人前でしない理由(コミックス6巻発売記念)
大人エルジゼのほのぼの日常です。
今時期は神殿の周りの紅葉がとても綺麗らしく、今日は仕事終わり、エルとぐるっと遠回りをして帰ることにした。
「枯れかけた葉なんて見て何が楽しいんだよ」
「もう、そんな言い方しないでよ。あの辺りとかすっごく綺麗じゃない? わたし、秋って好きなんだ」
「……まあ、確かに」
そんな会話をしながら手を繋いで歩いていると、並木道沿いのベンチや木の下にはたくさんの人がいることに気付く。
この辺りは神殿に務める人以外も立ち入れる場所で、大勢の人が紅葉を楽しみに来ているようだった。
特に男女のカップルばかりで、その距離感はすごく近い。言い方を変えると、みんないちゃいちゃしているという感じで、わたしは恥ずかしくなって顔を逸らした。
「や、やっぱり雰囲気もあって、デートにも最適なのかな」
「俺に聞くな」
中にはキスまでしているカップルもいて、びっくりしてしまう。エルも同じものを目にしたらしく「うわ」と眉を顰めている。
なんだか勝手に気まずくなって、何か喋らなきゃと焦ったわたしは、慌てて口を開いた。
「ええと、エルは人前でああいうのって、あんまり好きじゃなさそうだよね」
「別にそういうわけじゃない。周りとかどうでもいいし」
「えっ、そうなんだ? じゃあ、なんで──」
エルの距離感はとても近いものの、人前での触れ合い方に関しては一線を引いている気がしていた、のに。
不意にエルの綺麗な顔が近づいてきたかと思うと、そのまま距離がゼロになった。
「お前のそういう顔を他のやつに見せたくないだけ」
「…………っ」
触れるだけのキスによって、真っ赤になっているであろうわたしの顔を見て、エルはふっと笑う。
エルがそんなことを考えていたなんて想像もしていなかったわたしは、色々なドキドキや恥ずかしさでいっぱいになって、両手で顔を覆った。
「お前は?」
「わ、わたしは今後も外では、大丈夫です……」
「はっ、だろうな」
指の隙間から見えたエルの柔らかい笑顔も、誰にも見せたくないなあなんて思ったことは、黙っておこうと思う。




