116_忙しいねぇ~
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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116_忙しいねぇ~
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トリアンジュの屋敷に転移門を設置し、そこには誰も入らないようにと厳命する。王都から連れてきた兵士を常に配置し、誰も近づけない。
まだ魔法契約書にサインもらってない人が多いからね。使用人も騎士も文官も。
俺が王都の屋敷に移動すると、厳島さんが廊下を歩いてきた。
「やあ厳島さん」
「あ、あの……」
「ん?」
「ごめんなさい!」
いきなり腰を90度折って頭を下げられると、何事かとこちらが動揺するんだけど?
「何を謝っているの?」
「その私……トーイ君のことが好きなんです!」
「えぇぇ……」
これはなんとも困ったぞ。俺はどう答えればいいのだ? 俺にはアンネリーセがいるからと拒絶したほうがいいのか? それとも思わせぶりなほうがいいのか? わ、分からん。
「だからアンネリーセさんと婚約したと聞いた時、とても悲しくて……」
「お、おう……」
ごめんよ。でもなんで俺なの? 俺のどこがいいわけ? そこは少し聞きたいかも。
「私の一方的な感情で、トーイ君を避けていてごめんなさい!」
「あ、いや、俺のほうこそ気づかずにごめん」
「私、吹っ切れました。ご迷惑をおかけしましたが、これからも今まで通り友達として向き合ってほしいです」
「おう……友達だ。俺と厳島さんは今も昔も友達だよ」
ニコッと微笑み、厳島さんはすっきりしたと言った。
知らなかったとはいえ、彼女の前でアンネリーセとイチャイチャ、ベタベタしたことを反省する。
書類の山。
大きなため息が出る。
領地を引き継ぐのだから、最低でも過去5年の税収の精査を行なわなければいけない。と俺は感じた。そしたら、この山だ。
他にも人口の増減や、どこにどんな商会がありどういった商売をしているとか、その商会からの税はどれだけか。なんやかんや確認しないといけない。
その上で現在進行形の書類が回ってくる。
「ローラ。無理はするんじゃないぞ」
「ご当主様。ご心配いただき、感謝の念にたえませんが、わたくしの病はすでに完治しております」
「また病に罹らないわけじゃない。ゆっくり慣らして、しっかり休養をとるんだ」
「はい。しっかり休養を取ります。いつもお気遣いいただき、ありがとうございます」
執務室で俺、アンネリーセ、ローラ、厳島さん、ヤマト、王都から連れてきた文官たち、トリアンジュの文官たち、そしてバナージさんで書類の精査をしている。
厳島さんとヤマトは王都から連れてきた。もうね、書類が山のようにあるから、ちょっとでも学がある人がほしいわけよ。
「これで全部にございます」
あっちこっちに書類が山積になっている。王都でも山のような書類を読み込んできた。ここでもか……。もうお腹一杯ですよ。
これら全てを精査して、この領地のことを頭に入れなければいけないと思うと、気が遠くなる。領主になるんじゃなかったと、いまさらながらに後悔している。
「バナージ殿。この資料を読む限り、5年間人口が増えてないようですが?」
「人口は10年間隔で調査をしております。前回の調査は……たしか8年前だったと思います」
そうなの? 10年も経過したら人口って結構変わらないのかな?
考えてみたら、この世界って戸籍なんてないよな? この国だけか? 人頭税はどうやって徴収しているんだ?
「戸籍の管理はどうされてますか?」
「コセキとはどういったものでしょうか?」
やっぱりないか。バナージ殿の不思議そうな表情を見ると、本当にないんだと天を仰ぐ。
「住民の情報ですよ。どこに誰が住んでいて、亡くなった人が何人で生まれた子が何人、あと領地へどれだけ移り住んできたとか、出ていったかとか、そういう情報です」
「そういったものは管理してません」
困ったような顔のバナージさん。俺のほうが困ってしまうんですが……。
「そうなると人頭税はどうやって徴収しているのですか?」
「人頭税は各名主や村長が集めます。彼らのほうがその場に住む者たちをよく把握しておりますので」
「名主は住人の数を全部把握しているのですか?」
「ほぼ全て把握しております」
ほぼか~。この世界ではそんなものかもしれないな。でもさ、それって名主の好きに調整できるよね? 誰かチェックしてるの? してないよね~。
「人頭税は名主が人数分を集めると?」
「はい」
「……10年に1度の人口集計は誰がするのですか?」
「それも名主です」
うん。やっぱり胡散臭いぞ。
とても嫌な風向きだと思うのは、俺だけだろうか?
