もっと知りたい
本日、コミカライズ連載開始です! 詳しくは後書きにて♪
SSは本編後のお話です。
ある日の午後、わたしはエルの部屋にてユーインさんとお茶をしていた。部屋の主であるエルは早々に「眠い、寝る」なんて言い、布団に潜り込んでしまったからだ。
ユーインさんと二人きりで話す機会というのはあまりないけれど、いつも笑顔で穏やかな彼のお蔭で、とても楽しい時間を過ごしていた。
「ユーインさんって不思議ですよね」
「不思議、ですか?」
「はい。ミステリアスな部分が多いなって」
付き合いは長くなってきたけれど、いつも人差し指を口元にあて「内緒です」と綺麗に微笑む彼のことを、わたしはほとんど知らない。良い意味で、生活感がない人だと思う。
「もしも気になることがあれば、何でも聞いてください。ジゼルさんになら何でも答えますよ」
「本当ですか? じゃあ、ユーインさんの恋愛について色々と聞いてみたいです」
せっかくの機会だと、お言葉に甘えてみることにする。
ユーインさんは手に持っていたティーカップを静かにソーサーに置くと、ふわりと微笑んだ。
「最近は特に何もありませんね。エルヴィスが神殿を留守にしている間なんて、実は忙しくて死にそうでしたから」
「なるほど……どういう女性が好みなんですか?」
「私は基本的に明るい女性が好きですよ。一緒にいるだけで元気をもらえるような」
「そうなんですか? 少し意外でした」
大人の男性というイメージのユーインさんは、同じく大人という感じの女性をなんとなくイメージしていた。
「私達のように長く生きていれば、色々ありますから。自然と、そういう方に惹かれてしまうんでしょうね」
「ユーインさん……」
「だからこそ、シャノンやクラレンスも皆、あなたのことが好きなんだと思いますよ」
そう言ってユーインさんは、柔らかく目を細めた。
──ユーインさんや皆は、わたしよりもずっとずっと長い人生を歩んでいる。きっと嬉しいことも、そして辛いことも普通の人よりもたくさん経験してきているのだろう。
「他に何か気になることはありますか?」
「ええと、ユーインさんとエルって、もちろんユーインさんの方が歳上ですよね?」
「そうですね。とは言え、ほんの少しだけですよ。皆さんでいうと学年がひとつ上くらいの感覚で」
「えっ」
落ち着いているユーインさんと、子供っぽいエルでは、正直結構な差があると思っていたわたしは、驚きを隠せない。
その後も色々と質問していくうちに、知らなかったことを色々と知ることができて嬉しくなる。つい続け様に質問してしまっていると、不意に後ろからぐいと抱き寄せられた。
「び、びっくりした……! エル、起きてたの?」
「なに? お前、ユーインがそんな気になんの」
「えっ?」
拗ねたような様子のエルは、抱きしめる腕に力を込める。そんな様子を見ていたユーインさんは、くすりと笑った。
「おや、やきもちですか? 可愛らしいですね」
「は? 死ねば」
「エルヴィスのことを慕っていた女性は皆、冷たい態度に心が折れた後、皆さん私のことを好きになるんですよ」
さらりとそんなことを言ってのけたユーインさんに対し、エルはふんと鼻で笑う。
「名前も知らねえやつなんて、どうでもいいんだよ」
「そうですよね。ジゼルさんの場合は困るだけで」
「別に。こいつは俺しか好きにならないから、困らない」
当たり前のようにそう言ったエルに、聞いていたわたしが恥ずかしくなってしまう。一方のユーインさんは、やけに嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「エルヴィスが幸せそうで何より。私も、お二人のような関係を築ける相手を見つけたいものです」
「嘘つくな」
「本当ですよ。私だって寂しくなる時はありますから」
困ったように微笑むと、ユーインさんは立ち上がる。
「エルヴィスも起きたことですし、そろそろ失礼しますね」
「ユーインさん、今日は色々と教えてくださってありがとうございました! 楽しかったです」
「こちらこそ。次はジゼルさんのことを教えてください」
「はい、もち──」
「うるさい、さっさと帰れ」
わたしの言葉を遮るようなエルに対し、ユーインさんは満足げに微笑むと「では、また」と転移魔法で姿を消した。
エルは深い溜め息を吐くと、ひょいとわたしを抱き上げて膝に乗せる。そしてわたしの肩にこてんと頭を預けた。
「……あいつ、絶対面白がってるだろ」
「エルとユーインさん、すごく仲良しだよね」
「別に。一緒にいる時間が長いだけだ」
エルがユーインさんのことを大切に思っていることも、もちろん分かっている。先日、ユーインさんが出先でトラブルに遭った時、真っ先に向かったのもエルだった。
「つーかお前、俺には何も聞いてこないじゃん」
「確かにそうかも。今まではエルに何を聞いてもモヤがかかって聞こえなかったから、質問しない癖がついちゃって」
確かにわたしはまだまだ、エルについて知らないことがたくさんある。もちろん、それを知りたいとも思っている。
「じゃあ、色々聞いてみてもいいの?」
「好きにすれば」
「ふふ、ありがとう! じゃあ、まずはね──」
素っ気ない口ぶりだけれど、どこか嬉しそうなエルが今日も愛しいと思いながら、胸いっぱいの幸せを噛みしめた。




