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095_王女のクマ(三章・完)

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 095_王女のクマ(三章・完)

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「フットシックル男爵。この度は悪魔討伐、ご苦労様でした」


 適当に返事をして、当たり障りのない会話をする。

 同時に王女の目の下のクマが気になる。以前よりも濃くなってるぞ、大丈夫か? 体調管理は大事だぞ。


「一度ならず二度も悪魔を討伐し、さらに今回は中級悪魔だったと聞いております。フットシックル男爵たちがいなかったら、もっと被害は大きくなっていたでしょう」

「探索者ギルド周辺がかなりの被害を受けたようですが、ダンジョンのほうは大丈夫でしたか?」


 ダンジョンの入り口を覆うように造られていたパルテノン神殿のような建物も崩壊していた。あれでダンジョンに入れないとなったら、俺が受けた依頼が遂行できなくなる。


「建物は崩壊しましたが、ダンジョンの入り口にはなんの問題もありません」

「それは良かったです」


 入り口が塞がれてしまったら、探索者たちが出て来られないからね。

 ダンジョンの中に閉じ込められるとか最悪だ。


「さて今日お呼びしたのは、察しがついていると思いますが、褒美に関してです」


 褒美をもらうだろうというのは、簡単に予想できた。

 だから王女が何を褒美にするか、俺は戦々恐々だよ。

 公爵は褒美と言って俺を名誉男爵にした。さて、王女は何を出してくるやら。


「本来であればフットシックル男爵を子爵に陞爵させ、領地を与えるところですが―――」


 やっぱりそうなるよね。要らないんだけどさ。


「フットシックル男爵はそのような褒美は望まない。そういう性格をしていると私は考えています」


 お、分かってるじゃない。俺のことを相当調べたようだね。


「本来、フットシックル男爵が陞爵するということは、貴方の家臣たちのためでもあります。陞爵がどうしても嫌と仰るのであれば他のものを考えますが、家臣たちのことを考えて返事をしてください」


 家臣たちのこと……。そうか、俺が出世すれば、ガンダルバンたちも出世するということだもんな。俺はガンダルバンをはじめ、多くの人の上に立っている。そのことを今まで考えることがなかった。

 今の俺は一人ではない。アンネリーセもいるし、頼もしいガンダルバンたちもいる。厳島さんやヤマトもいる。俺の陞爵で皆が幸せになるなら……。


「返事はすぐにとは言いません。ガルドランド公爵とも諮る必要があります。すぐに使者を送りますが、公爵が王都へやって来るまでに早くても一カ月はかかるでしょう」


 俺は公爵の家臣だから、王女が勝手に褒美を与えるというわけにはいかないか。公爵がこの王都にやって来るまでにまだ時間がある。その間に皆と相談して、こちらからの要望をまとめておこう。


「褒美の話は公爵が王都に到着してからとなります。それまでに要望があれば、聞きます」

「ありがとうございます」

「さて、褒美の件はこれで終わりますが、一つ確認しておかなければいけないことがあります」


 来たか。俺のステータスの件だよね? ワーカーホリックの鑑定士から報告を受けたんでしょ?


「フットシックル男爵のジョブについて教えてください」


 俺のジョブの確認か。まずはジョブならぬジャブからだね。


「私のジョブは英雄剣王です」

「レベルを聞かせてもらえますか?」


 レベルまで聞くの? まあいいけどさ。今の俺はバルバドスを上回るレベルになっているから、王女は敵対しないはずだ。そのくらいの分別はある人だと、俺は思っている。


「レベルは54です」


 俺のレベルを聞いた警護の騎士たちがざわっとなった。

 王女が咳払いすると、ざわつきは収まる。

 中級悪魔モトロクトとの戦いを経て、英雄剣王のレベルは1つ上がっているんだよね。


「英雄剣王、レベルは54……」


 剣豪がなくなってしまったから、剣豪と言い切るのは無理がある。

 暗殺者のスキル・偽装を使えばステータスのジョブを剣豪に見せることはできるが、どうせいつかはバレるのだから英雄剣王はそこまで隠すつもりはない。

 転生勇者に比べれば、まだ英雄剣王のほうがいい。


 以前アンネリーセに聞いた話だと、勇者というジョブは異世界から来た人じゃないとなれない。だけど英雄はこの世界で生まれた人に現れるジョブだ。だから英雄剣王を知られても、俺が異世界からの転生者だとは気づかれないだろう。