こっちの世界の人は俺が何を言っているのかあまり理解してないようだが、ヤマトと厳島さんといった異世界人の顔を見ると苦虫を嚙み潰したような表情をしてる。俺と同じ認識なんだと、仲間意識が芽生えるよ。
2人がいてくれて良かったよ。2人がいなかったら、寂しくて死んじゃいそうだ。孤独死だよ。
さて、冗談はともかく、最後の質問だ。
「名主というのは公職になるのですか?」
「はい。今までは代官が、これからは領主である閣下が任命した者が名主となります。ただ、基本的には世襲制です」
世襲制か。嫌な考えが的中しなければいいけど……。
トリアンジュにやってきて、10日が経過した。
「バナージ殿。どうするか決めましたか?」
「はい。閣下さえよろしければ、閣下の下で働かせていただければと考えております」
これまでトリアンジュで公職についていた人には、10日で俺のところに移籍するかを決めてほしいと頼んでいた。
代官のバナージさんにもどうするか考えてもらっていて、今日が回答の最終日だった。
「助かります。これからは家宰として働いてもらいます。仕事は今までとあまり変わりませんが、軍事に関してはガンダルバンに任せてください」
バナージさんは決して無能ではない。戸籍調査など、全てこの国の常識に従って行なっている。一般常識のことはしっかりとやっているのに、異世界人の常識と違うから能力がないと判断するのは、暴論だろう。
むしろこの世界の仕事として標準以上のことをしているのだから、優秀なのだと言える。それに俺の要望を理解して、実行しようという姿勢が見える。そういった人材を確保するのは、当然のことだ。
「承知いたしました。ただ、1つだけよろしいでしょうか」
え、もう何か要望があるの?
「某はフットシックル子爵閣下の家臣にしていただきましたので、今後は呼び捨てにしていただきたく存じます」
「あ、うん。分かった。これからは呼び捨てにさせてもらうよ」
政治に関しては彼に任せておけば問題ないだろう。
なによりも容姿が和む。
俺よりも低い背、大きなお腹、それでいて嫌味のない顔。人から警戒されにくい容姿だよね。
髪の色は濃い青色で深い海を思い起こさせるから、港町トリアンジュにぴったりだ。
バナージの次は騎士たちに会う。
本当は違う予定があったけど、割り込んできたんだ。
「我々は王家のため、トリアンジュの民のために粉骨砕身働きました。残念ながらこの地を離れる判断をしましたが、過去の功をお認め頂いているものと考えております。そこで紹介状を書いていただきたく、お願いにあがりました」
リンガー元団長が代表して懇願している? 随分デカい態度だけど?
俺が入るまでのトリアンジュの騎士の人数は33人、兵士は285人だった。そのうち17人の騎士が辞め、兵士も105人が辞めるそうだ。
辞める兵士の3割くらいは騎士たちの従者や関係者で、それ以外は無理やり引き抜いていった感じだ。
簡単にいえば、俺への嫌がらせ。まあ、それが嫌がらせになってないんだけどね。その分、元奴隷の騎士や兵士を入れちゃうからさ。
俺の目の前では、辞める17人の騎士が殺気立った目をしている。元平民の俺が威張り散らしているように見えるんだろうな。
巻き添えになって一緒に辞めさせられる70人くらいの兵士が可哀想だが、多くはこいつらの違法性を知っていてそれを共に行なっていた。
拒否できる立場になかったかもしれないが、それを俺が配慮する理由はない。助けてほしいと、一言でもあれば俺も考えたんだけどな。
「レコードカードを提示してくれれば、すぐにでも書こう」
このやり取り、何回目だろうか? この10日で5、6回はあったやりとりだ。無駄な時間だよな。
「我らは騎士として誇りを持って勤めてきました」
「だから、レコードカードを出せと言っている。見せる気がないなら、すぐに立ち去れ」
「くっ……」
俺に引き留めてもらいたい。それが無理なら紹介状がほしい。
これまで王家に忠誠を尽くした、誠心誠意努めてきた。だったらレコードカードを堂々と提示すればいい。後ろめたいことがあるから、見せられないんだよ。自分で分かっているのに、俺に何をしろと? 捕縛しないだけでもありがたいと思えよ。
