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家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら  作者: 琴子
第三章

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まる、さんかく、しかく 1



「ねえ、エル。明日ね、クラレンスからお詫びにケーキをご馳走してもらう事になったんだけど、一緒に行かない?」


 エルの体調が良くなった数日後、わたしの元へクラレンスから手紙が届き、先日約束したケーキを食べに行こうというお誘いが、お手本のような丁寧な字で綴られていた。


 きっと彼は大好きなエルと気まずいままで、辛い思いをしているに違いない。そう思ったわたしは、勝手ながらエルを誘うことにしたのだ。


 とは言え、いつもの様に「面倒くさい」「だるい」「行かない」と言われてしまう気がしていたのだけれど。


「わかった」

「えっ」


 まさかの彼の返事はイエスだったのだ。思わず驚いてしまい「なにか文句あんのかよ」と言われてしまった。


「ううん、とっても楽しみ。あっ、そうだ! 帰りに少しだけドレスを見てもいい? 来週王城に行く時の買わないと」

「勝手にしろ」


 そうしてわたしは、クラレンスに「エルも一緒に行ってくれるそうです。楽しみにしてます」と、返信用に入っていた便箋に返事を書いた。


 そして指示通りに折り畳み窓から飛ばすと、それはふわりと鳥の形になり、空高く飛んでいったのだった。




◇◇◇




「エルヴィス様、本当に申し訳ありませんでした……!」


 そして当日。待ち合わせ場所に現れたクラレンスは、いきなり地面に両手を付き、頭を下げた。


 彼の気持ちは痛いくらいに伝わってくるけれど、ここは王都の街中のど真ん中なのでやめて欲しい。行き交う人々の視線を集めてしまっている。


「さっさと立て、クソメガネ」

「許してくださいますか……?」

「寝る暇もないくらい修行しろ」

「はいっ! ありがとうございます!」


 彼の場合、本当に寝ないで修行しそうだから怖い。けれどそれから二人はいつも通りになっていて、内心ほっとした。


「良かったですね、クラレンス」


 そう、そして今日はユーインさんもいるのだ。丁度彼も今日は休みだったらしく「私だけ仲間外れなんて酷いです」なんて言って、いつもの柔らかい笑みを浮かべていた。


 エルはクソメガネと言ったけれど、今日も彼はあのメガネをかけていない。さらりと長めの若草髪が揺れている彼は、誰がどう見ても美少年で。エルやユーインさんといることで余計に、辺りの女性の視線をかっさらっていた。


 それからは、クラレンスが予約してくれたというカフェに向かったのだけれど、なんとそこは王都一の人気を誇るお店だった。クラスメイトの女の子達から話を聞いたことがあって、ずっと気になっていたのだ。予約が取れないことでも有名だとも聞いていたから、余計に驚きを隠せない。


「ここ、ずっと来てみたかったの! 予約取れないって有名なのに……ありがとう、すごく嬉しい!」

「フン、適当にたまたまうっかり選んだだけだ」

 

 わたしに対してもいつも通りの態度に戻っていて、なんだかほっとする。刺々しい態度に慣れていたせいか、控えめな彼の態度はなんだか落ち着かなかったのだ。


「うわあ……! 美味しそう! エルはどれにする?」

「美味いやつ」

「きっとどれも美味しいよ。うーん、わたしはこれかな。半分こするのもいいね」


 メニューを見ながら悩みに悩んだ末に注文を終え、やがて運ばれてきたケーキと紅茶はびっくりするほど美味しくて。ほっぺたが落ちるんじゃないかと、本気で思った。


 エルも気に入ったらしく、黙々と食べている。可愛い。


「美味しい……しあわせ……」

「お前は折れそうなくらい細いんだ、たくさん食え」

「ふふ、ありがとう」

 

 なんだかんだ、彼は優しい。ふと顔を上げれば、甘い蜂蜜のようなクラレンスの瞳と視線が絡んだ。


「そういえば今日もメガネしてないんだね。こないだもしてなかったし、もしかして予備がないとか?」

「いや、ある」


 他人と目を合わせるのが苦手だと言ってたのに、どうしてだろうと不思議に思ってしまう。


「どうして掛けないの?」

「お前が、綺麗だと言っていたから」

「えっ」

「えっ」


 そんなことをさらりと言われ、どきりとしてしまう。まさかわたしの一言が原因だったなんて、思いもしなかった。


 驚いたのはわたしだけではなかったようで、斜向かいに座るユーインさんもまた、戸惑ったような声を漏らしている。


 けれど本当に隠しておくのが勿体ないくらい、彼は綺麗なのだ。嬉しくなって、笑みが溢れた。


「絶対、そっちの方がいいと思う。本当に綺麗だもん」

「そうか」

「うんうん……ってエル、ひどい!」


 すると不意に、エルはわたしが大切にとっておいたケーキの上の大きなイチゴを、ひょいと食べてしまった。


「最後に大事にとっておいたのに……」

「くだらねえ話ばっかして、さっさと食わないから悪い」


 理不尽が過ぎる。けれど結局エルに甘いわたしは、怒ることなんて出来ずに許してしまうから、どうしようもない。


 それからはクラレンスに勧められ、あとふたつもケーキを食べた後、わたしは幸せな気持ちでカフェを出たのだった。




 その後ドレスを見に行くと話せば、ユーインさんとクラレンスも一緒に行くと言ってくれて、四人でお店に入った。


 雑貨から服まで何でも置いている人気の大きなお店で、値段の割に質の良いドレスが多いらしく、クラスメイトの女の子からオススメだと聞いてやってきたのだ。


 正直わたしはドレスにあまりこだわりはなく、とにかく髪や瞳の色に合っていれば良いと思っていたのだけれど。気怠げに入り口近くの椅子に座っているエルとは違い、クラレンスはわたし以上に真剣に選んでくれている。


「壊滅的にセンスがないな」

「す、すみません……」

「お前には、こういう方が合うに決まっているだろう」


 彼は意外とセンスが良いらしく、勧めてくれるものはどれも可愛くて、何よりわたしに似合う気がした。そして、彼が一番いいと言ってくれた淡い桃色のドレスを試着してみる。


「やはり、よく似合っている」

「本当? じゃあ、これにするね。クラレンス、一緒に選んでくれてありがとう」

「別に、大したことじゃない」


 やっぱり、素直に褒められると照れてしまう。それにわたしも女の子なのだ、嬉しくもあった。


 結局、自分が買うと言って聞かないクラレンスを必死に止め、ドレスを自分で買い店を出る。そしてユーインさんとクラレンスに改めてお礼を言い、別れようとした時だった。


 エルがクラレンスに突然「おい」と声をかけた。彼に話しかけられて嬉しかったのか、クラレンスは笑顔で振り向く。


 するとエルはわたしを指差し、そんな彼に言ったのだ。


 「お前、こいつに気あんの?」と。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすいし、登場人物が皆とても魅力的。 [気になる点] 主人公が炎と光の二属性ということですが まだ炎魔法に対してどうなっているのか書かれていないのが 気になります。 [一言] 読み始…
[一言] 琴子先生の書かれるお話は相変わらずキュンキュンさせるのが上手すぎます…!! 初手料理のデレ期も可愛かったですし、今回は嫉妬…! ジゼルを取られないようにがんばれエル! はぁぁ~っ 次回どうな…
[良い点] ド直球(笑) エル、可愛いが過ぎる~ メガネ君がこんなに良い男になってしまって、この先どうなっていくのかドキドキですっ!
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