026_種族進化
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
■■■■■■■■■■
026_種族進化
■■■■■■■■■■
ちょっと気分の悪いこともあったけど、俺たちはボス部屋に入った。遺品はないから、前のパーティーは無事にボスを倒したようだ。
口が悪かっただけでちょっと痛い目を見てほしいと思ったが、死んでほしいと思っていたわけじゃない。
ボスは3体。ジャイアントスパイダーLv12が2体と、ブラックアントLv13が1体。
「ジャイアントスパイダーは俺が引き付ける。ロザリナはブラックアントを倒してくれ」
「はい」
戦い方を色々考えた結果、俺が2体を引きつけている間にロザリナがブラックアントを倒す。この戦い方がいいと結論を出した。
さらに思い出したんだけど、俺にはステータスポイント(STP)があった。
STPというのは、俺の好きにステータスを強化できるポイントだ。俺はSTPの全てをAGIに振った。
昔の人は言った。「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」
パンも菓子も材料は小麦の場合が多い。食えるわけないじゃんね。
脈絡はない。俺も思いつきで言っただけだ。
俺は思った「当たらなければいいじゃないか」、それに誰かが「当たらなければどうという事はない」と言っていたし。そんなわけで、AGIに全19ポイントを振った。
スピードを上げてモンスターの攻撃を躱しまくれば、防御力が低くても何も問題ない。
ジャイアントスパイダーは決して遅いモンスターではないからキツい戦いになると思うけど、「なせばなるなさねばならぬ何事もならぬは人のなさぬなりけり」だ。やってやれないことはない。その意気込みで2体のジャイアントスパイダーを相手にする。
「アンネリーセはいつものように、危なくなったら介入してくれ」
もちろん、保険はかける。心に余裕があると失敗しにくくなるからね。
「お任せください」
床から光が立ち上ってボスが現れる。ワーカーアントを真っ黒にしたブラックアントの甲殻が怪しい光を放つ。
「ロザリナ。行くぞ」
「はい」
これまでに感じたこともないスピードで、ジャイアントスパイダーに迫って切りつける。翻ってもう1体のジャイアントスパイダーに蹴りを入れる。
「行け、ロザリナッ」
「はぁぁぁっ」
ロザリナがブラックアントに切りかかり、ミスリルの両手剣がキーンッと硬質な音を残す。
さすがにブラックアントは硬い。一撃で倒せるほど簡単な相手ではないか。
俺のほうも2体を相手に余裕があるわけではない。集中力を切らさずにロザリナが必ず来てくれると信じて戦う。
スピードは俺のほうが上だが、攻撃しても1回や2回では倒れない。俺の攻撃力では倒し切るのに何十回も攻撃しないといけないはずだ。
2体が連携してくる。2階層のボスたちも連携が上手かったが、こいつらもなかなかのものだ。
時々姿が重なって俺の目から1体が消え、死角から現れてギリギリで避ける。反撃を入れられそうなら入れるが、回避に集中する。
右に避ければ、その足元に糸が飛んでくる。糸を躱せば、細く鋭い足で突かれる。それらの攻撃を紙一重で躱す作業は骨が折れる。
「ふー……キツいが……やり切ってみせるぞ」
糸が飛んでくる。───アイテムボックス。
突きが迫る。───左に躱す。
挟み撃ち。───後方にジャンプする。
動くたびに銀髪の先から汗が飛び散り、汗が垂れて左目に入る。一瞬視界がぼやけ、その隙を逃さずに攻撃が繰り出される。
目の前をジャイアントスパイダーの鋭い足が通り過ぎる。気を緩めると一気に流れが持っていかれそうだ。
「お前ら、仲がいいな」
俺のそんな軽口など通じない。無機質な目は俺を殺す対象としか受け止めてないのだろう。
躱し、避ける。左、右と素早く動き、ジャイアントスパイダーの攻撃を捌いていた時だった。高速の動きについてこられず、迷宮牛革のブーツがスリップした。
体勢を崩して左膝が床につく。この大きな隙を見逃さず、ジャイアントスパイダーが迫る。
「くっ」
───ズシャッ。
ジャイアントスパイダーの首(?)を貫く白銀の刃。
パリンッと硬質な破壊音と共にジャイアントスパイダーは消滅した。
「お待たせしました」
「おう、待っていたぞ」
ロザリナがブラックアントを倒して駆けつけてくれた。
これで残るはジャイアントスパイダー1体だけ。
額の汗を迷宮牛革のグローブで払い、大きく息を吸う。細胞の1つ1つに酸素が行き渡るような解放感を感じた。
「いいようにやってくれたが、お前はもうおしまいだ」
スピードを生かし、ジャイアントスパイダーに迫る。鋼鉄の片手剣が足に当たる。切り落とすことはできないが、それでいい。
「はぁぁぁっ」
意識を俺に集めたジャイアントスパイダーの首(?)にミスリルの両手剣が振り下ろされる。スパンッ。
戦いはあっけなく終わった。やっぱりミスリルの両手剣はいい武器だ。
「終わったー」
床に座り込んで脱力する。
「ご主人様。お水を」
「おう、悪いな」
アンネリーセから水筒を受け取り、一気に喉に流し込んだ。
「くぅーっ、生き返るっ」
ロザリナも水筒で喉を潤している。レベルは上がったか?
