037_シャルディナ盗賊騒動後始末
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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037_シャルディナ盗賊騒動後始末
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▽▽▽ Side アルカイン(公爵) ▽▽▽
眉間にシワを寄せるザイゲンが、不機嫌そうに報告書をめくる。
「今回のシャルディナ盗賊団壊滅作戦以降、4商会と8貴族家を処分することになりました。商会のほうは潰して資産を没収しましたが、問題は貴族家です。8家のうち6家は領地を任せております。全て潰すのは簡単ですが……」
「その後の領地経営が成り立たんか」
我が家の臣下の領地持ち貴族の数は多い。領地持ちと言っているが、実際には公爵である私に代わってその土地を治める代官である。
領地を任せている6家を潰すと、その後の領地経営が問題になる。
「とはいえ、その6家に任せていた領地はかなり酷い状態のようです。今朝届いた報告書では、立て直すのに苦労するとのことです」
「……8家とも潰す。盗賊に手を貸した者が、どうなるのか見せしめだ。容赦するな。当主とその妻は斬首。男子も成人は斬首。女子供は神殿に入れる」
子供たちは不憫だが、これも貴族のケジメだ。ここで容赦したら、今後も同じこと繰り返す輩が現れる。厳正に対処する。
「親族はいかがしますか」
「レコードカードを提示させよ。それで犯罪が確認できたら、処罰する。それ以外は特に処分しなくても良い」
なんでもかんでも処分していては、恐怖政治になる。ケジメは大事だが必要以上の処分はしなくていい。それに当主一族を完全に排除し、さらに多くの者を処罰したらそれこそ領地経営がままならぬ。犯罪に手を染めてないのであれば、それでいい。
「それでは次の報告です。例の協力者ですが、身元のほうが判明したと思われます」
思われる……か。
「本人に確認はしてないということだな」
「ええ、あれだけの隠密能力を持つ者を下手に刺激したくありませんので」
「うむ。その通りだ。それでいい。で、その者とは?」
「探索者をしております、トーイなる者にございます」
ザイゲンの報告を聞くと、なんとも掴みどころのない人物のようだ。
そのトーイなる者は、旅人だという。このケルニッフィにやって来てまだ1カ月も経ってないそうだ。
ジョブは旅人のままらしいが、それでダンジョンに入っている。私の記憶がたしかなら、旅人は戦闘でレベルが上がらないはずだ。どういうことだ?
「なんでも奴隷を2人連れてダンジョンに入っているそうです。報告によればすでに5階層を踏破して6階層を探索しているとのことです」
「はぁ? まだ1カ月も経っていないのだろ? その2人の奴隷が優秀なのか?」
バルダーク迷宮は5階層を探索する者を一人前と呼ぶ。だが5階層ではまだ二流の探索者だ。その先の6階層を踏破するのが大変なのだ。
6階層に出てくるガーゴイルが、とにかく硬いのだ。ガーゴイルを倒すには、魔法使いか属性攻撃できる者が必要だ。それ故に6階層を越えることが、一流探索者への第一関門になっている。
普通、1カ月で5階層を踏破などできない。早い者でも1年以上はかかるだろう。それでも6層の探索はままならないだろうが……。
「奴隷は優秀です。人物鑑定させましたが、1人は魔法使いLv21、もう1人はバトルマスターLv16だとか」
「バトルマスター? 聞いたことがないジョブだな」
「文献を確認したのですが、バトルマスターなるジョブの記録はありませんでした」
珍しいジョブは、総じて強力なものが多い。おそらくそのバトルマスターも強力なジョブなのだろう。
「魔法使いLv21なら5階層を踏破するのも余裕か」
「6階層も問題ないでしょう。ただ……トーイが購入した奴隷は老婆と醜いゴブリンのはずなのですが、なぜか若くて美しい2人の女性になっているそうです」
意味が分からぬ。それは若くて容姿の良い奴隷を購入したということではないのか?
