048_精霊召喚
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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048_精霊召喚
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起きたら目の前にアンネリーセの胸があった。気持ちよいクッションだと思っていたが、アンネリーセのOPPAIだったようだ。
寝ている間にアンネリーセに抱きついていた。悪いことをしてしまったが、俺は後悔してない。だってアンネリーセのOPPAIに俺の顔がすっぽりと収まる感じがとても気持ちよいから。
「おはようございます。ご主人様」
「おはよう、アンネリーセ」
エメラルドグリーンの瞳に俺が映っている。いつ見ても宝石のような瞳だ。
「ロザリナは?」
「ガンダルバン様と訓練をしています」
「訓練? こんな朝早くからか?」
「うふふふ。もうすぐお昼ですよ、ご主人様」
朝かと思ったらもう昼か。良く寝たな。転生60日目は、泥のように眠っていたようだ。おかげで体調は万全。元気過ぎて困ってしまう。どことは言わないが。
「お昼は何が良いですか?」
「うーん……アンネリーセが食べたい」
「……いいですよ」
「えっ!?」
アンネリーセの唇が俺の唇に合わさる。
なんて柔らかいんだ。これがアンネリーセの唇なのか。ファーストキッスはレモンの味とか誰かが言っていたが、それは嘘だ。甘くて甘くて、とっても甘いじゃないか。
「アンネリーセの唇は美味しいね」
「唇だけですか?」
「唇だけじゃないと思う。でもさ、これ以上はいけないよ」
「なぜです? ご主人様は私を自由にできますよ」
潤んだ瞳にドキリとする。ああ、俺はアンネリーセが好きなんだと、心の奥深くにあるものを感じた。
「そ、そうだ。アンネリーセは奴隷から解放されることが決まったよ」
このままではアンネリーセを押し倒しそうだから、話を変える。
「え?」
「今回の悪魔撃退の褒美で奴隷から解放してもらえることになったんだ」
「それは……私はもうご主人様には不要なのですか……?」
「そんなわけないだろ! アンネリーセは俺の大事な人だ。奴隷から解放されても離しはしない!」
「っ!?」
思わずまくし立ててしまった。恥ずかしい。
「言葉を荒らげてしまって、ごめん。でも今の言葉は本当のことだから、俺はずっとアンネリーセと一緒に居たい。そばに居てほしいんだ」
「……はい。ありがとうございます。死が2人を分かつまで、私はご主人様のそばに居させていただきます」
嬉しいことを言ってくれる。俺もアンネリーセといつまでも一緒に居たいよ。
「奴隷から解放されるのは嬉しいのですが、私が起こした事故によって、多くの方にご迷惑をかけてしまいました。本当に解放されていいのでしょうか……」
「その事故は不幸な出来事だ。負い目はあるが、それでもわざとやったわけじゃない。被害にあった人たちのことを忘れず、生きていけばいいと思うぞ」
「はい……」
アンネリーセが泣き出した。嬉し泣きだよね、俺も嬉しいよ。
昼食後、俺はステータスを確認した。
あの下級悪魔パティスとの戦闘で両手剣の英雄と暗殺者、そして転生勇者がレベルアップした。
両手剣の英雄と暗殺者は共に1つ上がってレベル26になり、転生勇者はなんとレベル9になっている。下級悪魔でもレベルが30もあったからかな。
転生勇者を使うつもりはなかったが、聖属性の攻撃ができる数少ないジョブだったからしょうがないよね。使うつもりのないジョブだったけど、出し惜しみして皆が傷ついたら後悔してもしきれない。
さて、問題はあの下級悪魔パティスからドロップした宝珠(下級)だ。
この宝珠(下級)を使えば、スキルを覚えるらしい。ジョブではなくスキルだ。
そもそもスキルを覚えるのは良いが、ジョブは関係ないのだろうか? もし対応するジョブがないと使えないとかなら意味のないものだ。詳細鑑定でもそこら辺は教えてくれなかった。
「でも使うんだけどね」
テーブルの上に置いた宝珠(下級)を持ち上げ、使うと念じる。
「俺に精霊召喚を与えろ」
宝珠(下級)はスーッと消えていった。え、これだけ?
慌ててステータスを確認する。
スキルじゃなく、ユニークスキル欄にあったよ。
・下級精霊召喚(0/1) : 下級精霊1体を召喚し、使役する。召喚される精霊はランダムで決まる。現在使役中の精霊はいません。
「ここで召喚してもいいのだろうか?」
自室が破壊されたら嫌だから、外に出よう。
庭ではガンダルバンと兵士たち、そしてロザリナが訓練していた。今朝もしていたけど、昼からもしてるんだね。バルカンの脳筋遺伝子受け継いでないか?
