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家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら  作者: 琴子
最終章

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エピローグ



「…………」

「…………」


「で、お二人は何故、ずっと無言なんですか?」


 ユーインさんはわたし達を見比べると、首を傾げた。そんな様子を見て、マーゴット様は可笑しそうに笑っている。


 あの後、わたしはエルと共に神殿へとやって来ていた。彼はひどく疲れているはずなのに、こちらに戻ってくると身支度を整えてすぐ、わたしの元へ来てくれたのだという。


 とは言え、あまりにも久しぶりすぎて、何から話せばいいのか分からなくなっていた。こうして隣にエルがいることが信じられないのだ。ずっと、心臓が早鐘を打ち続けている。


 今日は軽く報告だけ済ませて、後日改めて彼の帰還を祝おうということになった。


「とにかく、無事に帰ってきてくれて良かった。お前は本当によくやってくれたよ。ありがとう」

「ああ」

「私からもお礼を。貴方のお蔭で、世界は救われました」

「……気持ち悪いし、そういうのはもういい」


 本当に疲れたと、エルは深い溜息をついた。そんな彼に対して、いつも通りで安心したとマーゴット様は微笑んだ。


「それにしても、結構時間がかかりましたね。これ以上遅くなるようでしたら、私がジゼルさんに求婚しようかと」

「お前は相変わらず、つまんねえ冗談を言うんだな」


 そんな意地悪を言っているユーインさんだって、実は誰よりもエルを心配していて、危険だと知りながら何度も彼の元へ行こうとしていたことを、わたしは知っている。


「つーか、俺の封印までの時間は間違いなく過去最速だったからな。俺の中ではまだ、あれから二週間しか経ってない」

「えっ」


 あまりにも驚いたわたしの口からは、間の抜けた声が漏れてしまう。目の前の二人も、かなり驚いた様子だった。


「だ、だって、ずっと会いたかった、って……」

「あのなあ、二週間近く一睡もしないであんな化物と戦ってたんだぞ? どれだけ長くて辛かったと思ってんだ」


 確かにそう言われれば、そうかもしれないけれど。彼とそんなにも時間の差があったなんて、思いもしなかった。


「……だからこっちも長くて2、3年くらいかと思ってたのに、7年も経ってるとかふざけてんだろ」


 そう呟くと、エルは深い溜め息を吐いた。


「魔窟での時間の流れは読めませんからね。けれど、納得しました。たった二週間で、ジゼルさんがこんなにも美しく成長していれば、流石のエルヴィスもかける言葉が見つからないくらい、照れてしまいますよね」

「黙れバカ」


 彼はそう言って、ユーインさんを睨みつけた。あのエルがそんなことで照れるなんて、流石にないだろう。


「まあ、ジゼルは騎士団内でも大人気だからな。求婚する男も後を絶たないと聞いている」

「は?」


 そんなマーゴット様の言葉に、エルは「ちょっと待て」と言い、隣に座るわたしを睨んだ。


「求婚もそうだけど、騎士団って何だよ」

「わたし、卒業後は騎士団で働いてるんだよ。すごく頑張って、今は小隊長になったの」

「ふざけんな」


 何故かエルは怒ったような様子を見せると、わたしの腕を掴み、ソファから立ち上がって。


「ババア、また明日な。行くぞ」

 

 それと同時に、身体が浮遊感に包まれた。





「ここ、どこ?」

「俺の部屋」

「そ、そうなんだ」


 突然の転移魔法で着いた先は、ベッドとソファ、そしてテーブルと棚がひとつだけある、綺麗に整頓された生活感のない部屋だった。神殿内の彼の部屋は初めて入った気がする。


 やがてベッドに腰掛けたエルから少し離れたところに、わたしも恐る恐る腰を下ろした。当たり前のように彼にくっついて座っていた頃が、もう思い出せない。


 むしろエルの顔すらまともに見れないくらい、わたしは緊張してしまっていた。


「……なんで騎士団なんかに入った?」

「魔法を、生かしたくて」

「ふざけんな、危ないだろ。しかも男まみれだし」


 どうやら彼は、わたしが心配で怒っているらしい。


「あのね、わたしも結構強くなったし、ジュードも一緒だから大丈夫だよ。隊長も良くしてくれてるし」


 それに、エルから貰った指輪も肌身離さず身に着けているから安心だよ、と言おうとした時だった。


「俺のこと、好きじゃなくなったのか」

「…………なんて?」

「まともに俺の顔も見ない上に、そんな離れて座るとか、それ以外に理由なんてないだろ」

 

 突然のそんな言葉に、わたしは顔を上げた。


「す、好きに決まってるじゃん! むしろ前より好きになってるかもしれないくらいで、毎日エルのことばっかり考えてたんだよ! だからこそ実物をいざ目の前にしたら、やっぱり思ってた以上に格好いいし、ドキドキしてまともに顔も見れないだけなのに、エルのバカ! でも、ごめん……」