「ゴルテオ商店からの奴隷売買報告では、老婆とゴブリンでした。あの店はしっかりとした店ですから、誤記があるとは思えません」
ゴルテオ商店は王都に本店を置く大商会だ。犯罪に手を染める必要などないだろう。今回のシャルディナ盗賊団にも関係していなかった。
それに誤った奴隷売買記録を提出するとも思えぬ。ザイゲンの言う通り、おかしな現象が起きているようだ。
「……同名の別人では?」
「名前だけならそうかもしれませんが、老婆のほうはジョブとレベルも一致しております。ゴブリンのほうはホブゴブリンに進化した可能性もありますから、なんとも言えません。ただホブゴブリンでもゴブリンはゴブリンですので、美女というのはいささか納得いかぬところです」
同名の別人の奴隷というわけではなさそうだ。なんとも不思議なことだ。
不思議なところが多い者は癖はあるが、えてして優秀だ。そのトーイなるものが協力者でなくとも、興味が湧いた。しかも怪しい。私もザイゲン同様この者が協力者だと、なんとなくだが思えてしまう。
「捕縛した盗賊の証言では、トーイに仲間を殺されて敵討ちを考えて捜していたそうです。しかしトーイの姿を発見して尾行してもすぐに姿を見失ったそうです」
「旅人のスキルは健脚と、レベルが上がって疲労回復だったはず。盗賊たちの尾行に気づき、それを撒くことができるものなのか?」
「おそらくトーイは気配に敏感であり、隠密が得意な暗殺者ではないかと思われます」
「暗殺者のジョブがあることは私も知っているが、あれはこの100年以上出てないジョブだぞ」
剣士や槍士のようなオーソドックスなジョブなら転職できる条件は広く知られているが、暗殺者は誰もそれを知らない。暗殺者に転職できる者など、それこそ数百年に1人現れるかどうか。そのトーイが暗殺者だと言うのか?
もしかしたら世界のどこかで存在していたかもしれぬが、それとて1人居ればいいところだ。暗殺者とは、それほど珍しいジョブなのだ。
「だが、そのトーイは旅人だったのだろ?」
「政庁でレコードカードを確認しております。また探索者ギルドの登録時にも確認されておりますが、トーイのジョブは旅人です。ただし暗殺者にはジョブやスキルを偽装するスキルがあると聞いたことがあります。それを使ったのではないでしょうか?」
幻のジョブと言われる暗殺者のスキル構成は記録に残っていない。ザイゲンが言うように偽装系のスキルを持っていると言われているが、それは定かではない。
「バルカンはどう思うか?」
「その者に会ってみないとなんとも言えません」
バルカンなら会えばトーイなるものが協力者なのか判断できるかもしれぬな。スキルではなく、バルカンの野生の勘がそれを教えてくれるだろう。
「それとなく遭遇した風を装うことは……できんか」
「某にそういったことを要望されても困ります」
武に関してはこれほど頼もしい者は居ないが、それ以外のことは当てにできない。腹芸などもってのほかだ。
「ザイゲン。良い案はないか?」
「無理でしょう。ですから正々堂々と会うのがよろしいかと」
考えるまでもないか。無理なものは無理なのだ。
「では、バルカンがそのトーイなる者と会えるように、調整してくれ」
「協力者を捜し出した後は、いかがいたしますか?」
「褒美を与える。これだけのことを解決したのだ。褒美を与えぬわけにはいかぬ。これは私の沽券に関わることだ」
協力者が褒美を欲しがるなら、すでに名乗り出ているだろう。それをしないのは褒美が不要か、私と距離を置きたいか、それとも他に何か理由があるのか。
功績を立てた者に褒美を与えないのは、公爵家の沽券に関わる。
これだけの大きなことを行った者を把握してないことが、そもそも問題なのだ。公爵の名にかけて、その者をつきとめて褒美を与えなければならない。
どのような理由があるにしても、私は褒美を与えるのみ。協力者が要らぬと言っても、与えたという事実があればいいのだ。
それにこの城の警備は王城にも引けを取らないというのに、私の寝所にやすやすと入られた。協力者がその気になれば、国王の寝所に入ることも可能だということだ。この者を放置はできぬ。せめてどういった性質の者か、見極めなければならない。
もし協力者が邪な者であれば、排除せねばならぬ。できればそんなことはしたくない。まずは協力者の人となりをしっかりと確認するとしよう。
「バルカンがそのトーイを協力者だと判断したなら、私の前に連れてきてくれ。時間を置くなよ、監視していても逃げられるかもしれぬからな」
本当に暗殺者なら、簡単に逃げ出すだろう。逃げる必要はないが、身元を知られるのを嫌っているようだから念のためだ。
「承知しました」
バルカンであれば後れを取ることはないだろうが、ザイゲンにしっかりフォローさせるように指示する。
さてトーイなる者は、協力者か否か。善か悪か。
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