‘好き’を伝えても
「器があればなんでもいいのね! ならサメとでもよろしくやっていればいいわ!」
「サメは種族が違うだろ!」
「あら、種族を認識できるくらいはお利口なのね。心底驚愕だわ」
「あぁ!? そうだよお利口な遺伝子欲しいだろ?」
「そうね、本当にお利口な遺伝子ならね」
どうして俺と秋穂は下ネタの応酬しかできないんだ。本当はもっといろんな話をしたいのに、ついムキになって、いや、乗せられてそればかりになっちまう。
こうして何変わらぬ日々が過ぎ、やがて卒業して、それぞれの道を歩む。それではとても満足できる気がしない。だがいまこの段階で‘好き’を伝えても、はぐらかされるか気まずくなるだけ。だから一歩でも前進したくて気持ちが逸る。だから突っかかるけど、秋穂には俺が喧嘩を売っているようにしか聞こえないらしい。そんなジレンマの日々から早く抜け出したい。
◇◇◇
もしかして大騎くん、素直に気持ちを伝えられていない……?
仲良しには仲良しだけど、ふたりの仲はわたしが思うほど進んでいないのかも。
なんとなく、そう思った。
灯台を降りて、鍾乳洞や岩場を見て回ったわたしたちは、ヒグラシの合唱が響く木々に覆われた通路でまで、ハードな石段を上がり戻って来た。道沿いの断崖絶壁には広々とした和風のお食事処があり、いつも繁盛している。
がやがや賑やかな店内ではおばちゃんたちがせっせと調理をしたり、注文を取ったり、お客さんを案内したりと大忙し。
「そういえばランチがまだだったね」
と、彩加ちゃん。
わたしたちはお食事処に入り、大海原を見下ろせる窓際のテーブル席に通された。五人行動なので、窓際に彩加ちゃんと秋穂ちゃん、通路側、彩加ちゃんの隣に望くん、秋穂ちゃんの隣に大騎くんが座るように仕向けた。恋をしていないわたしはお誕生日席で四人を見守る。
五人は揃って湘南名物のシラス丼を注文。
この配置なら同性で対面して尚且つ想い人と肩を並べられる。小一時間のランチタイムで少しでも距離を縮められたら……!
「お料理が上がって来るまでちょっとお出かけしてくる」
「お? どこ行くんだ?」
「デリカシーないわよ」
「いやいやそこじゃない別のところ。すぐ戻るね!」
言い残し、わたしは一人立ち上がりお店を出てとある場所へ向かった。
お読みいただき誠にありがとうございます!
更新が遅くなりまして申し訳ございません。
執筆時間が取れる際に少しずつでもお話を進めてまいります。




