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君と暮らす5110日  作者: 中原 誓


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奇跡の瞬間

 最近の小学生は、お行儀がいい。


 散歩中に会う子も、ペット可のキャンプ場で出会った子供達も、すべからく犬を見て『かわいい〜』と言った後、『触ってもいいですか?』と許可を求める。

 そこに一昔前の、自由奔放な子供の影はない。

 もっとも、許可を求められた方がこちらは助かる。

 首輪に手をかけ急に噛み付くのを防いでから、触らせる事ができるからだ。どんなにおとなしい犬でも油断はできない。

 最近の子供達は、犬を撫でる時も的確だ。

一斉に触ったりせず、順番に優しく撫でる。最後に『ありがとうございました!』と礼を言うのも忘れない。そういう教育を受けてるの?とさえ思う。

 うちの犬は子供が好きだった。

 いつも嬉しそうだった。


 一方、何事も時には大人の方が下手な時がある。


 数年前のこと、実家の両親が所用で我が家にやってきた。

 その時、我が家はちょうどリフォーム中で、夫と私は二階の一部屋だけで生活していた。もちろん2代目のダックスも同じ部屋だ。


 母は例の、動物嫌いの母だ。


 仕方がないので、犬が歩き回らないように散歩用のリードを短めにしてつけた。リードは私が持っている。

 この状態で飼い主が側にいると、2代目の子は吠えない。おまけに父が声をかけるので、犬は必然的に父の方ばかり見ている。


 このくらいなら、母も我慢できるだろうか。


 始めこそ犬が動くたび挙動不審だった母も、やがてリラックスしたようだった。


 普通に雑談を交わしていた時だった。


 不意に母がそっと手をのばした。犬からすれば背後からだ。さすが、動物慣れしてないだけある。一番やっちゃ駄目なやつだってば。

 2代目の子は、母の方を振り向いた。

 そして何か感じるところがあったのか、ゆっくりと頭を下げたのだ。

 母は人差しと中指の指先で、犬の頭を撫でた。犬は微動だにしない。



 その光景はまるで――


 ETだな。



「おとなしいね」


 独り言のように母がつぶやく。


 いや、いつもはうるさいんだよ。ダックスは猟犬だからね。吠えるのが仕事だよ。


 おそらく、母は生まれて初めて犬に触れたはずだ。そして今後もこんな機会はまずないだろう。


 人知れず奇跡を起こすのも、ペットの持つ力なのだ。




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