017_一網打尽
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017_一網打尽
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2階層を駆け抜けた俺たちは、ボス部屋に辿りついた。
途中にいくつか罠があったけど、アンネリーセが魔法で全部解除した。半透明の手がにゅーっと出てきて罠を発動させて解除するとは思ってもいなかったけどさ。でも便利なものだ。
それから両手剣の英雄のレベルが4に上がった。いい感じでレベルアップしている。このまま順調に進んだらいいな。
2階層のボスはグレーターラットLv6とウッドゴーレムLv7の2体だ。
ウッドゴーレムはアッシュゴーレムよりも人型に近い形をしてる。もちろん、アッシュゴーレムよりも強い。
「行ってくる」
「はい。ご武運を」
こういうやりとりっていいよね。新婚さんみたいだ。
ミスリルの両手剣を構えて、グレーターラットに向かって駆ける。
グレーターラットが後方に下がり、ウッドゴーレムに隠れる。
まさかモンスターがそんなことをするとは思わなかった。
ウッドゴーレムが太い枝を鞭のようにしならせ、俺を攻撃してきた。
それをミスリルの両手剣で受け止めると、受けたところからぐにゃりと曲がって背中に当たった。
「くっ、やってくれる」
HPが15も減った。さすがはボス。だけど今の俺のHPなら10回耐えられる!
ウッドゴーレムの陰からグレーターラットが飛び出してきた。
「舐めるなっ」
飛びかかってきたグレーターラットを右に避けると、ウッドゴーレムの枝が伸びてくる。
右に避けたら右から襲ってくるとは、なかなか連携が上手い奴らだ。
大きく後方に跳んでその枝を躱すとまたグレーターラットが攻撃してくる。
「鬱陶しいんだよ」
力任せに片手でミスリルの両手剣を振る。当たらなくていい、牽制して時間ができればいいんだ。
「ふーっ……」
1体1体の速さは大したことないが、連携が厄介だ。
「ご主人様。がんばってくださーい」
「おう。次で決めるよ」
アンネリーセの応援があると、不思議と力が出る気がする。ミニスカならもっと力が出る気がする。
力が出たついでに思ったが、連携を上回る速さを出せばいいんじゃないかと。両手剣の英雄なら、それができるはずだ。頼むぞ、両手剣の英雄!
「覚悟しろよ。ドブネズミと木偶の坊」
床を蹴り走り、グレーターラットがウッドゴーレムの陰に隠れようとするが、俺はその裏へと駆ける。
焦ったグレーターラット(焦っているかは分からない)の動きが止まった。今だ。
「とりゃっ」
グレーターラットを切っても俺は止まらない。壁際まで駆け抜けると止まらずに足に力を込め、直角に方向転換。迷宮牛革のブーツが悲鳴をあげているように鳴いた。
そのまま壁際を走りながら、モンスターの様子をチラッと見る。グレーターラットは居ない。さきほどの感触からは倒した実感はあった。これでも数十体のモンスターと戦ってきたのだから、そのくらいの感触は覚えた。
「残りはお前だけだぞっ」
足を止めず、左右に体を揺らしてウッドゴーレムに近づく。
「はぁぁぁぁっ」
枝が迫る。それは俺の眉間を穿つ一撃だ。だが、しっかり見れば躱せる。首を傾け顔をスウェーし、その枝を回避する。少し当たったようで頬がひりつく。
「こんにゃろぉぉぉっ」
顔の横の枝を無視して、俺はミスリルの両手剣を振り切った。
バリンッとウッドゴーレムが消滅する。
「きゃーっ、ご主人様ー」
アンネリーセの黄色い歓声。なんと言うか、こっぱずかしい。
格好をつけて手を振るべきか? いや、止めておこう。俺にそういうのは似合わない。
しかし、ボスがこんな連携をしたら、普通の探索者たちはかなりヤバいんじゃないか。
両手剣の英雄はかなり優秀なジョブだが、その俺でもあの連携には戸惑った。初見であんな連携されたら、かなりの被害が出てもおかしくない。
幸い、ボス部屋の中に遺品はない。良かったと言うべきだろう。
「ドロップアイテムはグレーターラットの尻尾とヒールリーフです。どちらもノーマルドロップ品です」
「そうそうレアドロップしないさ」
「残念です」
そうでもないと思うけどね。ヒールリーフはウッドゴーレムのノーマルドロップアイテムだけど、アッシュゴーレムのレアドロップアイテムでもある。
ボスであるウッドゴーレムを倒せば、それなりに高額なヒールリーフがドロップするのだから悪くない。
お金は稼ぎたいが、贅沢を言うと切りがないからレアドロップが出たらよいな程度でいい。
「もう一回ボスに挑んでもいいか?」
あいつらの連携を破るのは、何もスピードだけじゃない。そう思うんだ。
「もちろんです。ご主人様の気が済むまでボスを倒してください」
3階層に出て探索者にジョブチェンジしてダンジョンムーヴで2階層のボス部屋の前に移動。
おっと、ボス部屋の前に探索者たちだ。剣が3人、槍が2人の全員村人の5人パーティーが、扉が開いたボス部屋に入っていこうとしているところだった。
俺とアンネリーセがダンジョンムーヴで壁から出てきたところは見られてなかった。まあ見られても構わないが、ジョブ・探索者のダンジョンムーヴはあまり知られてないようだから騒ぎになると面倒だ。モンスターと間違われるのも嫌だし、見られてなかったのは良かった。
