029_愚行に愚行を重ねると
か……返り咲きなの。
(*´▽`*)
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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029_愚行に愚行を重ねると
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召喚された勇者の一部、シンジ・アカバのパーティーは王都近郊にあるダンジョンに入っている。
1階層と2階層は良かった。しかし3階層から野営が必要になり、その頃から上手くいかなくなった。荷物が多く、邪魔だと言うのだ。
ダンジョン初日は自分たちで物資を運んだが、帰ってきて文句が出た。
2回目は運搬人を雇ってダンジョンに入ったが、その運搬人を小間使いのように使ったことで運搬人が辞めてしまった。
3回目の時は別の運搬人を高額で雇ったが、なんとシンジたちに暴力をふるわれ腕を骨折して帰ってきた。もちろん運搬人は辞めた。
運搬人の間でシンジたちの横暴さが一気に広がり、それ以降シンジたちの荷物運びは誰もやらなくなった。どんなに高額の報酬を用意しても、金より命のほうが大事だと言って断られる。それほどシンジたちのパーティーは酷いということである。
荷物はシンジたちが自分で運搬することになった。因果応報ではないが、自分の荷物は自分で持つ。探索者なら当然のことだ。
こうなるとシンジ組の中でカーストが低い者が荷物持ちになるのは必然だろう。
「なんで俺が荷物持ちなんか……」
3人が14人分の荷物を持つが、その3人のうち2人は斥候系ジョブである。斥候系ジョブに荷物持ちをさせると、どうなるか。
「モンスターだっ」
「ちっ、こんな近くにっ」
「おい、斥候! 仕事しろやっ」
斥候に荷物持ちをさせているから、モンスターの接近に気づくのが遅くなる。そのくらいのことも分からない。いや、分かっていてもカースト下位の者が荷物を持つのが、シンジたちの当たり前なのだ。
前衛がタコ殴りにし、魔法使いが前衛などお構いなしに魔法を放つ。
「おい、危ねぇだろっ」
「俺たちを殺す気か」
「このくらい避けなさいよ」
「てめ、ぶっ殺すぞ」
戦術も連携も何もない。ただの力押しの戦いだ。しかもリーダー格のシンジが指揮を執ろうとしない。フレンドリーファイアありの最悪な戦闘。誰もが不満を漏らす戦い方だ。
「うりゃっ」
最後は満を持していたシンジの一撃でモンスターは消滅した。
「俺様にかかればこんなもんよっ」
これだけの人数で攻撃しているのだから、1体のモンスターくらい倒せなければ逆に問題だ。しかもシンジ組14人の中に、勇者ジョブが3人も居るのだから倒せないほうがおかしいのである。
シンジたちは力任せの戦いだが、順調にダンジョン内を進んだ。そして4階層のボス部屋に辿りついた。
4階層のボス部屋の前には2つのパーティーが順番待ちをしていたが、シンジたちは順番待ちする気などない。
「おい、順番待ちしてるんだぞ」
「うるせぇよっ、俺は勇者だぞ。文句あんのか」
勇者召喚があり、ダンジョンに入り始めたことは噂になっている。勇者だけではなく剣士や魔法使い、それに神官まで居るバランスのいいパーティーだ。しかも数が多い。
素行が悪い者たちが集められたパーティーだから誰も止めないどころか、逆に特権があるとばかりに横柄な態度をとる。
探索者たちもその噂は聞いていて、ギルドからも相手にするなと注意されていた。だから引き下がるが、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを感じていた。
4階層のボス戦に挑んだシンジ組だったが、ボスが思いのほか強かった。3体のモンスターが連携して戦う。
連携しないシンジ組よりも、よほど知的だ。
「おい、早くそいつを倒せ!」
「うるせぇな、てめぇこそ早く倒せよ!」
「こっちが先だろ、バカ野郎!」
3体のモンスターが勇者たちを翻弄する。ボスは普通のモンスターよりもはるかに強い。勇者と言えど、力押しだけだとかなり苦労する。探索者なら誰でも知っていることだが、ここまで力押しでなんとかなっていたので勇者たちは今回も大丈夫と思っていたのだ。
「うわっ」
前衛が吹き飛ばされ、フリーになったモンスターが後衛に迫る。
