041_騎士ガンダルバン
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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041_騎士ガンダルバン
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両腕にアンネリーセとロザリナの頭の重さを感じ目覚める。こんなに可愛い少女たちの寝顔を見て目覚める朝は最高だ。
「これで筋肉痛がなければな……」
一晩中2人の頭をのせていた腕も足も腹筋も背筋も体中の何もかもが痛い。
「ごしゅじんしゃみゃぁ……」
ロザリナに呼ばれたが、どうやら寝言のようだ。幸せそうに寝ている。
「おはようございます。ご主人様」
アンネリーセが起きたようで、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳がまっすぐ俺を見つめる。引き込まれそうなくらい澄んだ瞳だ。
ロザリナも起きた。だけど、俺はベッドから起き上がれない。筋肉痛のせいだ。
転生19日目の朝は動くのも厳しい状態から始まった。
情けないが2人に支えられながら1階へ下りていく。モンダルクたちがすでに食事を用意してくれている。
「おはようございます。旦那様」
「おはよう」
椅子に座ると、ホッと息を吐く。
だが、問題はここからだ。腕が上がらないんだ。
「ご主人様。食べさせて差し上げます」
「すまない、頼む」
アンネリーセがすぐ横に移動してくる。
横に陣取ったアンネリーセが、料理を切り分けてくれる。
「ご主人様。あーん」
アンネリーセが切り分けた目玉焼きを、俺の口に。
「あーん。もぐもぐ……美味い」
ゾッパの料理は元々美味いが、アンネリーセにあーんしてもらうと魔法のスパイスがかかったようにさらに美味しくなる。
アンネリーセのおかげでひもじい思いをせずに済んだ。本当に助かるよ。
「旦那様。本日のご予定ですが、食後に例の騎士候補者の面接をお願いします」
「了解」
モンダルクの知人の騎士候補者がもうすぐやって来るらしい。そう言えば、俺貴族らしい服を持ってないな。公爵に会った時も正装してないし、どーでもいいか。
「それとテーラーを呼んでおります。面接の後にご対応をお願いいたします」
「テーラー?」
なんじゃそれ?
「服を仕立てる者にございます。旦那様は服に無頓着にございますので、お呼びいたしました」
「お、おぅ……了解」
服のことを考えた途端に、テーラーを呼んだことを言うモンダルクはエスパーなのか?
自室でザイゲンにもらった資料を読んでいると、モンダルクの知人がやって来た。
応接室に入ると、大柄のクマの獣人が居た。どこかで見たような人物だ、どこだったか?
「トーイと言う。よろしく」
「ミリス=ガンダルバンと申します」
「ミリス……」
どう見ても男だが、女性なのか? クマの獣人は女性でも大きいと思うが、こんなに厳つい顔なのか? 性別を間違えるのは失礼だよな。詳細鑑定に聞くか。
「よく女性と間違われますが、男です」
俺が考え込んでいたら、苦笑された。悪いことをしてしまったようだ。
「……すまん」
「いえ」
ソファーに座って、ミリス……ガンダルバンにも座るように促す。そこで思い出した。このガンダルバンとはダンジョンの4階層のボス部屋の前で会っている。
「久しぶりだな」
「まさかあの時の方が、貴族になられるとは思ってもいませんでした。その節は大変失礼いたしました」
いや、ガンダルバンは失礼なことはしてない。失礼なのはそのパーティーメンバーのオオカミ獣人だ。
ガンダルバンは青みかかった黒い毛を短く刈り揃えている。背丈は2メートルくらいあるが、横にも広い。ソファーを2人分使っている。頭の上に可愛らしい丸みを帯びた耳がある。強面だけど、耳は可愛い。
「あのオオカミの獣人は元気にやっているか?」
とりあえず、共通の話題を振ってみた。
「あの者は田舎に帰しました」
「ん、どうした?」
仲間割れか? その気持ちは分かるぞ。俺なら速攻でパーティーから追放するな。あいつが追放系主人公だとしても、そんなことは知らん。
ガンダルバンは言いにくそうに口を開いた。
「4階層のボスはなんとか無事に倒せましたが、5階層の迷宮牛に腕をやられてしまい、探索者を続けることができなくなったのです」
あのオオカミ獣人は俺が感じたように問題児だったらしく、メンバーと連携することなく戦っていた。もちろんガンダルバンはそれを何度も注意したが、跳ねっ返りのオオカミ獣人は聞く耳を持たなかったらしい。
5階層の迷宮牛は2体で出てくることもあり、ガンダルバンが1体を引き受けている間に他の5人が別の1体を倒す戦術を取っていたらしい。
好き勝手やっていたオオカミ獣人は、1人で迷宮牛に突っ込んで鋭い角に右腕を貫かれて、腕を切断する大怪我を負ったそうだ。
ポーションはある程度の傷を瞬時に治してくれるが、ちぎられた腕を治すほどの効果はない。ポーションを何本も使って傷口を塞いで失血を抑えるくらいなものだ。
