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君と暮らす5110日  作者: 中原 誓


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自分で思うほどしっかりしてなかった

 2代目の子を亡くしてから2ヶ月くらいすると、夫は新しい犬を迎える話をし始めた。


 もう? まだ埋葬さえしてないのに?


 火葬したペットの骨を自分の土地に埋める事に、法律上の問題はない。

 初代の子は庭の椿の根もとで眠っている。

 2代目の子もその近くに入れるつもりだが、冬へと向かう季節に土の下へ寝かす事は忍び難く、春になってからにしようと決めていた。


「成犬を迎えるのならともかく、子犬から飼うなら早めにしないと」


 自分たちの年齢を考えると、その通りだ。20歳まで生きる犬は稀だが、飼い主はそのくらい共に生きる事を考えて人生設計をしなければならない。責任を持って飼うとはそういう事だ。


 もう犬を飼うのはやめよう。そういう気持ちもある。


 なぜそんなに勧めるのかと聞くと、私がペットロスになっているからだそうで。


「『世話が無くなって寂しい』って何度も言ってるじゃないか」


 そうかな。そんなに頻繁に言ってる?


 だいぶ落ち着いたし、眠れるし、食べられるし、深刻なペットロスにはなってないよ。

 家に入る時に『ただいま』と言いながら犬の名前を呼ぶのも、まだお骨が家の中にあるからだし。


 あれだ。

 自分の方が犬を飼いたいんじゃないのか?


 何か張合いがないのは確かだが、このままそっと静かに年を重ねていくのもいいのではないだろうか。

 ああ、でも! 何年かして『やっぱりあの時に――』ってなったら!?


 迷った数日後のこと。


 少し前に買ったはずの、スプレー式キッチン漂白剤の交換ボトルがない。

 確かに買った。

 自分で引き出しにしまった記憶もある。

 ひょっとしたら洗濯洗剤の買い置きと一緒にしたか、隣の引き出しに入れたか。


 いくら探しても出て来ない。

 

 まさか、冷蔵庫には入れてないよな。

 冷蔵室、野菜室と確かめて、一番下の冷凍室の取っ手に手をかけた。

 ここも『引き出し』だけど――

 恐る恐る開けると、緑のキャップが目に入った。


「あった……」


 漂白剤はカチンコチンに凍っていた。


 こんなポカをやったのは生まれて初めてだ。


 やはり、犬を飼うべきかもしれない。



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