025_嫌いだなー
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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025_嫌いだなー
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転生13日目。ゴブリンのロザリナを連れて、さっそくダンジョンに入った。
ダンジョン前には相変わらず盗賊が居たけど、フードを目深に被っているから顔は見られてないと思う。
まだ人数が増えたことは内緒にしておきたい。敵が把握している数より多いということは、武器になると思うんだ。
───ダンジョンムーヴ。
「え?」
壁に現れたドアを見たロザリナが驚いている。
ロザリナの奴隷契約は、俺のことを他言できないものになっている。それ以外はある程度自由だ。
4階層へ出た。ここからは俺も初めてだけど、ギルドで買った冊子で情報は得ている。
「まず、これを渡しておく」
ロザリナにミスリルの両手剣を渡した。
「私は素手で」
「村人のレベルが10になるまでは、この剣を使ってくれ。それ以降は素手で構わない」
実はロザリナの育成計画はすでに立てている。詳細鑑定が格闘家の取得条件を教えてくれた。
まずは村人をレベル10まで上げる。それからのことは、その時話そう。
ロザリナは不満そうだけど、武器を使うのは受け入れてもらう。ゴブリンはそこまで強くないから、素手だとATKがショボいんだ。
拗ねたような表情をするロザリナ。申しわけないが、あまり可愛くない。ゴブリンの容姿が年老いた子供という感じだからだろう。
顔はシワが多く鉤鼻で、髪の量が少なめ。容姿は決していいわけではないが、ロザリナは性格の素直な子だと思う。格闘バカだけど。
「アンネリーセはマジックハンドでモンスターを押さえつけられる?」
「4階層のモンスターであれば、問題ありません」
「それじゃあ、ロザリナが危なくなったら守ってあげて」
「承知しました」
4階層の俺はジョブを探索者にして、宝探しだ。ロザリナの戦いが危なそうなら考え直すけど、探索者なんだから宝探しは大事だろ。
ミスリルの両手剣をロザリナに貸しているから、俺は鋼鉄の片手剣と鋼鉄の盾を装備している。盾は初めて使うが、戦いながら慣れていこうと思う。
スレッドスパイダーLv8がさっそく出てきた。一緒に居るのはワーカーアントLv8。アリ型のモンスターで、体高1メートルくらいの焦げ茶色のボディをしている。
ワーカーアントの特徴は、体の大きさの割に力が強いことと蟻酸を吐いてくること。蟻酸は装備の耐久値を減らし、さらにはVITを一時的に低下させるから厭らしい攻撃だ。
「ロザリナ。いいか?」
「はい。問題ありません」
俺は頷き、駆け出した。ロザリナも俺の後ろを駆けてくる。
まずは鋼鉄の盾を構えてスレッドスパイダーに体当たりし、鋼鉄の盾で掬い上げるように体勢を崩す。初めてやってみたけど、意外と上手く体勢を崩せた。
スレッドスパイダーが後ろ足立ちになったところに、鋼鉄の片手剣で腹を切る。ミスリルの両手剣とは手応えが違う。かなり硬く感じた。
反撃を躱してするりとスレッドスパイダーの横を抜ける。
意識が俺に向かっているスレッドスパイダーに、ロザリナがミスリルの両手剣で攻撃。
俺は飛びかかってきたワーカーアントを鋼鉄の盾で受け止めるが、腕に受けた衝撃に顔を歪める。
受け流せれば良かったが、まともに受けたために衝撃のほとんどが腕に来た。やはり盾の使い方がなってない。付け焼き刃ではこんなものだな。
それでもHPの減りは軽微だ。盾の使い方が悪かったから、痛みを感じたんだろう。
鋼鉄の片手剣を振り、ワーカーアントを引きはがす。ちらっと見たら、スレッドスパイダーはロザリナが倒していた。
鋼鉄の片手剣は悪い武器ではない。他の探索者よりも良い武器を使っているんだが、ミスリルの両手剣には敵わない。
やっぱりミスリルの両手剣の攻撃力は素晴らしいと感じる。
ワーカーアントがギチギチッと嫌な音を発し、鋭い顎を開けた。これは蟻酸か!?
口から蟻酸が吐き出された───アイテムボックス!
蟻酸は俺の目の前で消えてなくなる。吐き出したワーカーアントが驚いている。
その隙を見逃さず、ロザリナが切りつける。
ワーカーアントはまだ生きている。硬い。
俺も鋼鉄の片手剣で切りつけるが、まだ倒れない。
「これでぇぇぇっ」
ズシャッとワーカーアントの胸にミスリルの両手剣が吸い込まれていき、ワーカーアントは消滅した。
「ロザリナは戦い慣れしてないか? 本当にダンジョンは初めてなのか?」
「いつも敵が居ると思って訓練していました」
それはシャドーボクシングのようなものか? この世界にもそういったイメージトレーニングがあるんだな。
「アンネリーセ。ロザリナの戦いぶりはどうだった?」
「初めて剣を持ったとは思えない戦いぶりでした。正直言いまして、ご主人様よりも様になっています」
「うっ……それはちょっと悲しいな……」
これでも両手剣の英雄になった男なんだぞ。ミスリルの両手剣のおかげだけど、そこまで俺の剣技は未熟か?
「あわわわ。私のせいでごめんなさいです」
俺が悲しいと言ったせいか、ロザリナが面白いくらいに慌てる。なんだか小動物みたいで可愛らしい動きだ。
「ロザリナのせいじゃないから、気にするな。これは俺の問題だからさ」
家も借りたことだし、もっと精進して毎月の家賃を払っていく所存だ。なぜ堅苦しい言葉遣いになった?