「ご当主様も剣を振りますか」
ガンダルバンとロザリナはバルカンほどではないが、脳筋だ。この2人につき合っていると、朝から晩まで訓練することになる。信じられないよ。
「いや、俺はちょっとやることがあるから」
ちゃんとお断りして脳筋たちから離れる。せっかくバルカンのしごきから解放されたんだ。しばらく自由を満喫するぞ。
庭の端に陣取り、下級精霊召喚を意識した。
「精霊よ、出てこい」
俺の声に呼応するように、地面が盛り上がる。なんだ、何が起こった?
盛り上がった地面から芽……植物の芽が出てきて、それが成長していくつもの枝が絡み合っていく。いや、これはつるか? そのつるに棘があることからバラ系のようだ。複雑に絡み合っていくつるがまるで半径50センチの球体を形成して動きが止まった。
つるでできたボールのようなものがぱかりと開き、そこから淡いピンク色の光の玉がふわりと浮き上がる。
なんとなく分かったが、この光の玉が精霊なんだ。
「俺の言葉は分かるか?」
ふわふわと浮いているが、大きく上下する。分かるようだ。
「お前はなんの精霊なんだ?」
俺の精霊のイメージは、火とか水などの属性があるものだ。
精霊は自分が出てきたつるの周りを飛んだ。植物の精霊っぽい。
思っていたよりも地味な精霊だった。痛い、痛いって、蹴るなよ。なんで光の玉なのに蹴れるんだよ。
ふと気配を感じて、振り返る。
ガンダルバン、ロザリナ、兵士たちが口を開けて俺を見つめていた。
「どうした?」
「……どうしたではないでしょう。その光るものはなんですか? まさかと思いますが、精霊なんて言わないですよね」
ガンダルバンの眉間のシワがすごい。今はザイゲンよりも深く見える。てか、ちゃんと諦観してるじゃん(笑)
「うん。精霊。植物系の下級精霊だって」
「「「「「………」」」」」
「うわーっ、精霊様なんですね! さすがはご主人様なのです!」
5人は呆然、ロザリナだけが仰望の眼差しだ。でも精霊に様をつけて呼ぶのなんで? 精霊信仰とかあるのかな?
「ご当主様には常識などないと思っていましたが、本当に常識がないですな。精霊を召喚できる存在がどれほど貴重か、ご当主様は理解しておいでですかな。言わなくても分かります。理解してないのでしょう。ええ、分かっておりますとも。その上で申しあげますが、何かする時は某かアンネリーセ殿に相談してからにしてもらいたいものです。それでもご当主様の非常識は隠せないでしょうが、多少は和らげることができるかもしれません」
おおお、まくしたてたな。
「ストレス溜まってるのか?」
「誰のせいですか、誰の……はぁ……」
そんなに大きなため息を吐かないでもいいじゃないか。
「で、精霊召喚は非常識なんだな?」
「ちょっと待っていただけますか。心を落ちつけます」
なんだかすまん。
大きく息を吸って吐くガンダルバンが、キッと俺を見てくる。
「さて、ご当主様」
「はい」
「精霊を使役する者がこの世界にどれほど居るとお思いでしょうか?」
どれほどと言われてもなー……。ユニークスキルがこのケルニッフィに数人居るかどうかだから、もう少し広げて国に数人だとすると、世界に数10人から100人くらいかな?
「100人くらい?」
「はぁぁぁ」
滅茶苦茶大きなため息なんですけど。もっと多かった?
「私が知る限り精霊召喚ができる、いえ、できたのは10数人です。それも歴史上10数人ですよ」
歴史上10数人とか、少なすぎるだろ。悪魔を倒せば宝珠がドロップするんだろ? だったらもっと精霊召喚できると思うんだけど。
「その顔は分かってないですね。いいですか、精霊召喚ができたのは過去の勇者や聖女などのごく一部の絵本になるような伝説的な方々なのです。もしご当主様が精霊を使役していることが知られたら、どれほど大きな騒動に発展するか分かってないですよね?」
ガンダルバンの強面の顔が近いんですけど。
「お、おぅ……なんかすまん」
「さて、今の話を踏まえて、ご当主様はどうされますか?」
いきなり質問!? これはなんと答えるのが正解なの?
「な、内緒にする?」
「そうです。人に知られないように、隠蔽してください」
正解だったーっ!
「まずは、精霊を出すのは人目につかないところだけ。この屋敷の庭は石塀があると言え、安心できません。屋敷の中に入ってください」
「はい」
参ったー。ガンダルバンの奴、屋敷の中でめっちゃ説教するんだもん。しかもアンネリーセまで加わって、俺は小さくなって「はい、ごもっともです」しか言ってない気がする。
件の精霊は、俺が2人から説教されている間、俺の周りをふわふわ飛んでいた。気楽なもんだ。
幸いにも精霊は姿を消せるから、他人に見られなくすることができる。姿を消した状態でも、俺にはなんとなくホワーッと光って見えた。見えない精霊に話しかけていると、危ない人に見られそうだけどさ。
あと、宝珠から精霊召喚のスキルが得られるというのは、あまり知られてないようだ。少なくともガンダルバンやアンネリーセは知らなかった。
ご愛読ありがとうございます。
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