俺は引き留めないよ。
それに紹介状も書かないからね。
犯罪者を紹介なんかしたら俺まで痛くもない腹を探られるじゃないか。それくらい理解しろよ。
騎士たちの殺気が大きくなる。
もっとも俺にとってはそよ風のほうがよほど強風に思える殺気だけどね。
俺を襲う気か? それもいいだろう。やってみろよ。
「レコードカードを見せる気になったら、来い。ただし見せる気もなくやってきて俺の貴重な時間を無駄にしたら、今度は捕縛するぞ。分かったら、大人しく出ていくんだ」
どこの悪徳代官の言葉だよ? 俺自身も口が悪いと分かっているが、こればかりはね。
リンガーたち騎士は、歯噛みして出ていった。
何もしなかったが、何かを企んでいそうな顔だった。俺の気の回し過ぎならいいんだが……。
王家の直轄地は、公職にある者のレコードカード確認がすでに導入されている。
王女は王都から始めて、大規模な直轄地、中規模な直轄地、小規模な直轄地と徐々に改善していくと言っていたな。
今は王都とその周辺や重要拠点が優先されているが、レコードカードの確認は必ず導入されるものだ。
俺のところでもレコードカードの確認は行う。
騎士や名主にもそれを適用するつもりだから、後ろめたいことをしている人は今のうちに辞めればいい。
今までは王家の直轄地だったから、俺はその時の横領などを摘発するつもりはない。王家がやれと言うなら考えるが、そんな話はないからね。
貴族としては無責任かもしれないけど、王家の尻ぬぐいをすると色々面倒なんだよ。特に元団長のリンガーは、隣のパルトン伯爵に連なる人だから俺の周囲で悪さをしない限り放置するのが吉だ。
以前の俺なら突っ走って、騎士たちを捕縛しただろう。でも今の俺には多くの家臣がいる。王家がやるべきことに、彼らを巻き込むのはどうかと思うわけだ。
正面からぶつかれば危険ではないけど、こちらの都合よく正面からぶつかってもらえないものだからね。
ただ王家には、遠まわしにこいつらやってるよと、連絡だけはしておくけどさ。
もちろん、レコードカードを確認する機会があって、犯罪歴があったらアウト。それがどれだけ以前の話でも摘発対象になるけどね。
だから今のうちに辞めて、よその土地へいけと言っているんだ。
「ソドン。いるか?」
「いるだよ」
それまで誰もいなかった場所に、小柄なソドンの姿が現れた。
ジョブ・隠者のレベルはすでに43になっている。
俺の半分くらいのレベルだが、まったく気配を感じなかった。さすがは隠者といったところか。
俺の暗殺者も気配を消すのが得意なジョブだが、隠者には敵わない。
こと気配を消すことに関しては、これ以上のジョブはないだろう。
「リンガーを見張ってくれるかな」
「分かっただよ」
元々丸顔だったけど、最近特に丸みを帯びてきたか?
たくさん食べているようでよかった。
ソドンの姿が消えると、俺は場所を移した。
バナージと共に、そこへいく。
「お待たせしてすみません」
俺たちといっしょにトリアンジュに来る予定だったゴルテオさんだけど、王都で野暮用ができたらしく遅れて到着した。
「いえいえ。お忙しいところに押しかけてきてしまい、こちらこそ申しわけございません。子爵閣下」
ゴルテオさんはちゃんと約束をしてやって来ている。
それをあのリンガーたちが無理やり押しかけてきて、ゴルテオさんに待ってもらうことになったんだ。だからゴルテオさんは何も悪くない。
「店のほうはどうですか?」
「はい。もう少しで完成します。これも子爵閣下のおかげです」
俺が子爵になってトリアンジュをもらった直後、ゴルテオさんは店を出すと言ってくれた。
俺が王都ダンジョンでスライムに苦戦して時間がかかっている間に、こちらで店を建てていたからそろそろ完成するようだ。
しかしなんでも俺のおかげと言うのは違うでしょ。
ご愛読ありがとうございます。
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