「承知しました」
スイカの目途は立った! あとは米だな。
「米はフラワーのようなものだけど、水を張った畑で作るんです」
水田が通じるか分からないから噛み砕いて説明。
ちなみにフラワーというのは、この世界で流通している小麦に似た穀物。フラワーの粉にググルトの粉を混ぜたものがパンになる。
日本ではグルテンの含有量が異なることで薄力粉とか強力粉と言っていたけど、異世界の小麦も色々な粉があるはずだ。産地による特徴も違うだろう。そういったことで米も違う可能性は十分にある。
「水を張った畑で……フラワーに似た……もしかしてライスのことですか?」
え、ライス!? そのままかよ!
「そう、それです。多分」
「ライスは水が豊富な場所で作られています。小麦よりも作付面積当たりの収穫量が多いことから、家畜の餌にしています」
なんと勿体ないことを……。米を作るためには八十八の手間暇がかかって……と言ってもこの世界では違うのかな。
「その米は店に置いていますか?」
「はい。家畜用の餌ですから、裏の倉庫にございます」
倉庫に連れて行ってもらい、ライスを確認する。玄米のように茶色だけど、米だと思う。穀を外さないといけないが、もちろん買ったよ。
脱穀……いや脱稃だったか? どうやるんだっけ? まあ、なんとかなるだろ。
ライスが10キログラムほど入った袋を10袋購入した。家畜の餌だから山ほどあった。うれしい光景だったよ。
食べて美味しかったら、また買いにこよう。
屋敷に帰るとすぐにソリディアが触媒の製作に入った。
これはスキルでできるので、材料さえあれば難しくないらしい。
材料は主に魔石になる。魔石は屋敷の魔道具でも使うからいくつか持っている。
触媒を作るところを見せてもらったが、まるでゲームのような光景だった。
魔石をテーブルの上に置いて、それに両手をかざしてスキル・触媒作成を発動させると魔石が発光して触媒ができる。
ガーゴイルからドロップするFランク魔石で、10個の触媒が作れる。今はスケルトン召喚用の触媒しか作れないが、スキルの熟練度が上がったら別の触媒も作れるだろう。それにしても不思議でゲーム的な光景だった。
その後はガンダルバンの訓練を受けるロザリナを眺めつつ、米の籾殻を取っている。
乱暴だけど、麻袋に少しの米を入れて平らな石に叩きつける。バッスンッバッスンッやってみたら、意外と取れてきた。もう少し続けたら、概ね籾殻が取れた。
今度は小型の樽の中に米を入れて、棒で突っつく。精米だ。スットンッスットンッとやってみたら、米糠のようなものが出てきたから多分精米できているんだと思う。
米糠を選り分けた米を見ると、まだ茶色い。真白な米にするにはまだまだ精米する必要があるようだ。
もっとスットンッスットンッして、かなり白くなった。結構な労力だぞこれ。
定期的に米を食べるなら、精米機を作らないといけないな。まだこの米が美味しいか分からないので、今は作らないけどさ。
屋敷のキッチンは魔導コンロがあって料理はそこでしているが、庭に石を積んだ竈を作って鍋で米を炊いた。
「ふー、ふー」
火の管理が大変だ。
せっかく火を熾したからバーベキューをしようと思い、料理人のゾッパに頼んで野菜と肉を適当な大きさに切って串に刺してもらった。もちろん池イカも丸ごと串に刺してもらい、バーガンで味付けしている。
それから複数の香辛料を調合してカレーを作った。なんだかキャンプみたいで楽しい。
香辛料は数十種類あって、今回は10種類くらいを調合している。細かく切ったトマトを加えて煮込んでいくと、複数の香辛料が複雑に絡み合った良い匂いが立ち上る。カレーの匂いだ!
迷宮牛の肉を細かく切って、カレーの中に投入。屋敷に移ってからは、ネズミ肉は食べてない。不味くないと思うけど、なんとなく心が拒否するんだ。
「ご主人様。カレーはこれくらいでよろしいですか?」
「うん。いい感じだよ、アンネリーセ」
カレーをかき混ぜるのはアンネリーセに頼んでいる。水を使わずトマトの水分だけで煮込んでいるから、焦がさないようにかき混ぜてもらったんだ。
「いい匂いだ」
「独特の匂いですが、食欲を刺激しますね」
「米が進むんだよ、これが」
「米というのは、ライスのことですね」
「そうそう。俺の知っている米―――ライスに似ているからちょっと期待しているんだ」
先程から米を炊いている鍋の蓋がパカパカしているから、火から下ろして蒸らす。美味しくなーれと、心の中で呪いのように繰り返す。「のろい」じゃなく「まじない」ね。
米を蒸らしている間に、串を焼き始める。
池イカに塗ったバーガンが香ばしい匂いを漂わせ、その横で肉串から肉汁が火に落ちてプシュッと音を立てる。
モンダルクたちが庭にテーブルを設置してくれた。
今日は兵士も使用人も関係なく、カレーの味見会だ。カレーのほうは匂いを嗅ぐ限りではいい感じにできていると思う。水分が少ないキーマカレーに近いものだ。
味見をしてみたが、うんカレー。米がダメでもパンでも食べられそう! テンション上がる! 米が美味しいことを祈る!