 途中からは、自分でも何を言っているのか分からなかったけれど。最後に「エルだけがずっと大好き」と呟けば、彼は深い溜め息を吐き、自身の目元を片手で覆った。


「…………良かった」

「えっ?」

「7年も経てば、流石にお前の気も変わったかと思った」

「変わるわけなんてない、わたしはずっと好きだったよ」


 すると「だから、わたしは、ってなんだよ」と不機嫌そうな声を出したエルによって、ぐいと抱き寄せられて。


 懐かしい大好きな体温と匂いに包まれ、再びじわりと涙腺が緩んでいく。わたしは彼が好きで好きで仕方ないのだと、改めて思い知らされていた。


「……お前、でかくなったな」

「だって、もう22歳になったんだよ」

「だろうな」

「ユーインさんの言う通り、綺麗になってて照れた?」

「ああ。焦った」 


 冗談のつもりで言ったのに、予想もしていなかった答えが返ってきて、心臓が大きく跳ねた。


「っずっとずっと、待ってたんだよ」

「悪かった」

「本当にわたしと、結婚してくれるの……?」

「お前が嫌がったってしてやるから、安心しろ」

「な、なにそれ……っうれしい、好き……っう……」

「分かったから、もう泣くな。つーかさっきまで顔も見れなかったくせに結婚とか、どうなってんのお前の頭の中」

 

 呆れたように言ったその声は、心なしか嬉しそうにも聞こえて。エルの背中に回していた腕に、ぎゅっと力を込める。


「エル、大好き」


 そしていつものように「あっそ」「知ってる」なんて返事が返ってくると思っていたのに。


「……俺も」


 そんな返事が返ってきたことで、再び大泣きし始めたわたしの頭を、エルは昔と変わらずにぐしゃりと撫でてくれて。

 

 これから先、彼と本当の家族になる未来を想いながら、わたしは胸いっぱいの幸せを感じていたのだった。

 



◇◇◇




「……そして、大魔法使い様のおかげで、世界中のみんなが幸せになりました。おしまい」


「お前ら、またこんなの読んでんのかよ」

「うん! このえほん、すきだもん」

「ふふ、お母さんと一緒だね」


「こんなボロボロの本の、何がいいんだか」

「このひと、おとうさんに似てるからすき!」

「…………あっそ」




 fin.


これにて本編完結となります。


WEBのラストを変更し、完全書き下ろしとなる書籍3巻(完結)が発売中です。


挿絵(By みてみん)


見てくださいこのハッピーな表紙を……( ; ᴗ ; )‬


【あらすじ】

大魔法使いであるエルが、世界を滅ぼす厄災を封印してから三か月。ジゼルは神殿で働きながら、エルや仲間達と幸せな日々を送っていた。しかしエルの体は厄災の影響で穢れに侵されており、治療のために姿を変え、魔力を封印することに。そんなある夜。 「君を迎えに来たんだ。僕の花嫁になってもらう」ジゼルはエルと共に、グローヴァー王国の第一王子ジークベルトに攫われてしまう。そこで明らかになるジゼルの特別な力と、本当の家族。そして、母の祖国であるこの国が存亡の危機に瀕していると知り――二人の過去と未来を繋ぐ、愛にあふれた感動の完結巻!


ふたりが最後の困難を乗り越えるお話、そしてハッピーエンドな結婚式、初夜、子供が産まれた未来まで、大判書籍1冊分まるごと書きました!!


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


美しい素晴らしい口絵、挿絵も……!( ; ᴗ ; )‬ WEB版では出てこなかった神殿組の最後の一人も出てきます♪


ぜひぜひ読んでいただき、エルとジゼルを最後まで見守っていただけると嬉しいです……( ; ᴗ ; )‬


そしてコミックスも2巻まで発売中です!

ほんっとうに素晴らしくて可愛くてかっこよくて、最高の形で家逃げの世界を描いてくださっています……!!

本当に本当に神です。


挿絵(By みてみん)


今後ともエルとジゼルをよろしくお願いします!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 全て [一言] 最高でした!! 全てがよかったです!ありがとうございます!!!
[良い点] 読み応えがありました! 最初と最後が同じ場面なのに、エルの心の変化を追い続けた後では感無量でした。えばりんぼうで口が悪くて、素直じゃないエルを幸せにしてくれてありがとう。 普通この手の…
[良い点] コミカライズを読んで続きが気になって、こちらも拝見させて頂きました ジゼルちゃん良い子で可愛いし、エルくそ生意気だけど後半だいぶデレてきて可愛いけどカッコイイ 書籍版の方も楽しみたくて早速…
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