024_格闘バカ
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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024_格闘バカ
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12日目の早朝。ゴルテオさんの店が開くタイミングを見計らって、宿を出た。
宿周辺に盗賊の気配はない。この宿は探索者ギルドからやや離れているし、探索者が泊まるような宿ではないからノーマークなんだろう。事実、探索者らしい人物をこの宿で見たことはない。
この世界の朝は早い。日が昇る前に起き出す人が多い。俺はさすがにそこまで早く起きないけど。
露店はそれこそ日の出と共に開店しているらしいが、店舗が開くのも早い。
今日はゴルテオさんが居た。
「おはようございます。トーイ様」
「お久しぶりです。ゴルテオさん」
「はい。ご無沙汰しております」
そしてアンネリーセを見て眉間にシワを寄せるゴルテオさん。この子はどこで買った子なのかな? と言われているようだ。
浮気した旦那を責める奥さんのような目をしないでほしい。
「この子は……まさか……?」
まさかあの老婆がこんな可愛い女の子になっていると気づいたの?
「失礼ですが、この子はあの?」
あの? と聞かれてもなんと答えるのが正解?
「あの、です」
「摩訶不思議なことがあったものですね」
「そうなんですよ……」
あのと答えて正解だったようだ。しかし、あので話ができるとか、どうなんだろうか?
これまでに色々な人を詳細鑑定したが、スキル・鑑定を持っている人は1人も居なかった。このゴルテオさんも鑑定は持っていない。ただし、アイテム鑑定と人物鑑定を持っている人は居たが、人物鑑定を持っている人も少ない。
ゴルテオさんはアイテム鑑定を持っている。だからアンネリーセのことは商人の勘というべきものが働いたのだろう。
「今日はどのような商品をお求めでしょうか?」
「奴隷を見せてください」
ちょっと驚いた顔をしたけど、ゴルテオさんはにこやかに案内してくれた。
「どのような奴隷をご希望でしょうか?」
「戦闘……モンスターと戦って盗賊を退治することを了承してくれて、今までにダンジョンに入ったことがない人。あとは買い手がない奴隷ですかね」
「戦闘奴隷と買い手のない奴隷ですね。ご希望の種族や性別、年齢、それと予算などをお聞きしても?」
予算はあるけど、種族とかを聞かれるとは思わなかった。
「予算は40万でお願いします。あとは反抗的でなければ特にありません」
40万はゴルテオさんにもらった金額に届かないけど、装備を買うからそれで50万にするつもり。宿代も出してもらっているけど、そこは甘えることにしよう。
「承知しました。ご覧いただく奴隷を用意します。こちらの部屋で少々お待ちください」
小部屋に通されてソファーに座って待つ。アンネリーセは立って待とうとしたから、俺の横に座らせた。本当は膝の上でもいいんだけど、さすがに場所が場所だけに自重した。
ゴルテオさんといつかの副店長が、部屋に入ってきた。副店長が一緒なのは奴隷担当だからだろう。
「それではこれより奴隷を部屋に入れていきます。全て戦闘を了承している奴隷です」
「お願いします」
副店長がドアを開けて、奴隷を入れる。1人だと思っていたら、5人入ってきた。
「左から───」
副店長が1人ずつ紹介してくれる。
左から犬人獣(男)、ヒューマン(男)、エルフ(男)、ドワーフ(男)、ドラゴニュート(男)。
全員男。やっぱり戦闘を了承する奴隷は男ばかりのようだ。
全員若くてジョブは村人だ。この中ではドラゴニュートが気になる。トカゲのような顔をしていて、体も大きくてかなり厳つい。相手を容姿で威嚇して戦わずして勝つ。そんな感じの容姿だ。
実際のところ、ドラゴニュートのステータスは村人なのに、かなり高い。STRとVITだけでなく、INTもそこそこある。脳筋ぽい容姿だけどステータスはいい。
「次の奴隷を入れましょうか?」
俺が考えていると、副店長がそう提案した。どうやら5人だけではないようだ。最初に言ってほしかった。5人の中から選ばなければいけないと思ったじゃないか。
「次をお願いします」
「はい」
5人を部屋から出して、新しい5人が入ってきた。今度は男性3人、女性2人だ。
うーん、あまりぱっとする人は居ないな。さっきのドラゴニュートが強烈だったから、どうしても見劣りしてしまう。
「次で最後になります」
入れ替えを頼んだら、次が最後と言われた。
ゴルテオさんの店には常時40人くらいの奴隷が居るらしいけど、先ほどの条件に当てはまる奴隷が15人も居ることに驚きだ。
「ん?」
入ってきた5人の最後の奴隷を見て、俺は違和感を覚えた。
「この奴隷は種族がゴブリンなのです」
えっ!? ゴブリンってあのゴブリン? ファンタジー物ではモンスター枠の場合が多いゴブリンだよね? この世界では人間枠?