「それはどうやって転職したのですか?」

「剣豪から進化しました」


 一応、言いわけは考えておいた。王女が信じる信じないではなく、そう言い切るつもりでいる。


「剣豪から進化するなんて聞いたこともないです」

「私も進化した時はとても驚きました」


 王女が鑑定士をチラ見した。

 鑑定士がその視線に応えるように、軽く頷く。


「では、ユニークスキルについて教えてもらえますか」


 やっぱりあの時見られていたんだな。

 グリッソムを殴るために、サブジョブを暗殺者から転生勇者にした。その際に偽装が解除されていたんだが、それをこの鑑定士が見逃すとは思えない。

 どこまで聞かれるか、心づもりをしていてもドキドキするよ。


「申しわけありませんが、ユニークスキルについてはお教えできません」

「……つまりユニークスキルを持っていることは認めるということですね」

「さて、どうでしょうか」


 護衛の騎士たちから殺気が向けられる。あんたたち、王女への忠誠が高そうだね。ドレンとかいう側近も凄い目してるよ。


 ユニークスキルについては教えるつもりはないけど、鑑定士から報告を受けているんでしょ? それでいいじゃん。


「正直に言いますと、わたくしの部下の鑑定士がフットシックル男爵にユニークスキルがあるのを見ているのです」

「それであれば、私から聞く必要はないと思いますが?」

「フットシックル男爵の口から聞きたいのです」

「お教えできません」

「どうしてもですか?」

「どうしてもです」


 騎士たちの殺気で室内の気温が二度くらい下がったんじゃないか。二度って微妙だな……。


「分かりました。これ以上は聞きません」

「王女様の英断に感謝いたします」


 知らぬ存ぜぬというか『教えない』を通そうと思っていたけど、王女が折れるとは思っていなかった。

 まあ、どうせ俺の情報は鑑定士から聞いているんだから、今更俺の口から何かを聞き出さなくてもいいってことだろう。

 でも鑑定士から聞いたのと、俺が言ったのでは意味合いが違う。俺はユニークスキルを持っているとも持っていないとも言ってないのだから、王女はユニークスキルに関する依頼をしてこられない。依頼してくるかもしれないが、そんなことはできませんと断るだけだ。


 しかし俺のステータスは、あの鑑定士にどう見えているのだろうか?

 王女のあの口ぶりだと、俺が転生勇者のジョブを持っているのを知らないような感じなんだよな? 転生勇者のことが知られていたら、もっと騒ぐと思うんだよね。もしかして俺の思い過ごし? 転生勇者なんてどうでもいいとか? ははは、それはないだろ?


 まさかとは思うけど、サブジョブは見えないのかな? 俺の詳細鑑定だと見えるけど、普通の鑑定では見えない可能性は捨てきれないか。それならそれでありがたいが、それでもユニークスキルが知られたのは痛いな……。


 この王女様は可愛い顔して……根は善良だと思う。顔は関係ないか。

 だから俺に多くを求めては来ないだろうが、それが国や王家の存続にかかわるようなことなら話は別だ。

 そういうことがあればこの国から逃げ出すことになるのだが、結構愛着がわいているからそうならないことを願うよ。


「それではまた呼び出すこともあるでしょうが、今日は下がってよろしいですよ」

「はい。これで失礼させていただきます」


 王女に恭しく頭を下げて退室する。

 ふー、なんとかなった。しかし疑問が残る。あの鑑定士はどのように俺のことを報告したんだ?




 ▽▽▽ Side エルメルダ王女 ▽▽▽


 フットシックル男爵との会談は、大貴族を相手するよりも気を使います。

 彼は底が知れない人物です。名誉欲や権力欲がある方ならこれまで何人も相手をしてきて少しは慣れたつもりですが、フットシックル男爵はそういったことに興味がないようです。そういう人が一番扱いにくいのです。はぁ……。


 さて今回、鑑定士のサムダールはフットシックル男爵が悪魔と戦っているのを見ていました。

 彼が言うには、戦っていたフットシックル男爵のステータスが一時的に文字化けしたらしいのです。

 一時的というのがよく分かりません。ずっと文字化けならそういうものだと思うのですが、なぜ一時的なのでしょうか?


 ただその文字化けした際に、ユニークスキルの欄が出てきたそうです。

 文字化けしていたためユニークスキルの内容までは分かりませんが、フットシックル男爵にはユニークスキルがあると考えていいと思います。


 さきほどの問答によって、彼にはユニークスキルがある。わたくしはそう確信しました。それがどのようなものなのかとても気になることですが、フットシックル男爵はそれを言いたくないというのがよく分かりました。


 フットシックル男爵をこのまま放置するつもりはありませんが、だからといって敵対するつもりもありません。彼とは今後も良い関係でいたい。それがこの国のためになると、わたくしは考えています。


 ふふふ。わたくしが勘や感情に頼っているなんて、これまででは考えられないことです。

 彼にはそれだけの魅力があるのでしょうか?


 武力があり、頭も悪くはない。出自ははっきりしませんが、その才能はこの国でも突出した存在。少し我が強いところもありますが、ある程度は周囲に合わせる姿勢も見せている。


 わたくしの伴侶になる方には、フットシックル男爵の半分でもいいのでわたくしを楽しませてくださる方がいいですわね。そのような方が現れなかったら、フットシックル男爵を伴侶にするというのもいいかもしれません。

 でもそんなことを言うと、逃げられそうです。本当に為政者泣かせの困った方ですわね。


 あら嫌ですわ。こんなクマが酷い顔を見せてしまいました。幻滅されなかったでしょうか?


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。

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『★★★★★』ならやる気が出ます!



三章完結です。

四章の方向性で今考え込んでいます。

次の更新は来週の日曜日ですが、それ以降は未定です。

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[良い点] 仕事を頑張った報酬が「出世」 この作品の本質がよく解る話でした! (今の世の中の「出世」って罰ゲームなんですよね・・・ [気になる点] 場面場面の文章説明の端折りが気になる。 連続で読んで…
[一言] 王女様ヒロイン入り? 全然ありだよ?
[良い点] お姫様ルートキタコレ(*´ω`*)
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