033_トレジャーボックスモンスター(二章・開始)
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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033_トレジャーボックスモンスター(二章・開始)
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転生16日目。朝からダンジョンに入る。摘発を逃れた盗賊が居るかもだから、警戒は怠らない。
一昨日のシャルディナ盗賊団の一斉摘発のことは、今一番ホットな話題らしく噂話が飛び交っている。
俺たちが住む屋敷は、ダンジョンからちょっと離れている。その途中に初めて池イカ焼きを買った露店がある広場を通る。あの露店は今日もやっていたから、立ち寄った。
「お、可愛い嬢ちゃんたちだ。おじさん、サービスしちゃうぞ!」
俺の顔は覚えてないようだ。1回会っただけでは覚えないだろうからいいけど。
相変わらず俺を女の子だと思い込んでいる。構わないから、サービスしてもらおう。
「池イカの姿焼きを15本もらうよ」
「お、たくさん買ってくれるんだね! 前の時みたいにゲソを15本サービスしちゃうよ!」
「覚えていたの?」
「そりゃー、こんな可愛い子を忘れるわけないよ」
なかなかの記憶力だ。商売人としては好感が持てるが、ゲソを15本もサービスしたら赤字だろ。
「また来てくれよー」
気前のいいおじさんに手を振って愛嬌を振りまいておく。アンネリーセとロザリナの笑顔付きだぞ。
俺とロザリナは体のほうを、アンネリーセはゲソのほうを食べながらダンジョンへ向かう。
「美味しいですね」
「美味しいなのです」
朝食を食べたばかりだけど、2人は美味しいと何度も言いながら食べきった。俺も美味しいと思うからお代わりしたいところだが、これからダンジョンに入るから止めておく。
ダンジョンの前でフルーツを買った。キウイみたいのとスモモみたいなフルーツだ。キウイのほうは昨日の朝食、スモモは今日の朝食に出た。共に美味しかった。
もうすぐ冬なのに季節感がないけど、フルーツは南のほうから輸入しているらしい。共に日持ちするフルーツらしく、輸送期間に熟成されて甘さが増すらしい。輸送費とかかかっているからちょっとお高め。でも美味しいから買った。美味しいは正義だ。
ダンジョンに入ってすぐに5階層へ移動。ダンジョンムーヴ便利。
この5階層を探索できるようになると、探索者は一人前だと言われているそうだ。俺もいよいよ一人前の探索者の仲間入りだね。
ダンジョン内を歩く時は探索者、戦闘の時は両手剣の英雄になる予定。宝探しが発動すれば嬉しいかな。その程度の期待を込めて探索者で歩く。
ロザリナが居てくれるから、ジョブを変えているうちにモンスターの接近を許すことはないだろう。アンネリーセも居るけど、彼女は後衛だからね。
5階層では迷宮牛が出て来る。赤茶色の毛皮に守られた迷宮牛は防御力も高いが、何よりも突進力が危険なモンスターだ。
さっそく迷宮牛が現れた。頭部に4本の角を持ち、俺の背丈くらいの体高で、俺の知っている黒毛和牛よりもかなり巾広だから通路が狭く感じる。
ジョブを両手剣の英雄に変えているうちに、ロザリナが飛び出す。迷宮牛の突進とロザリナの突進がぶつかった鈍い衝撃音が耳に入ってくる。
なんと巨体の迷宮牛が押し負けている。スゲーなロザリナ。
アッパー気味のパンチで上体が起きた迷宮牛に、さらに蹴りを入れる。
あ、迷宮牛が消滅した。
俺、1発も殴ってない。ロザリナが強いのはいいことだけど、俺の出番がない。
そそくさとジョブを探索者に変える。なんか無情だな。
「迷宮牛肉がドロップしました」
アンネリーセが朴葉のような葉に包まれた肉を拾い上げる。1キログラムくらいある肉の塊だ。あまりサシは入ってない赤肉だけど、これの串焼きは美味い。
「ドロップした迷宮牛肉は全部換金するんじゃなく、少し持って帰ろうか」
「それがいいと思います」
アンネリーセが良い笑顔。
「お肉大好きなのです」
ロザリナも満面な笑みだ。
通路を進むと、今度は2体出てきた。
ジョブを両手剣の英雄に変更。その間にロザリナは迷宮牛を殴り飛ばし、2体目に蹴りを入れた。
俺も負けてられない!
「はぁぁぁっ」
ミスリルの両手剣を大上段から振り下ろす。
スパッと迷宮牛を切り裂くと硬質な破壊音と共に消滅した。
ミスリルの両手剣はこの5階層でも強力な武器だ。
俺が迷宮牛を倒すと同時に、ロザリナがもう1体を倒した。強いな、バトルマスター。
俺たちはどんどん進んで、3体の迷宮牛でも余裕で倒した。
そんな俺のスキルに反応があった。宝箱だ!
