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012_転職は神殿で

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 012_転職は神殿で

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 転生7日目。今日の朝はやけに冷える。どんどん冬に向かっているようだ。

「アンネリーセは寒くないか? 寒かったら遠慮なく言ってくれよ」

「シーツ1枚ではさすがに寒いです。今後はダンジョン内で使う毛布を使ってもいいですか」

「それなら、宿用に厚手の毛布を買おうか」

「いいのですか?」

「いいとも」

 ダンジョン内で使って汚れた毛布を宿で使うのは気が引ける。無料で泊まっているだけに、余計に気になってしまう。俺は小市民なんだよ。


 アンネリーセが若くて可愛い女の子なら肌を寄せ合って寝るのもいいが、無理だ。目覚めた時に容姿が魔女のアンネリーセの顔が目の前にあったら、生気を吸われてないか心配になってしまう。


 宿を出ると息が白かった。もう冬じゃないか。

「もう冬なのかな?」

「まだ秋ですよ。ただ、今日は少し寒いですね」

 空を見上げると、薄い雲があるだけで真っ青な空が広がっていた。よい天気だ。こういう空を見ると、不思議と元気が出る。


 ダンジョンに行く前に、厚手の毛布を買った。誰も見てないところで、アイテムボックスに収納してアンネリーセの歩速に合わせてゆっくりダンジョンへ向かった。


 今日もダンジョン前で買い食いをする。昨日は池イカだったから今日は肉にしようと思ったが、ネズミ肉のことが頭をよぎったから池イカにした。

 今日は池イカの姿焼きを5本、ゲソ焼きを5本買った。俺とアンネリーセがそれぞれ5本ずつ手に持ってダンジョンの中に入ると、誰も居ないことを確認して9本をアイテムボックスに収納。


 1本だけ残ったゲソ焼きをアンネリーセに食べていいと言ったら、美味しそうに食べた。

 さすがに9枠も使うとアイテムボックスを圧迫するが、どうせすぐにアンネリーセが消費するから構わない。


 ダンジョンの壁に向かう俺、それを訝し気に見るアンネリーセ。

 ───ダンジョンムーヴ。

 壁にドアが現れた。簡素な木のドアだ。


「これは……まさかダンジョンムーヴ……ですか?」

「さすがはアンネリーセだ。前回進んだ場所に繋がっているよ」

「………」

 アンネリーセの手を引いてドアを開けてその先の通路に出る。

 俺たちが通るとドアは消えてなくなった。

 消費MPは10ポイントか。大した消費量ではない。これなら帰りも使えるだろう。


「ご主人様。ユニークスキルは2つしか持っていないと仰っていましたよね?」

「うん。2つしか持ってないよ」

「では、ダンジョンムーヴはどういうことですか?」

「それはジョブが探索者だからさ」

「……はい?」

 凄く間を開けて聞き返されてしまった。


「ご主人様のジョブは村人ですよね?」

「探索者の取得条件を満たしたから、転職(ジョブチェンジ)してみたんだ」

「みたんだ……って、そんな簡単に……はぁ」

 大きなため息だ。だから言うの嫌だったけど、せっかく良さそうなジョブが手に入ったんだから使わないとね。


「神殿以外で転職できる人なんていませんよ。それ、絶対に内緒ですからね!」

「お、おぅ。分かった」

 可愛い言い方だけど、魔女顔をずいっと近づけられると恐怖で後ずさってしまう。結構怖いんだから、勘弁して。


 でも以前ジョブを詳細鑑定した時、神殿なんて言葉は出てこなかったぞ? もしかしてもっと詳しく表示させないといけないのか?