「あっ!?」(ロザリナ)
「おっ!?」(俺)
「えっ!?」(アンネリーセ)
ロザリナの体が眩い光に包まれた。
どうやら村人Lv10になったようだ。
ロザリナを包む光が徐々に広がっていき、最後には弾けた。
「「「………」」」
呆ける俺たち。
「え? 誰?」
ロザリナはロザリナでなくなっていた。
短く揃えられたふさふさの赤毛。額には小さな角が2本。白いが健康的な肌。165センチはある身長。出るところは出て引っ込むところは引っ込んだボディライン。そしてシワのない整った顔立ち。
まるでモデルのような容姿になっていた。本当に、お前誰だよ!?
「ロザリナさん……ですか?」
「……はい。ロザリナ……です?」
視界が高くなったことで、本人も戸惑っているようだ。
俺はステータスを開き、そこからロザリナのステータスをチェックする。
無事に種族進化できたようだ。しかし容姿がここまで変わるとは思っていなかった。
ゴブリンは村人をレベル10まで上げると、種族進化する。その際、多くは『ホブゴブリン』に進化するらしいが、ロザリナはなんと『ゴブリンファイター』に進化した。
そんな種族あるのかと疑問に思うが、あるのだから受け入れるしかない。
ゴブリンファイターは格闘特化の種族だ。同時にジョブがバトルマスターLv1になっている。
ロザリナがバトルマスターになると決めて、精進した結果だろう。強い意志が種族進化先をゴブリンファイターにしたのだ。
【ジョブ】バトルマスターLv1
【スキル】剛撃(微) 鉄拳(微) 蹴撃(微) 防御破壊(微)
【ユニークスキル】 闘気(微)
ゴブリンの時にはなかったユニークスキルまである。ホブゴブリンに種族進化しただけでは、ユニークスキルは出ないはずだ。それが出たということは、かなり稀な種族進化だと言えるだろう。
ゴブリンファイターのことをアンネリーセとロザリナに聞いたが、2人共知らないと答えが返ってきた。
詳細鑑定では世界で唯一とあった。2人が知らないのも無理はない。
・剛撃(微) : 攻撃時、ATK値+30ポイント。(パッシブスキル)
・鉄拳(微) : 拳による攻撃。3分間、ATK値+25ポイント。消費MP5。発動後5分使用不可。(アクティブスキル)
・蹴撃(微) : 足による攻撃。3分間、ATK値+30ポイント。消費MP7。発動後7分使用不可。(アクティブスキル)
・防御破壊(微) : 攻撃時、30パーセントの確率で敵のVITを5ポイントから10ポイント下げる。または装備の耐久値を10ポイント下げる。(パッシブスキル)
・闘気(微) : 10秒間のみATK、DEF、MATK、MDEFのどれか1つの能力値を任意で4倍にする。消費MP20。発動後1時間使用不可。(アクティブスキル)
ジョブ・バトルマスターはグローブや籠手、ブーツなどを身につけることはできるが、武器は身につけられない。その代わりにスキルが優秀すぎる。なんだよ、このスキルは。両手剣の英雄も裸足で逃げ出しそうだ。
パッシブスキルの剛撃でATK値+30、そこにアクティブスキルの鉄拳を上乗せしてATK値+25、さらにユニークスキルの闘気でATK値が4倍。誰がこの攻撃を止められるというのか!?
攻撃力に関しては明らかに化け物レベル。ただし鉄拳も蹴撃も闘気も使用不可時間があるから、使いどころが難しいところだ。
ロザリナの容姿がモデルのようになって驚いたが、ジョブも規格外すぎる。
ゴブリンが種族進化するのは詳細鑑定が教えてくれたけど、ここまで大化けするとは思ってもいなかった。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。
気に入ったら評価もしてください。
下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。
『★★★★★』なら嬉しいです(^◇^)