「ちょっと待ってくれ」
2人を止めて、俺は壁を触ってみる。
「………」
普通の壁にしか思えない。
「アンネリーセ。この先に宝箱があるから、壁を壊してくれるか」
「お任せください!」
アンネリーセがマナハンドを発動させて、壁を殴った。ゴンゴンッと何度か殴ったら壁が崩れてその先に通路があった。
「魔物は居ないなのです」
通路の警戒をロザリナがする。
通路を入ると宝箱があった。さて、今回は何が入っているか。
「お待ちください。その宝箱、怪しい気配がします」
「罠か?」
「罠とは何か違うような、変な感じです」
アンネリーセの魔力感知が嫌なものを感じたから、俺たちは話し合ってマナハンドで蓋を開けることにした。
俺は盾を構え、ロザリナも身を低くして身構える。
「開けます」
マナハンドがヌーっと伸びていき、蓋を開ける。刹那、宝箱が飛びかかってきた。宝箱はモンスターだったのだ。
蓋が口のように開き、鋭い歯が見える。底は見えず、深淵を思い起こさせる漆黒だ。
反射的に詳細鑑定を発動。
「トレジャーボックスモンスターだっ」
そのモンスターの種族名を叫んでいた。
つーか、そのままのネーミングかよ!?
「やっ」
飛びかかってきたトレジャーボックスモンスターを、カウンターで蹴り飛ばしたロザリナ。
「こいつ、VITとHPが異常に高いぞ」
「私も戦います」
「頼む」
アンネリーセの魔法ならVITは関係ない。魔法に対する耐性はMINだからだ。
俺も両手剣の英雄にジョブを変え、戦闘に加わる。
「たぁっ」
噛みつこうとするトレジャーボックスモンスターの攻撃を躱し、ロザリナはパンチを3発入れる。
「うりゃっ」
横から切りつけるが、硬い。
「撃ちます!」
アンネリーセの魔法が発動。俺とロザリナは飛びのく。
炎の球がトレジャーボックスモンスターに命中し、その木(?)の体を焼く。
トレジャーボックスモンスターはかなり嫌がって後方に下がるが、俺とロザリナが追撃する。
ガンッガンッガンッガンッと殴るロザリナ。
ガツンッガツンッガツンッガツンッと切る俺。これ、切る音じゃないぞ。
何度か噛みつかれそうになるが、ロザリナがフォローしてくれる。彼女はまったく危なげなくトレジャーボックスモンスターの攻撃を躱す。
「撃ちます!」
後方に飛びのくと火の球が飛翔し、トレジャーボックスモンスターを焼いた。これがとどめとなってトレジャーボックスモンスターが消滅した。
俺だけ危ない場面があったが、アンネリーセとロザリナのおかげで怪我はない。
「あっ!?」
ドロップアイテムを拾おうとしたロザリナが叫んだ。
「どうした?」
「ご主人様。これなのです!」
ロザリナが持ってきたのは、本だった。
「それはっ!?」
アンネリーセも叫んだ。
「これってもしかして……?」
「はい。魔導書です」
「おぉぉぉ!」
「凄いなのです!」
休憩しながら、魔導書についてアンネリーセからレクチャーを受ける。
池イカの姿焼き、うまし!
「魔導書を使うと魔法使いに転職できます。ですがもう1つ転職できるジョブがあります」
「魔法使いだけじゃないのか?」
「はい。稀に呪術士に転職可能になります」
「呪術士?」
初めて聞くワードだ。
「呪術士は魔法使いと違って呪術を使います。呪術は触媒が必要になりますが、魔法と同等のことができます」
「触媒……か。その触媒は買うのか? それともダンジョンで得られるのか?」
「モンスターからドロップしたアイテムを素材にして作ります。触媒を作れるのは呪術士か錬金術師です」
触媒を作る手間がかかり、アイテムを購入または取得することで金銭的な負担もあるわけか。魔法使いのほうが優秀に思えてしまうな。
「魔法使いのほうがお金がかからないから人気ですが、呪術士は魔法使いと違って全ての属性の呪術を行使できます」
「触媒の属性かな?」
「はい。触媒の属性によって、呪術士は全ての属性を使うことができるのです」
汎用性では呪術士だが、魔法使いのほうがお手軽に使えるわけか。
「聞いた話では、呪術士が出る確率は30分の1くらいだそうです」
その30分の1に当たりそうな気がするのは、考えすぎかな。
考えたらアンネリーセという魔法使いが居るから、呪術士のほうが潰しが利くか。と思っているが、まだ使うかどうか判断してないんだよね。
「この先、魔法使いか呪術士が多く居たほうが良い階層はあるかな?」
「物理攻撃が効きにくいモンスターは少なくないです。そういうモンスターには魔法や呪術のほうが効果的です」
「……よし、保留しよう。今はアンネリーセの魔法だけで十分だから、様子を見ながら使うか売るか決めるよ」
魔導書はアイテムボックスに収納。
ご愛読ありがとうございます。
二章開始です。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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