4階層を進んだが、お宝は発見できてない。簡単に発見できたらお宝のありがたみがないと思うんだが、発見できないよりはできたほうがいい。
さて、何度目かの戦いだ。
「てぇぇぇいっ」
ロザリナが蟻酸を避けながらミスリルの両手剣を振って、ワーカーアントが消滅。
スレッドスパイダーを相手に戦っている俺の援護に駆けつける。うん、立場が逆だ。
ミスリルの両手剣を貸しているし、ジョブも探索者だから攻撃力は高くない。それでも村人に負けるのは納得がいかないんだけど。
ロザリナの一撃がとどめになってスレッドスパイダーは消滅。ロザリナの動きがどんどん良くなっている。そんな気がするのは、気のせいだろうか?
「ドロップアイテムは綿糸と蟻甲です。共にノーマルドロップですね」
アンネリーセが拾い上げた蟻甲は、アリの甲殻で防具に使われるらしい。かなり硬いけど、さすがに鉄には敵わないから初心者の探索者が使うような防具に使われるものだ。
蟻酸がかかってもほとんど劣化しないらしいからアント系のモンスターが居る階層を探索する時に、この蟻甲の防具が役に立つ。その点は鉄に勝るものだ。
他の探索者に比べれば、かなり戦闘時間が少ない俺たちはどんどん進んだ。
ボス部屋に辿りつき、1つのパーティーが順番待ちしているからその後ろで待機。ここでステータスを確認する。
【ジョブ】探索者Lv9
【スキル】ダンジョンムーヴ(低) 宝探し(低)
【ユニークスキル】詳細鑑定(中) アイテムボックス(中)
俺のジョブ・探索者は先程レベル9に上がった。スキルの熟練度も共に上がっている。
ロザリナの村人はかなり前にレベル9に上がっている。そろそろレベル10に上がってもいい頃だと思う。村人は相変わらずスキルを持たないが、ロザリナの戦闘センスは素晴らしいものがある。最初に感じた戦闘狂ぽさは正しかったようだ。
「少し腹ごしらえをしておこう」
池イカの姿焼きは出さない。品切れなんだ。補充できてないんだよ。
代わりに水と干し肉を出す。短剣で干し肉を薄く切り、アンネリーセとロザリナに渡す。
「今日は池イカを忘れた。これで我慢してくれ」
それもこれも盗賊たちが悪い。あいつらのせいで露店の買い食いもできなくなっている。早く決着をつけないとな。
「いえ、これが普通ですから」
アンネリーセが微笑む。ああ、可愛い。
「池イカってなんですか?」
「ロザリナは池イカを知らないのか?」
俺もこの世界に来て初めて池イカを知ったけど、イカ自体は知っていたよ。
首を傾げて分からないと言うロザリナに、池イカは池で獲れて姿焼きが美味しいと教えてやる。
「とても美味しいから、今度食べさせてやるからな」
思い出すと涎が出て来る。
「いいのですか?」
「高いものじゃないし、構わないよ」
「楽しみです!」
ロザリナは犬歯を見せて笑う。
「けっ、ゴブリンなんか連れやがってよ」
あぁんっ? 今、なんか言ったか?
俺たちの前で順番待ちしている6人パーティーの1人が、床に唾を吐いた。
ゴブリンだから何? ロザリナがお前に何をした?
何もしないよ。しないけど、嫌いだなー容姿や種族で差別するこういう奴。大嫌いだ。
とりあえず、睨んでおこう。先に絡んできたのは向こうだから、睨むくらいいいよな。
「なんだてめぇ」
「おい、よせ」
絡んできた奴はオオカミの獣人。それをクマの獣人が止めた。
獣人ばかりの6人パーティー。リーダーはクマ獣人っぽい。
「ごめんなさいです……」
ロザリナがシュンと落ち込み俯いた。ゴブリンだからと、このように言われるのはおかしい。少なくともロザリナは言葉が通じるし、ここに居る誰にも迷惑をかけてない。なじられたり批難される謂れはない。
「ロザリナは何も悪くないんだから、顔を上げればいいんだぞ。器の小さい奴はどこにでもいるからな」
ロザリナの少な目な髪をわしゃわしゃと撫でてやる。
「なんだと、てめぇっ」
「小さい、小さい。喚くばかりで小さい」
「この野郎っ」
オオカミ獣人が立ち上がるが、クマ獣人がその肩を掴んだ。
「言いがかりをつけたのはお前だ。言い返されたくなかったら、お前が言動を改めろ」
このクマ獣人、すげーまともな人だった。こういう大人の人、嫌いじゃない。
「あんたも煽らないでほしい」
はい、注意されました。こういうところがダメだったんだろうな。クズを見ると、一言いわないと気がすまないんだ。だから学校で……いや、あの時のことを考えるのはよそう。
俺は返事せずに、クマ獣人の言葉を聞き流した。向こうも答えを待っているわけじゃないと思う。
何か言われなければ、俺も何も言わない。やられたらやり返す。それだけだ。
「ほら、開いたぞ」
ボス部屋の扉が開き、6人は中に入っていった。クマ獣人に背中を押されていたオオカミ獣人は最後までこっちを睨んでいたから、睨み返しておいた。
ご愛読ありがとうございます。
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