 ▼詳細鑑定結果▼

 ジョブ : 【ジョブ】は一定の条件を満たすと、新しいジョブに転職可能。通常は神殿で転職するが、トーイのみステータス画面を開いて念じるだけで行える。現在の転職可能ジョブは、旅人、村人、料理人、商人、運搬人、復讐者、転生勇者。



 内容が増えている……。

 そういえば、前回詳細鑑定した時の熟練度は(微)だったけど、今は(低)になっていたっけ。

 いや、違うな。詳細鑑定はこちらの要求レベルを上げるまでは、やる気のない内容を表示するんだった。魔導書の時にそれに気づいていたじゃないか。もっと情報が欲しいと、要求すればこの内容が出てきたはずだ。


「もしかして他にも転職できるジョブがあるのですか?」

 魔女顔が近いのですが。


「ないことも……ないかな……」

「どれだけのジョブに転職できるのですか?」

「えーっと……旅人、村人、料理人、商人、運搬人……ごにょごにょ……」

「運搬人の後、なんと言ったのですか?」

「ふ……しゃ……て……い……しゃ」

「もっと大きな声でお願いします」

 耳に手を当てて、向けてくる。


 復讐者と転生勇者のことは知られたくないんだけど……。

「誰にも言わない?」

「誰にもいいません。そもそも私は奴隷ですから、守秘義務を負わされております」

「それじゃぁ言うよ」

「はい。どうぞ」

「復讐者と転生勇者」

「……… ……… ……… ……… ……… ……… 今、なんと言いました?」

 めちゃくちゃ間を空けられたんですけど!


「復讐者と転生勇者」

「……聞き間違いではなかったようですね」

 疲れた顔のアンネリーセが目頭を揉みほぐした。しわくちゃの顔だから、分かりにくいけど、かなり疲れていそう。


「ははは……なんだかごめん」

 頬をかきながら、なぜか謝ってしまう。悪気はないんだよ、悪気は。

「いえ、ご主人様は悪くありません。ただ、常識から外れているだけです」

 それ俺を貶してる?


「しかしご主人様が勇者だとは……」

「いや、勇者する気ないから」

「これも天啓でしょう。この寿命尽きるまで、ご主人様の偉業を補佐させていただきます」

「だから勇者しないから」

「もっとも私の寿命はあまりないでしょうが……」

 アンネリーセは1人でブツブツ言っている。俺の話、聞いてる?





 アンネリーセの意識が帰ってくるまで少し待って、探索を開始する。

 スキル・宝探しはダンジョン内で自動発動しているから、近くに宝箱があったらなんとなく分かるらしい。

「1階層で宝箱が発見されたという話は聞いたことありません」

 くっ、残念無念。


 すぐにグレイラットを発見。レベルは2だ。

 一撃で倒す。前回よりも体が軽く感じた。しかも前回は速く感じたグレイラットの動きが遅く感じられた。いや、速いのは速いが、以前ほど神経をすり減らすほどの速さではなくなったという感じか。これだけでも転職した意味があったというものだ。


「剣の扱いは全然ダメですが、前回よりも動きがいいです」

「そ、そうか」

 アンネリーセは歯に衣着せぬ物言いをするが、悪い気分ではない。むしろ素直に指摘してくれるほうがありがたいくらいだ。


「しかしなんで勇者に転職しないのですか?」

「勇者などと知られたら、絶対面倒なことがおこるだろ?」

「それもそうですね。これまで勇者と言えば、召喚が当たり前でした。それがご主人様は転生されているのですから、凄く面倒なことになりそうです」

 言葉が弾んでいるぞ。心なしか表情も明るいよね。あんた、楽しんでない?

 ところで『これまで』ということは、勇者召喚は何度も行われているということか。背後関係が分からないけど、関わり合いになりたくないものだ。





 現れたグレイラットを切り伏せる。調子がいい。

「それにしても、どうしたら探索者に転職できたのですか? 一般的にはダンジョンの10階層のボスを倒さないと、取得できないジョブのはずですが?」

 ネズミ肉を拾い上げながらアンネリーセはそんなことを聞いてくる。俺が転生勇者に転職できると知ってから、距離が縮まった?

 復讐者もあるんだけど、それには触れてないけど無視?