「鬼族はお嫌でしたか?」
「あ、いえ、ゴブリンを見たのが初めてなんで」
俺が気にしてないと言うと、副店長が奴隷たちを紹介していく。
そしてゴブリンの番になり、紹介を聞くと売れ残っている枠で連れてきたと言った。
青白い肌に、ちょろんと額に小さな角が1つ。小さな犬歯も見える。年齢は15歳だけど外見はどう見ても老人だ。顔に深いシワがあって背は低い。140センチあるかどうかか。わずかに胸の膨らみがあり、癖のある茶髪が肩まであるから女の子に見えるけど短髪だったら男の子に見えなくもない。
「この奴隷は世界一の格闘家になりたいと言っています。日々訓練をしていたようですが、ゴブリンですから強さは期待できません」
女の子だよね? 自分の目的のためにわき目もふらない人はどこにでも居るけどさ、なんで世界一の格闘家になりたいの?
「15歳になっても働かず嫁にも行かなかったため、親が私どものところに連れてきたのです」
おいおい、いくらなんでもそれはないだろ。いくら働かずに好きなことをやっていたと言っても、奴隷にするか?
そういえば、子供の奴隷の多くは親に売られてここに居るんだったな。以前アンネリーセが言っていたが、奴隷になれば食えて餓死せずに済むからだ。
そう考えれば、このゴブリンが飢えないようにしたとなるわけだが、売れ残っていたら意味がない。
売れ残りの奴隷は鉱山送りだ。それでは飢えるどころか、もっと過酷で死と隣り合わせの生活を送ることになる。
「ゴブリンですから容姿はこの通りです。なかなか買い手がつかず、そろそろ……」
いや、そんな目で俺を見るなよ。分かっているよ、鉱山に連れていくって言うんでしょ。
全員を一度下がらせてもらい、話を進める。
「最初のドラゴニュートはいくらですか?」
「45万グリルになります」
予算は40万グリルと言ったが、俺が持つお金の額はある程度知られているからちょっと高めも入れてきたか。
「うーん、少し高めですね。同じグループに居たエルフの人はいくらですか?」
「あのエルフの奴隷は35万グリルです」
「それじゃあ……2回目のグループの赤毛の女性は?」
「あの奴隷は20万グリルになります」
「一応、聞いておくんですけど、最後のゴブリンの子は?」
「あの奴隷は10万グリルですが、今なら8万グリルでお譲りいたします」
ゴブリンの子は10万グリルから2割引きされて8万グリルか。夕方のスーパーの生鮮食品かっつーの。売れ残りを考えたら、少し値引きしても売れたほうがいいのかもだけど、ゴブリンも人間だよ(正確には小鬼族)。はぁ……俺もその人間を買おうとしているんだけどさ。
一応、アンネリーセに気になった奴隷が居たか確認。
「ご主人様の良いようにしてください」
そう言うと思っていたけど、本当に言ったね。期待はしてなかった。でも、ちょっとは……。まあいい。
「それじゃあ、ゴブリンの子をお願いします」
俺がそう言うと思っていたようで、ゴルテオさんと副店長はすんなり受け入れた。
「ありがとうございます」
副店長さんに奴隷契約をしてもらって、ゴブリン子───ロザリナを奴隷にした。
「ロザリナといいます。世界一の格闘家になりたいです。よろしくお願いします」
世界一の格闘家を強調している。どうしてもなりたいようだ。いいさ、なれるんなら、なってくれ。そのほうが俺も助かる。
ロザリナは性格が楽観的なのか、そこまで悲観していない。奴隷の中には目が死んでいる人もいるから、そこもプラスだな。
ロザリナの奴隷期間は10年。任意奴隷の金額と解放までの期間は、その借金の額と価値で決まる。ロザリナの場合はゴブリンということで、力が弱く容姿も悪い。そういう理由でかなり低く見積もられている。
本当はドラゴニュートのような強い種族を買ったほうがいいのだろう。でもなんだか放っておけないんだ。今のロザリナでは盗賊に簡単に殺されてしまうだろう。だけどなんとかなる。そう考えて買った。
「ゴルテオさん。貸家とか扱ってないですか?」
「ほう、貸家ですか。もちろん扱っております」
