はじめての報酬
「じゃ、次行くかの」
次にワイルドウルフ。動きが早くて、枝を当てるのが大変で最終的に拳で倒す羽目になった。
眉間の間に魔石があると教えてもらう。
「さて、次じゃ」
次、次を繰り返して。
「もう、これ以上強いの無理です、本当に、無理……」
身体強化重ねがけ7で木の枝……丸太が折れちゃうし、岩は粉砕されちゃうし、殴っても飛んで行かないし、とんでもなく強い魔物に汗まみれだ。
「ふむ。サイクロプス……は、だめか。力押しじゃ無理なんじゃな。仕方がない。貸してやる」
アイシャさんが箒を渡してくれた。
「えっと」
「ほれ、魔物掃除しといで。1度見たじゃろ?抜いてみぃ」
そうだ。仕込み杖みたいな箒だった。
すらりと剣……箒の柄に収まる細い剣を取り出す。
「って、無理ですよぉ、剣なんて使ったことないんですからっ!」
「一緒じゃ。枝で叩くのと同じように叩けばいい。駄目なら変わってやる。行ってこい」
ええええ。
「でも、あんなでっかいの、叩いたって、足しか届きませんよっ」
目の前の一目の鬼、サイクロなんとかは、人の2倍の高さはある。
「そうじゃな、じゃ、ほれ。上から叩けばいい」
アイシャさんが私を掴んでぽーんと上に放り投げた。
うそ、アイシャさん、めちゃくちゃ力持ちっ!っていうか、落ちる、落ちる。
そうだ、サイクロプスを叩くんだった。えーい!
あんなに枝でも岩でも平気だったのに、サイクロプスはアイシャさんに借りた剣でやっつけられた。
周りの木をめきめきとなぎ倒しながら倒れるサイクロプス。
アイシャさんがひょいっと頭にある角を折った。
「角の形になっておるが、これが魔石じゃ」
私の手に渡した。
「ふむ。サイクロプスは装備が整わないと無理ってことじゃな……わしの箒レベルの装備はかなり金を貯めねば買えんぞ」
そうなんだ。剣になる箒は高いのね。
「まぁ、そうじゃな。安全も考えると、ホーンベアくらいまでにしておいた方がええじゃろ」
ホーンベアっていうと、サイクロプスの前の前の前の前くらいだったかな?
「レベルが上がって、装備を揃えてからにするんじゃぞ?」
「レベル?」
「うん?知らんか?そうじゃな、魔物を倒す前と倒した後で何か変化を感じんか?」
変化……。
そういえば、身体強化の重ねがけ、5回までしかできなかったのが7回までできるようになってた。
「レベルが上がれば上がるほど強くなれるぞ」
アイシャさんがにこにこと笑いながらサイクロプスの角を渡してくれた。
「じゃ、そろそろ戻るかの。カードもできておるじゃろ」
アイシャさんに連れられてギルドに戻った。
「あ、アイシャ様、シャリアさん、お帰りなさい」
冒険者ギルドのカウンターに向かうと、受付の女性が声をかけてくれる。
「ほら、魔石を出しな」
言われて、ポケットに入れておいた魔石を取り出してカウンターの上に置く。
「こっちは買い取りで、これはギルドカードと一緒に首からぶら下げれるように加工してくれ」
受け受けのお姉さんが角を見てひゅっと息をのんだ。
「これは、サイクロプスの……?」
受付嬢の言葉に、他の職員の視線が集まる。
「なんだって?サイクロプスだと?流石アイシャ様」
「いや、弟子が倒したんじゃ」
ポンッと肩を叩かれて、皆の驚きの目が向けられた。
「いえ、私では倒せなくて……アイシャ様の……」
剣を借りてやっと。ああ、あと放り投げてくれたから……で。
慌てて首を横に振る。
「まぁ、冒険者に登録したてじゃ。分からないことばかりじゃ。E級……いやこの国だと鈍色級か、鈍色級冒険者からちゃんと育ててやってくれよ?分かっておるな?特別扱いは不要じゃ」
ギルドの職員たちがこくこくと頷いた。
そうだよね。ギルド長のおばあさんの弟子だからって、忖度されても困る。後々禍根をあちこちに残しそうだから。
「はい、査定が終わりました。こちらのサイクロプスの角も金具をつけてカードとともに紐に下げられるようにいたしましたが、査定額から加工費を差し引きさてていただき、金額がこちらです」
と、トレーにお金、その横にカードと角を革ひもでぶら下げられたものが置かれた。




