節約の決意
アイシャさんは、カードを持ち上げると私の首にかけた。
「いいかい、二度と男に根こそぎ奪われないように、肌身離さず持っているんだよ?そして、お金に困った時にこの角は売るんじゃよ?一文無しになることはないからの?」
こくんと頷く。
そうか、なぜこれだけ売らなかったのかそういう理由なんだ。
「ありがとうございます。アイシャさん!」
「うん、これからも強い魔物を倒したらこうして紐が通せるように加工してもらうんじゃぞ?」
うんと頷く。
そうすれば現金をすられても、ギルドに売りにくればお金が手に入るってことだよね。
「この金具にお前の名前が記されとるからの、別のものが盗んで売りることはできんのじゃ」
「そうなんですね!」
言われてみれば、角に取り付けられた金具に名前が彫ってある。シャリアと。
カードの名前もシャリアだ。
そうか。私、もう伯爵令嬢のシャリアリーでも、クリスの恋人のアリーでもなくて、冒険者シャリアなんだ。
「さて、これで、稼ぎ方が分かったじゃろ?今日はギルドの宿でもかりてゆっくり休め。そうそう、ギルドの建物の中では、カードが見えるようにぶら下げるんじゃよ?じゃあ、わしは帰る」
アイシャさんがギルドを後にした。
「ありがとうございました、師匠!あの、稼いだらお礼に行きますっ!」
ぺこりと頭を下げる。
私とアイシャさんの会話を聞いていた受付のお姉さんが声をかけてくれた。
「冒険者ギルドの宿は1泊銀貨3枚で、連泊は3日までしか受け付けていないのだけれど、どうする?あと食事はつかないけれど、そこでも簡単なものなら食べられるわよ?」
ギルドの1階、ジョッキを手に酒を呑んでいる人が目立っていたから気が付かなかったけれど、食事もできるらしい。
今日はどっと疲れた。
「じゃあ、あの、3泊でお願いします」
「はい、買い取り価格から銀貨9枚引くわね」
トレーの上から銀貨3枚をお姉さんがとった。
残りは、金貨1枚と、銀貨3枚と銅貨が5枚だ。
銅貨1枚でパン1つ。銀貨1枚は銅貨10枚。銀貨100枚で金貨1枚だったはず。
ってことは、パンが1000個は食べられるお金。しばらくは食べられる!
と、思ったけど。
パンだけでなくシチューや肉などをつけて食事をすると、銅貨5枚。飲み物や果物をプラスすれば銀貨1枚はあっという間に消えていく。
それに、前に住んでいたアパートは月に半金貨はした。つまり銀貨50枚。
部屋を借りて、栄養ちゃんと取った食事をしたらあっという間になくなる金額だ。
それに、今日はアイシャ師匠がいてくれたから順調に魔物を倒せただけだろう。
装備も揃えないとだめだと言っていたし。
節約しないと。
「えーっと、普段は服の中にカードは閉まっておいて、ギルドの中では出すんだったよね」
部屋で少し休憩してから食堂に降りていく。
日が昇っていた時よりも、人が多く活気づいていた。
「今日はボア無双よ!20匹は倒したな」
「あはは、お前の20匹はせいぜい2匹ってとこか」
「パーティーの新メンバーどうする?」
「おい、あの子かわいいじゃん。声かけてみるか?」
「ねぇ、君、君、見ない顏だけど」
あ。声をかけられた。もぐもぐごっくんと口に入っていたパンを飲み込み顔を上げる。
「今日、冒険者登録したばかりなんです」
20歳前後のほっそりした男の人だ。
金髪がクリスを思わせる。
「へー。カードの色からすると本当なんだ。鈍色級かぁ。俺たちその上の銅色級パーティーなんだけど、今メンバーを募集してるんだよね」
パーティー?なんだろう。
舞踏会でも開くの?