さて、その米だがそろそろいいだろう。
蓋を開けて立ち上る甘い香り。ここまでは合格だ。
米が立っている。これもOK。
しゃもじ(自作)でかき混ぜる。おこげの茶色が美味しそう。
一番の問題は味だ……。ちょっとパサつくけど、食べられないほどではない。100点満点中45点といったところか。ギリ合格かな?
カレーと一緒に食べてみる。あ、意外と合う。水分が少ないカレーだけど、米をコーティングするくらいの水分はある。それが上手いこと絡み合って、美味しい。
「アンネリーセは米を皿の半分くらい盛り付けてくれるか」
「はい」
俺はカレーを米の横によそう。
その皿をモンダルク一家が配膳してくれた。
「俺の国の料理だ。一度食べてみてくれ」
「これはライスですか?」
ガンダルバンが白い米を不思議そうに見ている。
「俺の国ではライスを炊いてから蒸して、美味しく食べるんだ。ただ、手に入れたライスが俺の国のものではないから少し味は落ちる。でも美味しいと思うぞ」
俺がスプーンでカレーと米を掬い口に運ぶのを見てから、皆が同じようにカレーライスを食べた。
「「「っ!?」」」
全員が目を開ける。
「美味しいだろ?」
「「「はい!」」」
ガンダルバンと兵士たちがガツガツと食べる。
「なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ」
「美味すぎてスプーンが止まらないぞ」
「こんなの食べたことないわ」
「辛いけど、癖になる美味しさだわ」
ジョジョク、バース、リン、ソリディアが食べながら喋る。行儀が悪いから、口の中のものを飲み込んでから喋ろうな。
「口の中で暴れますが、これがまた美味しい。見た目はアレですが、素晴らしいものですな」
アレというのは、ウ●コのことか? それを言ったら、次のカレーは抜きにするからな、ガンダルバン。
「ごしゅじんしゃま、オイシイなのでしゅ!」
まるでリスのように頬袋を膨らますのはロザリナ。泣かなくていいんだぞ。そんなに美味しいんだな。
「食べても食べても食欲を誘います。こんな料理があったのですね」
「この辺りの料理も美味しいが、俺の国の料理も美味しいだろ?」
「はい。とても美味しいです」
アンネリーセは1回1回口に運ぶ量は少ないが、本当に美味しそうに食べてくれる。
「これは摩訶不思議な味ですな。複数の香辛料を調合するとこのような複雑怪奇な味になるのですね」
モンダルクが不思議そうにカレーを眺めている。食えよ。
「美味しいだす。作り方は見ていただす。これからこのカレーという料理をメニューに入れてもいいだすか?」
「ああ、いいぞ。そうだ、毎週光の曜日の夜はカレーにしてくれ」
1週間は6日で、火、水、風、土、光、闇の曜日がある。
たしか海上自衛隊は1週間に1回カレーの日があったと思う。他の曜日でもいいけど、光の曜日が金曜日とか土曜日のような扱いだから、光でいいかと思った。
この日以降、毎週光の曜日はカレーの日になった。ついでに料理人のレベルが2に上がった。
バーベキューが終わり自室で自分のジョブとスキルについて考えていると、モンダルクが来客を告げた。
「ローク隊長が?」
応接室に通してくれと頼み、アンネリーセに手伝ってもらって質素な貴族用の服に着替える。
「お待たせして申しわけないですね」
「いえいえ。先触れもなくお伺いしたのは私のほうですから」
ロークは父親似の極悪な顔に笑みを浮かべた。
「今日お伺いしたのは、公爵閣下の決定をお伝えするためです」
「決定……?」
また何かやれと言っているのか? あの人、結構人使い荒いよね。
「実を言いますと、フットシックル名誉男爵の家臣の方々にも勲章を与えることになりました。トーイ殿と共に悪魔を退けた功績に対するものです」
なんだそんなことか。決定と言うから身構えてしまったじゃないか。
「それはありがたいことです」
俺のことじゃないから、素直に受けておいた。ガンダルバンたちの名誉になることだからね。
「しかし、急な話ですね」
「トーイ殿と共に彼らも悪魔と戦いましたから。そのことが考慮されたのでしょう」
そこにモンダルクが入ってきた。紙を渡されたから読んでみると、ロークからの贈り物のリストだった。なんで贈り物?
「良いものを頂戴したようですね。お礼を言います」
「いえいえ。トーイ殿のおかげで私は昇進できました。感謝するのはこちらのほうです」
「昇進ですか?」
「はい。首切りリネンサの捜索及び悪魔撃退に貢献したということで、大隊長に昇進することになりました。悪魔の撃退に関しては何もしてないので心苦しいですが、トーイ殿をあまり目立たせないための処置と公爵閣下が仰いましたのでお受けすることにしました」
公爵も考えてくれているんだな。本当は俺の勲章なんていらないけど、一般的に考えれば叙爵や叙勲は褒美だもんな。
「それはおめでとうございます」
首切りリネンサの捜索も積極的に指示に従ってくれたし、首切りリネンサが悪魔の姿になった時も被害が最小になるように避難誘導して活躍したんだから誇っていいと俺は思うけどね。
ロークは30数人を率いる中隊長から、200人ちょっとを率いる大隊長になった。顔は怖いけど人柄は信用できそうな彼が出世するのは、俺にとってもプラスだ。何かあった時に頼らせてもらおう。
将来頼るために、昇進のお祝いを贈っておこう。何がいいかな、ガンダルバンやモンダルクに相談して贈ろう。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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