なんでも扱っているから聞いてみたけど、本当に扱っていたね。胸を張ってあると言われた。
「どのような貸家がご希望でしょうか?」
「そこまで広くなくてもいいですが、改修してもいい物件があればと思っています」
貸家を借りるのはもっと先だと思っていたけど、ロザリナが思いのほか安かったからちょっと聞いてみた。このままではゴルテオさんに顔向けできないからね。
「アンネリーセはロザリナの服とか雑貨など必要なもの、それと装備を選んでおいてくれるかな。遠慮せずに買っていいから」
「承知しました。ロザリナさん、行きましょう」
買い物はアンネリーセに任せればいい。女性同士だし、俺よりもロザリナのことが分かるだろう。
「貸家の予算はいかほどでしょうか?」
「家賃は考えてなかったです……。そうだ、風呂があれば嬉しいです。あとはゴルテオさんにお任せします」
「風呂ですね……承知しました」
ロザリナが安かった穴埋めだから、多少高くても頑張って働いて家賃を払いますよ。
それに盗賊のこともあるから、宿屋に迷惑をかけたくないんだよ。
「それでしたらこの物件などいかがでしょうか? 築年数は100年程ですが、5年前にリフォームされています。元々男爵家が所有していた屋敷ですからキッチンに水を出すマジックアイテムと魔導コンロ、そしてトイレも水洗、風呂も設置されております」
え、貴族の元屋敷? いやいやいや、いくらなんでも屋敷レベルは要らないんですけど……。
「風呂つきとなると貴族関連の屋敷か、豪商の屋敷くらいしかありません。唯一の条件が風呂ということでしたので、この物件をお勧めさせていただきました」
風呂は屋敷レベルじゃないとないのか……。
「それおいくら万円ですか?」
「まんえん?」
「ははは。気にしないでください。いくらで借りられます?」
「月々3万グリルです。買取であれば300万グリルになります」
30万円で借りられるんだ。貴族の屋敷というからちょっとビビっていたけど、意外と良心的? でも買取で3000万円だから、100回分だよね。約8年分か。
「分割払いで購入はできませんよね」
「残念ですが、買取は一括払いでお願いしております」
残念無念。どっち道、買う気はなかったけどさ。
ゴルテオさんに見せてもらった見取図を眺める。貴族の屋敷だけあって、3階建てで地下まである。これ、家賃だけじゃなくて、維持費も大変じゃない?
「大きいですね……」
「使用人を5人雇えば、問題ないかと。使用人用の別棟もありますので、はい」
奴隷買ったばかりなのに、使用人まで……。
「5人ですか?」
「家の中を管理する執事とメイド、あとは庭などの手入れをする者たちですね」
「なんだか大げさですね……」
「そこまで大げさではありませんよ」
にこやかに勧めてくるなぁ。分かりましたよ、これにします。
「この物件を借りたいと思います」
「内見されますか?」
「いえ、必要ないです。ゴルテオさんを信じていますから」
そんなことを言っていると騙されるのかもだけど、その時はその時だ。
「手を入れていいのですよね?」
「ええ、大きなリフォームでなければ、問題ないです」
迷ってしまうととことん迷うから、最初から1軒目で決めようと思っていた。これでいい。
「使用人について手配をお願いできますか?」
「お任せください」
これでゴルテオさんに借りはなくなった。元々ないかもだけど、俺がそう思っていたからね。
貸家を借りたけど、すぐに入居できない。ゴルテオさんのところで屋敷の最終確認してから引き渡してもらえる。それに使用人の手配もある。
3人になったから、宿屋の部屋は変えてもらった。いくらなんでも3人では部屋が狭いからね。
それと貸家を借りたから2、3日でそちらに移り住むと言っておいた。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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