「ちょっ、きゃっ」
魔法使いの女子が体当たりを受けて吹き飛んだ。
モンスターはそれだけでなく他の者にも襲いかかり、後衛たちが逃げ惑う。
「おい、何やってるんだ。さっさと倒せ!」
シンジは的確な指示を出さず、早くしろと言うだけだ。
「あんたが倒しなさいよ、勇者でしょ!」
「なんだと!?」
「役立たず勇者! 早く倒してよ!」
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」
ついには仲間割れを起こす始末。
シンジたちがボスモンスターを倒したのは、ボス部屋に入ってから1時間以上経過した頃だった。
倒すのに四苦八苦したが、怪我人は居ても誰も死んではいない。
持ってきたポーションは使い切り、神官のMPが切れるまで回復したが、それでも軽傷はそのままで酷い姿だ。
「もー嫌っ。私、もう辞める。こんなことやってられないわよ」
「私も嫌よ。なんで後衛にモンスターの攻撃が来るわけ。信じられないよ」
女子たちが騒ぎ、それに対して男子が反論する。
女子対男子、前衛対後衛。元々纏まりなどなかったが、空中分解寸前だ。このままでは殴り合いの喧嘩になりそうな様相を呈している。
「てめぇら、うるせぇんだよっ」
シンジが怒鳴って口論が止まった。
だが、1人綺麗な恰好をしているシンジに、全員の矛先が向く。
「てめぇだけ随分と綺麗な恰好じゃねぇか。おい、サボってんじゃねぇぞ」
「そうだ、てめぇがちゃんとしていれば、俺たちがこんなに苦労することなかったんだよ」
13人が口々にシンジを口撃した。
わなわなと肩を揺らして怒るシンジは、とうとう切れた。
近くに居た勇者ジョブを持つ男子を殴り飛ばしたのだ。
「ぃってーなっ!」
「うっせんだ、この野郎! 誰になま言ってんだよ!」
「てめぇーだよ、この役立たず!」
「あぁんっ。誰が役立たずだ、誰が」
2人の殴り合いの喧嘩が始まると、それが全員へ伝播する。
殴り殴られ、髪をひっぱったり頭突きしたりしたが、武器や魔法を使わなかったのでわずかに理性は残っていたようだ。
城へ戻ったシンジ組の姿は酷いものだった。モンスターにやられた傷ではなく、喧嘩によるもので男子の顔は腫れ上がり、女子も目に痣があったり口を切った痕があった。
「なんともまぁ……」
「愚かじゃな……」
騎士団長と魔法師団長は呆れ果て言葉が出ない。
この日以来、シンジ組のダンジョン探索は進まなくなる。これだけ関係が拗れてしまっては、探索どころではないのだ。
一方、藤井のことを唯一覚えていたサヤカ・イツクシマは、必死に錬金術を学んでいた。その必死さに他のクラスメイトたちから浮いた存在になっているが、サヤカのジョブ・錬金術師のレベルは上がっていき、スキルの熟練度も上がっている。
「早く独り立ちできるようにしないと……」
藤井はこの世界に居る。
召喚された時に、何かの手違いで違う場所に飛ばされてしまった。サヤカはそう考えている。
藤井が転生してトーイと名乗っていることなど考えもしないが、別の場所に飛ばされたという考えは正しかった。
藤井を捜す旅に出るために、どうしても錬金術師として力をつけなければいけない。
錬金術師は戦闘ジョブではないため、1人旅は危険だ。護衛を雇う必要がある。そういった経費を賄うために錬金術を使い、収入を得るのが一番早道だと思ったのだ。
「サヤカ。帰るわよ」
「私はもう少しやっていくわ」
「あまり根をつめないようにね」
「うん」
生産ジョブのクラスメイトたちが工房を出ていき1人になる。ランプの光を頼りにスキルを発動させ液体を作成する。
「出来た……MPポーションが出来たわ」
ダンジョンから産出されるグリーンリーフを材料に、MPポーションが錬成できた。
ポーションにはHPポーション、解毒ポーション、MPポーションなどがあるが、MPポーションは熟練の錬金術師でないと錬成できない。
サヤカは短期間でそのMPポーションを錬成できるほど、必死に錬金術に取り組んでいる。それこそ寝食を忘れるほどの努力を積み重ねていた。
目の下にクマができるのもお構いなしに錬金術に打ち込むのは、全て藤井に会いたいがためである。
初恋の相手を捜す旅に出るためなのだ。
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