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家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら  作者: 琴子
第四章

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目を閉じて、耳を塞いで 7



「お前、もう俺のこと好きだろ」 


 エルのそんな言葉の意味は、流石にもう分かっていた。


 ──今日、シャノンさんと一緒にいるエルを、彼女に触れているエルを見ると、何よりも嫌な気持ちになった。


 エルがユーインさんやクラレンスと一緒にいたって、絶対にそんな気持ちにはならない。それがきっとわたし以外の女の子だったとしたら、同じ気持ちになってしまうのだろう。


 少し前までは、エルは将来どんな女の子を好きになるんだろう、紹介してくれる日が楽しみだと本気で思っていた。


 けれど今はいつか現れるかもしれないそんな女の子が、わたしよりもエルと長く一緒にいること、わたしより優先されることを想像するだけで、泣き出したいくらいに胸がぎゅっと締め付けられた。


 ずっと、エルのことは大切な家族だと思っていた。出会った頃なんて、スレきってしまった弟のような彼を更生させなければ、なんて思っていたのに。


「……わたし、エルが好きだよ。もしもこれが恋愛の好きじゃないなら、一生誰かを好きになることはないと思う」


 いつの間にかわたしは、そんな彼を誰よりも好きになってしまっていた。その頃の自分にこのことを話せば、面白くもない冗談だと笑い飛ばされてしまうに違いない。


「それとね、友達としても家族としても好き。わたしの中にある全部の好きが、エルに向いてると思う」


 今だって口も態度も悪いけれど、本当は優しいことも、わたしを大切にしてくれていることも、誰よりも知っている。


「……わたし、こんなにエルのこと好きだったんだね」


 それからは何度も、好きだと言葉にしているうちにしっくりときて。どんどん彼への気持ちを、実感していく。


 そうしているうちに、不意に「もういい」と呟いたエルによって、わたしは抱き寄せられていた。


「……お前さ、恥ずかしくないわけ」

「えっ?」

「言いだした俺の方が恥ずかしいんだけど」


 そう言ったエルの顔は見えないけれど、もしかして今彼は照れているのだろうか。


 確かに好きだと言いすぎた感はあるけれど、今まで何度も何十回も伝えてきたのだ。全く恥ずかしくなんてない。


「全然。本当のことだもん」

「そもそもお前、あんなに俺のことはそういう好きにならない、とかなんとか言ってたくせに」

「……エル、その話根に持ちすぎじゃない?」

「は? お前が悪い」


 本気で怒り出しそうなエルに、思わず笑ってしまう。


「エルって、いっつも偉そうだよね。あの時も俺以外を好きになるとか許さねえ、なんて言ってたし」

「当たり前だろ」


 いつものように、エルはそう言ったけれど。やがてわたしの口からは「エルも?」という問いが溢れた。


「エルも、わたしのこと以外好きにならない?」


 なんだかいつも、わたしばかりそんなことを言われ、不公平な気がして。そんな訳の分からない質問をしてしまった。


 とはいえ、わたし以外、なんて言い方をしてしまったものの、そもそも彼に「好き」と言われたことすらないのだ。だからこそ、聞き方を間違えてしまったなと思っていたのに。


「ああ」


 エルはいつもと変わらない様子で、まるで当たり前のことのように、そう言い切った。


「…………エルってわたしのこと、好きなの?」

「は? 嫌ってるようにでも見えてんのかよ」

「そういう訳じゃ、ないけど……」


 彼に好かれていることにも、もちろん気が付いてはいた。


 けれど一度だけ「わたしのこと大好きだね」という言葉に対して「そうかもな」と言われたことがあるだけで。こんなにもはっきりと、彼から好意を示されたのは初めてだった。


「う、うれしい、どうしよう」

「……あっそ」

「ねえ、それってどういう好き?」


 何気なくそう尋ねると、エルは真剣な表情を浮かべて。ニつの碧眼で、まっすぐにわたしを見つめた。


「お前は、俺とこの先どうしたいわけ」

「えっ?」


 そして、質問に対して質問で返されてしまった。


「もちろん、ずっと一緒にいたいと思ってるよ」

「お前が死ぬまで、ずっと?」


 何故急に、そんなことを尋ねられたのかはわからない。


 けれどそんな問いに迷わず頷けば、エルはわたしを抱きしめる腕に力を込めた。


「……分かった」


 一体、何がわかったのだろう。けれどそれから、エルは何も答えてはくれなくて。結局、質問の答えも曖昧なまま、わたしはずっと抱きしめられ続けていた。




◇◇◇




「……エルともリネとも、離れちゃった」


 あれから一週間が経った今日、くじ引きによって宿泊実習の班分けが行われていた。男女3人ずつの6人班だ。


 王都から少し離れた森の中で行われるそれは、自然と触れ合う機会を作るのが目的らしい。


 野外で自分達で料理をしたり、テントを張って寝泊りしたりするんだとか。とても楽しそうだ。


「なんでお前と同じ班なのよ、エルヴィスもいないし。そもそも外で泊まるとかなに? あり得ないんだけど」


 そしてわたしはなんと、シャノンさんと同じ班だった。


 けれど彼女はテントで寝泊りなんてありえない、とかなり怒っている様子で、先程からずっと文句ばかり言っている。それでも、参加をするつもりではあるらしい。


「お前、私の分まで働きなさいよ」

「がんばります……」


 やがてそんな約束をさせられたわたしは、逃げるようにエルの元へとやってきた。エルはリネと同じ班らしい。

 

「同じ班が良かったね」

「そうだな」


 つい「えっ」と言いそうになったのを、なんとか堪えた。なんだかあの日以来、エルの態度が更に変わったような気がする。最近の彼は怖いくらいに優しくて、素直なのだ。


 そんなエルを見たリネからも「もしかして、お付き合いを始めたんですか?」なんて尋ねられたくらいで。


「あんま他のやつと仲良くすんなよ」

「わ、分かった」


 そして前よりも、エルはやきもち焼きになった。そのせいでわたしは、落ち着かない日々を過ごしていたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 両思いおめでとうございます!! やきもち焼きになるエルがたのしみ…
[良い点] >わたしの中にある全部の好きが、エルに向いてると思う なんという悩殺文句! こんな言葉が出てくるなんて琴子先生素晴らし過ぎですっっ ちょっ、流れ弾で私までジゼルにやられそうに……っっ(*…
[良い点] 二人のやり取りが可愛くて甘々でキュンキュンします〜(〃ω〃) エルが素直で優しくてヤキモチ焼きになってるの、めちゃくちゃいいですね!もう最高すぎるとしか言えない…! このままどんどんジゼル…
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