「池イカの姿焼き、食うか?」
「はい」
アイテムボックスから池イカの姿焼きを出して、1本を2人で分ける。ケチっているわけではないんだ。これからボス戦が控えているから、少なめにしているだけ。それにアンネリーセは若返って食欲が普通の女の子に戻った。ただそれだけなんだ。
30分くらい待っただろうか。ボス部屋の扉が開いた。待っている間にいちゃいちゃしたかったけど、ダンジョン内ということを考えて控えた。
それに俺たちの後ろに、男だけの6人パーティーが順番待ちをしている。さすがにその前でいちゃいちゃはできない。俺があっちの立場なら、アンネリーセのような可愛い子といちゃいちゃするのを見せられたら呪いたくなるからね。
ボス部屋の中に入ると、片隅に持ち主を失った剣が落ちていた。遺品だ。あの5人はボスに倒されてしまったのだろう。悲しい現実だが、俺にはどうしようもできない。これも探索者の常なのかもしれない。だけど、心が沈んでいくのが分かる。
いかん。いかんぞ。こんな場所で落ち込んでいたら、ボスどものいい餌食ではないか。
「ふー……」
よし。気分一新終了。あの無力感を怒りに変えて戦う力にするんだ。
「ご主人様。ボスが現れました。何やら表情が暗いですが、大丈夫ですか?」
アンネリーセを心配させてしまった。主人失格だな。
「なんでもない。大丈夫だ」
ミスリルの両手剣を構え、ジリジリとウッドゴーレムとの間合いを詰める。
グレーターラットは相変わらずウッドゴーレムの後方に身を隠す。
ウッドゴーレムまで7メートル。6メートル。5メートル。奴らはまだ動かない。
さらに進む。距離は4メートル。まだ動かない。
「ふっ、やっぱりここまで近づいても動かないか」
前回の戦いを振り返ると、ウッドゴーレムの攻撃範囲は3メートル。4メートルでは枝は届かない。そして枝の攻撃はかなり速いが、ウッドゴーレム自体の動きはかなり遅い。1メートルの距離を移動するより、俺を待つ戦い方だ。
俺の考えは正解だったようだ。
「それがお前の命取りだ」
ミスリルの両手剣を大上段に構え、スキルの発動を意識する。
「行けっ、バスタースラッシュ!」
ミスリルの両手剣を振り下ろし、半透明な刃を飛ばす。
───ズシャッ。
ウッドゴーレムを切り裂き、その後方に隠れていたグレーターラットも切り裂いた。
このバスタースラッシュの射程は、剣先から5メートル。俺自身からではなく、剣先からだ。剣と腕の長さを合わせれば、2メートル近くになる。おかげでウッドゴーレムの後方に隠れていたグレーターラット諸共一撃で倒せた。
「こつさえ掴めばなんてことはなかったが、これも両手剣の英雄のおかげだな」
「きゃーっ、ご主人様ーっ、すごいですっ」
背中に抱きついてきたアンネリーセは、とても弾んだ声をしている。とても柔らかな感触を背中に感じ、俺はミスリルの両手剣を持った右腕を高らかに上げた。
「アンネリーセ。俺は勝ったぞ」
「はい。圧勝です」
両手剣の英雄と、俺の観察力の勝利だ。圧勝だ!
この日の収穫は次のようになった。
・ネズミの肉 24個 × 50グリル = 1200グリル
・鋭い前歯 3個 × 1000グリル = 3000グリル
・アッシュの枝 22個 × 100グリル = 2200グリル
・ヒールリーフ 4個 × 1200グリル = 4800グリル
・グレーターラットの尻尾 2個 × 1500グリル = 3000グリル
※総合計1万4200グリル(14万2000円相当)
※ヒールリーフはアッシュゴーレムのレアドロップであり、ウッドゴーレム(BOSS)のノーマルドロップ。
今回もボス部屋にあった遺品は持ち帰っていない。
俺たちの後ろに並んでいたパーティーが持ち帰るだろう。あの6人、俺たちが死んだと思っているんだろうな。
あと、1階層のボスであるグレーターラットのノーマルドロップ品よりも、2階層のボスであるウッドゴーレムのノーマルドロップ品の価値が逆転しているけど、これは間違いじゃない。
これはグレーターラットの尻尾のほうが需要があるからだ。HPポーションは兵士や探索者がよく使うけど、一般人はあまり使わない。でも食当たりの薬は誰彼構わず使われる。食当たりを予防や規制する法律がないのだと思う。
過去最高益の結果に、俺は自然と顔が緩む。
「アンネリーセ。今日はお洒落な食堂で夕食を食べて帰ろうか」
「とても魅力的なお言葉ですが、お洒落な食堂にこの恰好では入れません」
戦闘用の装備では、お洒落な店には入れないらしい。せいぜいちょっと良い店に入れるくらいなんだとか。
「それじゃあ、明日は休暇だ。買い物でもしよう」
「せっかくレベル5になりましたのに、良いのですか?」
「いいよ。明日1日休んだからと言って、レベルが下がるわけじゃないからね」
「分かりました。休暇をありがとうございます」
お礼を言われるようなことじゃないさ。
それに連続でダンジョンに入ったから、休みをとっていいと思う。
これからは3勤1休でダンジョン探索をしよう。
休みのないブラックな環境なんかにしない。もし3勤1休でも過剰労働だと感じたら、3勤2休にすればいいんだ。俺はホワイトなダンジョン探索者を目指すぞ。
ご愛読ありがとうございます。
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