「ダンジョン探索初日に単独でモンスターを20体倒すと、探索者に転職できるらしいぞ」

「ジョブの転職条件はいくつかあると言われていましたが、そんな取得条件があったのですね」

 全ての転職条件が知られているわけじゃないようだ。謎が多いほうが面白いと思うけど、それで転職の幅が狭まっている。

 探索者のようにダンジョン探索初日に単独でモンスターを倒せとか、かなりハードルが高いから無謀な挑戦が行われないだけマシかもしれないけど。


「ジョブの探索者ってほとんど見ないけど、なんで? 10階層のボスを倒せば取得条件を満たすんだよね?」

「10階層を探索する頃には多くの者が剣士や槍士に転職しています。探索者は便利なのですが、戦闘力では剣士や槍士のほうが上ですから転職する者は滅多にいないでしょう」

 戦闘力重視で、利便性は後回しか。それは脳筋の考え方だな。移動をバカにしてはいけないんだぞ!


 そんな話をしていると、なんだか違和感を覚えた。普通の通路で石の壁がある方向からだ。

「どうかしましたか?」

 俺が足を止めたことに、アンネリーセが首を傾げる。


「いや、こっちに宝箱がありそうな……ははは、気のせいだよな」

「そちらは壁ですから、気のせい……もしかして……」

 アンネリーセが杖で壁をコンコンと叩き始めた。真剣な顔だ。


「ご主人様。少し下がっていただけますか」

 アンネリーセが言うところまで下がる。何をする気だ?

「───マナハンド!」

 アンネリーセから半透明な太い腕が伸びて、壁を殴り始めた。ガツンッガツンッと激しい音がして、壁が崩れた。


「おおおっ!」

 崩れた壁の向こうに通路があった。こっち側と変わらない石造りの通路だ。


「まさか1階層にこんな通路があるなんて……」

「こういうのは珍しいのか?」

「珍しいです。こんなこと聞いたことがありません。宝箱を隠しているのでしょう。ダンジョンも手の込んだことをします」

 聞いたことがないというのは、情報を隠している可能性もある。こういった情報を開示したら、宝箱を他の人に取られるかもしれないからね。


「罠だと魔力がありますが、これは他の壁と同じで気づけませんでした。私としたことが、迂闊でした」

「魔法使いは万能じゃないんだから、そんなに自分を責めたらいけないよ」

「ありがとうございます」

 それよりもお宝を拝見しましょう!


 通路は10メートルで行き止まりになっていて、その行き止まりのところに宝箱が鎮座している。

「大丈夫です。罠はありません」

「開けるよ」

「はい」

 金属の金具で補強された頑丈そうな木の宝箱の蓋を開ける。カギ穴はあるけど、カギはかかってない。


「ポーション?」

 無色透明の液体が入った瓶だ。

 俺はポーションを3種類持っている。HPを回復するもの、MPを回復するもの、毒を解毒するもの。HP用が青色、MP用が緑色、毒用が黄色だ。そのどれとも違う無色透明のポーションが宝箱から得られた。

 まさかただの水なわけないよな?


「こ、これは!?」

「どうしたんだ、アンネリーセ」

「ま……さか」

 アンネリーセの様子がおかしい。体がわなわなして目が血走っている。息も荒く、死んじゃうのか?

 魔女顔で目が血走るとマジで怖いから止めて。


「おい、大丈夫か。ちょっと座れ。落ちつくんだ」

 いったいアンネリーセに何があったんだ?

 このポーションを見て目の色が変わったけど、このポーションはなんなんだ?


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
作者が引っ張りたいのはわかるんだけど、鑑定魔の主人公の事だから見た瞬間調べちゃう気がする
[良い点] なんか主人公の買う奴隷が幼女や少女ばっかで見飽きたので、 このまま老婆でいくのも珍しくて良くない? と思えてきたけど、それも終わりそうだな まあ、歩ける状態のまま寿命を迎えてくれるならとも…
[一言] お!若くなっちゃう?もしくは何らかの呪いとかが解けるとか
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