「話を聞く限りは自業自得だが、それを俺に話したらガンダルバンの評価が下がるぞ」
統率力がないと思われる話だ。
俺に仕官しようと面接に来ているのに、マイナスの話をしているのだからな。
「そういったことを隠して仕官するつもりはございません」
潔いじゃないか。そういうのは嫌いじゃない。
世間話をするつもりが、重い話になってしまった。さっそく、本題に入るか。
「以前、騎士として貴族に仕えていたと聞いた。その家のことを話せとは言わないが、その家でどのようなことをしていたか聞きたい」
どんな仕事をしていたかは、重要なことだ。俺が求めている人材は、兵士を指揮して戦場を駆けられる人物だ。それ以外では家の警備だな。
もちろん戦場に出たいとは思わない。俺はダンジョン探索しながら楽しくすごせればいいんだ。
「前職では部隊長を務めておりました」
俺の求めることをしていたか。だけどそれだけじゃダメだぞ。
「部隊の人数は?」
「50人から60人程になります」
へー、結構な数の部下が居たんだな。そこそこの立場だったんじゃないか。
公爵家の基準では騎士1人に5人の兵士がついて、分隊を構成する。2から3個分隊で小隊になり、2から3個小隊で中隊になるから、公爵家の基準に照らすとガンダルバンは中隊長クラスになる。
「ジョブは?」
「剛腕騎士にございます。レベルは22になりました」
俺の詳細鑑定でも剛腕騎士Lv22と出ている。間違いない。
クマの獣人プラス剛腕騎士だけあって、STRやVITは素晴らしい数値だ。
「俺に仕官したら、パーティーはどうするんだ」
「そのことでトーイ様にお願いがございます」
「言ってみろ」
「某のパーティーメンバーを兵士として雇っていただきたいのです。先程の話にあった者を田舎に帰しました故、某が抜けたら4人で探索者をするか、新しい仲間を募集するか、解散して別々の道を進むかになります。ですが、某としては気心が知れた者を配下にして鍛えていきたいのです」
これは俺にとっても悪い話ではない。
俺が兵士を雇う場合、ザイゲンに紹介してもらうか探索者を引き抜くかの2択になる。ガンダルバンのように、モンダルクの知人が都合よく出てくるほうが珍しいのだ。
ザイゲンに紹介してもらった兵士だと、俺の監視をして内情を漏らされそうで怖い。いや、魔法契約書があるから大丈夫なのか? だけど紐付きは危険だ。性格の悪そうなザイゲンなら、魔法契約書の隙間を突いてきそうだ。
探索者を引き抜くにしても、これから探していては大変だ。それに良い探索者は公爵家や他の貴族家が唾をつけている可能性が高い。俺のような新興貴族に仕えようという奴は珍しいんじゃないか。
「ガンダルバンを雇うと、他の4人もついてくるわけか。だが、俺は他の4人の人柄を知らない。簡単に返事はできないな」
「もっともな仰せです。屋敷の前に4人を待たせていますので、よろしければ見定めてください」
なんとも用意がいい。俺がガンダルバンを必ず雇うと思っていたのか? なかなかの自信じゃないか。
俺はガンダルバンと共に外に出た。
「何もトーイ様が足を運ばずとも、某が呼んできましたものを」
そんなことを言うガンダルバンに向き直る。
「ガンダルバンはここで待て」
「……承知しました」
ガンダルバンを玄関の前で待たせる。自慢じゃないけどかなり広い屋敷だから、玄関から門までそれなりの距離がある。
俺は門から出るルートから逸れて、塀に飛び乗った。高さ2.5メートル、幅50センチ程の石の塀だから乗っても安心だ。
塀の強度よりも、俺のほうが問題だ。筋肉痛がなければ余裕を持って飛び乗れたが、ちょっと危なかった。
ガンダルバンのパーティーメンバーが塀に沿って並んで待っていた。北風が吹いて寒いが、それでも塀に沿って一列に並んで微動だにしない。
あのオオカミ獣人はいただけなかったが、この4人は良いと思った。
誰かに雇ってもらおうというのだから、それなりの真面目さが必要だ。この4人は俺がいつ出てきてもいいように、背筋を伸ばして待ち続けていて好感が持てる。
こういう心がけができる人は信用できるか分からないけど、真面目に仕事をするはずだ。
塀から飛び降りて、ガンダルバンと合流した。
「お前と4人を雇う。4人を連れてこい」
「よろしいのですか?」
「そのために来たんだろ?」
「ですが、レコードカードも確認されておりませんが……」
そう言えば、犯罪歴とかはレコードカードで確認するんだったな。詳細鑑定がレコードカード以上の情報を教えてくれるから、すっかり忘れていたよ。
「俺がいいと言っているんだ。気が変わらないうちに4人を連れてこい」
誤魔化すようにそう言う。強引だけど、構わない。ガンダルバンも他の4人も犯罪歴はないしね。
「はっ!」
ガンダルバンはビシッと敬礼し、駆け足で門を出ていった。
4人は男女2人ずつで、イヌ獣人の男が剣士Lv11のバース、リザードマンの男が剣士Lv12のジョジョク、ネコ獣人の女性が槍士Lv11のリン、キツネ獣人の女性が槍士Lv10のソリディア。
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